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小林晴幸のネタ放流場  作者: 小林晴幸
ネタの放流場
36/55

転生少女があげる鬨の声

 ちょっぴりお馬鹿さんな美少女フローラちゃんは、ある日思い出した。

 自分の前世を、その終焉を……屈辱と恨みは忘れ難く、彼女は復讐を誓う。

 ――冷酷非情な魔王軍に使い潰され、挙句にぼろぼろの体で勇者にぶつけられて死を迎えたオーガ。

 その記憶と身体能力を継承して生まれたフローラちゃんの、魔族への復讐(嫌がらせ)がいま……はじまる!


 ……という設定の話が思い浮かんだのですが、書き出したら長くなること確実。

 なのでいつもの事ですが、物語の出だしと設定のみ書いてみました。

 



 ――この身を縛る、鉄の鎖。

 冷たいはずのそれが、時に灼熱となって我が身を焼き焦がす。

 どれだけ疎んでも、肉体を深く傷つけられても、外すことは叶わない。

 

 無念だ。


 首と、両の手首。そして足。

 五か所に嵌められた鉄枷には隷縛の呪。

 念入りに深く刻まれた呪いの刻印は、魔族が己の所有する奴隷にそのまま刻むもの。

 我が肉体にも刻まれようとしたが、身に宿る回復力と強靭な皮膚は刻印を寄せ付けなかった。

 魔族は思い通りにならぬ腹いせのように、鉄枷に刻んだ呪いを強く重いものにした。

 だが、我は耐えねばならぬ。

 どれだけの屈辱を受けようと、どれほどの痛みと苦しみに苛まれようとも。

 ただただ、黙って耐え続けねばならぬ。

 心を燃やす憎悪を、胸の内に封じ込み……耐えて、奴隷の身に甘んじねばならぬのだ。

 黙って従わねば、一族が無用の責め苦を受ける。

 一族の者達の無事を保証する。

 その言葉を信じ、我は奴らの(とりこ)となった。

 それももう、随分と昔のことに思えたが。


 我が一族の者達には、もう長く見えること叶わずにいる。

 それでも、彼らの無事を信じて……従わねばならぬ。

 故郷に置いてきた我が妹は、息災であろうか。

 兄の子は、もう戦士の試練に挑む頃合いであろうか。

 全てはみな、遠い彼の地でのこと。

 懐かしさも、恋しさも、切なさも。

 全て殺し、彼らが昔から変わらぬ営みを続けられていると信じて。

 我は、己の有するすべてを捨てて、縛された身で言われるがままに戦い続けた。

 自分が望んだわけではない、戦士の誇りも何もない、無為な争いに身を投じ続けた。

 

 こんな日々がいつまで続くのか。

 考え、その度に意味のないことと自嘲した。


 いつまで。

 それは、きっと。

 我のこの肉体が滅ぶまで。

 死ぬ(その)時まで続くに違いない。


 約束をもしも(たが)えれば。

 胸中に疑念とともに言葉が浮かぶ。

 息災であるようにと家族の無事を願うとき。

 我が身の滅びるは、どのように悲惨で無為な戦場かと虚しく思うとき。

 魔族と我との約定が、もしも破綻を迎えたとしたら……そう、考えるとき。

 我の胸の奥では、熾火が憎悪を食らって赤々と燃え上がる。

 魔族が約定を違えていたら。

 その時こそは……



 どれだけ縛されようと、どれほどの呪いに圧し潰されようと。

 その時を迎えれば、我はこの首を引き千切られようと手足を失おうとも。

 決して、決して奴らを許すまい。

 八つ裂きにされようと、肉体が滅びようとも、必ず。


 かならず……




 だが、我は結局。

 その日を迎えることなく、命を終えた。



 戦場に降りしきるは涙の如き灰色の雨。

 元より灰色の世界を、一層のこと酷薄に変える。

 幾千、幾万の戦いを経て、我が肉体は既に滅びを目前にしていた。

 最早傷も塞がらぬ。

 体中に走る夥しい傷口からは、この時にも耐えることなく血が噴き出していた。

 流れる血も、流れる端から雨に濯がれていく。

 しかし僅かな間のみ、涙雨に混じって赤い色が黒と白と灰ばかりの視界を彩った。


 今、この時、この戦場にて二本の足で立っているのは既に我と相手のみ。

 魔族共に命に代えても討ち果たせと命じられた相手は、滅びの灰に染まった世界で唯一、鮮烈な光のような男であった。

 堂々とした立ち居振る舞いからも、何者にも恥じぬ男の生き方が伝わってくる。

 誇り高き男だ。

 後ろ暗いことを寄せ付けぬ、光の如き戦士だ。

 戦場のただ中で、戦い続けることに疲れ果て……死を目前にした我には、男の姿が救いに見えた。


 ――勇者。

 希望と救いへの渇望を込めて、人類に呼ばれる男。


 男は我よりもずっと小さな体をしていたが、その存在は、魂の強さは我よりも遙かに大きく輝く。

 例え命じられ、強制されたことだとしても。

 我は、最期にこの男と戦えることを祝福の如く受け入れた。


「その首の拘束は……魔族の隷属呪か。待っていろ、すぐに解除して、」

「戦士よ。名のある戦士よ。そなたに武人としての情けあらば、我と戦ってくれ」

「その体で戦う気か。呪いを受けて戦いを強要されているのだろう? 私と君には、戦う理由など一つもない」

「我にはある。我が命はもう長くない。……最期は、戦いの中での死を得たいのだ。戦士にとって、誇りとなる死を与えてはくれまいか」

「だが!」

「……この呪縛を解くことは叶わぬ。察してくれ。この身には、一族の命がかかっている」

「………………魔王軍め」

「例えこの身に自由がなかろうと、魂には自由を……さあ、勇者よ。戦いの時だ。互いに剣を交えるとしよう」

「誇り高き戦士よ、君に最大の敬意を払うことを誓おう。私は、死力を尽くして君と戦う」

「勇者よ、感謝する」

「私の名はウェアラキオン。君の名は」

「我が名はレフサーク。そなたら人間がオーガと呼ぶもの、炎紫(ほむらむらさき)の氏族長が第三子レフサーク」

「レフサーク……君とは、別の形で会いたかった。戦いたかった。きっと、真の友となれただろうに」

「その言葉で我の魂は報われる。友よ、必ず戦い抜いてくれ」

「ああ、必ず。誓おう。必ず、君に安息を与え、そして魔族を倒してみせる」


 

 そうして、我は死を得た。

 互いに敬意を払える戦士との、真なる戦いの果てに。

 束の間の安らぎ。

 彼の戦士であれば、必ず我の代わりに魔族共を討ち取ってくれると……願いを託すことの出来る、最期であった。




 我が虜囚となった後、我が一族の里が魔族に攻め滅ぼされていたことを知ったのは……遠い、来世でのことであった。




 そうして、復讐鬼が生れ落ちる。

 ただし来世は時代も変わり、すっかり魔族の姿も形も見えなくなっていたのだが。




 



 



 ――私が『前世』と呼ぶべき記憶(もの)を思い出したのは、ある日唐突なこと。

 5歳の時の、春の日のことだった。


 誕生日を迎えたばかりの私に、兄が根気強く何事か教えていた。

 確か、足し算と引き算の基礎について、だったかな?


「だーかーらぁ、ここにリンゴがみっつあるとしてだよ!?」

「でもリンゴなんてどこにもないよ、おにいちゃん!」

「たとえ話だよ! リンゴがみっつ、ここじゃないどこかにあるの!」

「どこかってどこ?」

「モンタナくんとアルフレッドくんのところだよ!」

「モンタナくんってだぁれ? アルフレッドって庭師のアルフレッド?」

「だから実際の人物じゃないんだってば……おはなしの中のひと!」

「おにいちゃん、フローラ、リンゴ食べたい」

「もうっもうっもーう!! どうしてそうなるの!」

「おにいちゃん、リンゴー」

「もう……フローラ? きみ、前世はオーガか何かだったんじゃないの!?」


 身近に異種族の存在を感じる機会も少なくなった人間社会でのこと。

 差別的な話ではあるが、この時代には多種族を引き合いに出して他者を貶める言い回しが少なからずあった。

 『オーガのように低脳』、これもその一つ。

 元オーガの身としては遺憾であるが、言われてみれば築いている文明に明らかに差があるのでそう思われても仕方がない。

 確かに考えることを苦手とする同胞(オーガ)は珍しくもなかったことであるし。

 

 そしてこの時、兄が理解力の低い妹に業を煮やしていった一言。

 私の魂の奥深くに、この言葉に反応するものがあった。

 それこそが、まさに前世から引き継いでしまったもの。

 今まで存在していることにすら気付いていなかった前世の記憶が、心の奥底で囁いた。

 ――流石は若輩ながら天才と名高き兄上。当たりだ、……と。

「すっごぉーい、おにいちゃん! 大当たりだよぉ! フローラの前世がオーガだったってどうしてわかったのぉ!?」

「は?」

 この時の兄の顔は何とも気の抜けた……戸惑いに満ちていた。




 


 





フローラちゃん

 本名:フローラ・レク・リエーション

 魔導と学識の名門リエーション家に生まれた愛らしい女の子。

 ちょっぴりお馬鹿さんだけど周囲を自然と笑顔にさせる温かい雰囲気の持ち主。

 前世の記憶を思い出してからは身の内に眠る超人めいた身体能力を発揮するようになる。

 見た目に反して凄まじい怪力と俊足、前世に比べて体重が軽いためか身軽。

 更には身体強化の魔法まで覚えてしまったので手が付けられない。

 年齢相応の常識は持ち合わせているが、逆に言うと年齢相応にしか常識がない。

 頭の素地は悪くない筈なのに、ついつい手っ取り早いからと物理的な方向に走りがち。

 前世の影響で武人の魂とか戦士の誇りとか、そういうものに響く事柄にはロマンを感じる。

 ふわふわのストロベリーブロンドに青い目。ミルク色のすべすべ肌の持ち主。

 大体いつもメルヘンで可憐なワンピースドレスを着ている。


アルお兄ちゃん

 本名:アルカス・レク・リエーション

 魔導と学識の名門リエーション家嫡男にして、フローラちゃんの3歳年上のお兄ちゃん。

 家の名に相応しい天才児で、幼いながらに魔法と学問の豊かな才能に恵まれている。

 (この世界の魔法は頭がよくないと使いこなせない。皆が知っている基本の魔法陣を個々人で改良していく方式だから)

 ちょっぴりお馬鹿な妹に呆れつつも甲斐甲斐しくお世話を焼いている。

 身体能力の異常すぎる妹の異常性を誤魔化す為、取敢えず徹底的に身体強化の魔法を教え込んで「妹の体力・身体能力が凄いのは魔法を使ってるからなんです……!」と周囲に思い込ませることに成功するが、妹の身体能力が魔法で底上げされて更にとんでもないことになってしまったことに頭を抱えている。

 妹の前世を知ってドン引きするも、それでも危なっかしい妹を放っておけずに翻弄されている。

 一見してフローラちゃんとは兄弟に見えないさらさらの青い髪に青い目。

 大体いつも濃緑のローブを着ている。


へカーテ・ルース・ルスティリア

 金髪碧眼の王女。フローラちゃんと同年齢。

 本格的な教育を始める前の家庭教師兼遊び相手としてアルカスが抜擢されたため、フローラちゃんとも交流を持つ。

 アルカスお兄ちゃんが大好き。

 性格:覇王


エンディミオン・ルース・ルスティリア

 金髪碧眼の王子。フローラちゃんの2歳年上。

 側近候補兼遊び相手としてアルカスが抜擢されたため、フローラちゃんとも交流を持つ。

 ちょっぴりお馬鹿さんなフローラちゃんの見た目と能力の大きな食い違いに興味を惹かれる。これも一種のギャップ萌……?

 性格:暴君(ジャイ●ン)



レフサーク

 フローラちゃんの前世。伝説の(オーガ)

 一族の者達を魔族から庇って散々使い潰され、最後は勇者の手にかかる。

 しかし勇者を手古摺らせたことと、知能が低いとされるオーガでありながら見せた深い度量と矜持によって勇者に一目置かれた。

 オーガは王様が必要な社会形態を築いてなかったが、レフサークは史上唯一の『鬼王(オーガキング)』として名を遺す。(人間側の認識)

 魔族の虜囚に堕ちてなお、戦士の誇り高い魂を持ち続けた。


勇者ウェアラキオン

 魔族との戦いで常に先頭に立ち続けた高潔な勇者。

 数多くの魔族を倒し、圧され気味だった人間の軍勢を盛り返させた。

 しかし種族闘争の前線に立ちながらも種族差別を忌み嫌い、相手の魂や人格、振る舞いを見て接する。

 相手を認めれば例え敵であろうと敬意を払い、救いようのない下種と見なせば味方であっても厳しく対した。

 最後には魔族の王と数日間に及ぶ死闘を繰り広げ、満身創痍となりながらも魔王を封印することに成功する。

 味方であるはずの人間の多くは人間離れした勇者の強さに頼り切り、誰も一緒に戦おう、勇者を救おうとは考えず、ほぼ孤軍奮闘だった。

 魔王を封印した直後、まだ生きていたが勇者の力を恐れ、危険視した人間の王侯貴族が放った刺客によって魔族用に開発された術式で封じられる。

 その後、「勇者の仲間」を名乗る英雄達が王国に凱旋し、「勇者」は魔王と相打ちになって死んだとされる。

 封印によって時を止め、若い姿で眠り続けている。


魔王サンダル

 肉食系。

 目を合わせただけで呪われそうなギラギラした目をしている。

 世界のどの種族、どの人種とも異なる姿をしており、魔族の中にあってさえ異質。

 ただ魔族の王である為だけにこの世に生を受けた異形の王。

 ヘラクレスオオカブトのような形状の王冠を被っている。

 人間を昆虫と融合させる遊びが大好き。

 人間侵略大作戦は大体部下の四天王に丸投げ。



魔族

 魔王がいればこそ無尽蔵に魔力を振るえたが、力の源に等しい魔王を封じられて弱体化。

 その後、人間からの弾圧で滅びに瀕する。

 奥地の秘境でほそぼそと生き延びていたが、近年になって魔王が復活。

 未だ封印の影響で完全復活には程遠いが、弱ったままでも魔族を強化はできる。

 魔王の復活をきっかけに、魔族は再び世界を手中に収めんと人間に宣戦布告した。

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