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小林晴幸のネタ放流場  作者: 小林晴幸
ネタの放流場
34/55

失われた聖なる剣

 すっごい中途半端なネタが出てきました。


 勇敢なる若者よ。邪悪なる者どもをこの剣にて打倒し、我が国に平和をもたらしておくれ。

 国王はそう言って伝家の秘宝……王家に伝わる破邪の聖剣を若者に託した。

 最早、王家にこの剣を扱える者はいない。

 だからこそ王国の平和を導くため、王家に代わってこの剣を振るって欲しいと。

 選ばれた若者は、苦難を授けることが心苦しいと頭を下げる君主の前に、謹んで剣を受け取った。

 輝かしい栄光を約束された、未来の勇者サニー・ジョン。

 その、華々しい門出の瞬間であった。


 厳粛な儀式の様は三日と経たず千里を駆け巡る噂となり、伝聞ついでに尾ひれと背びれとターボチャージャーを生やしながら王都から四方八方へと向けて疾駆した。

 瞬く間に大陸一つを席巻し、海を挟んだ向こうにまで快速で噂が走る走る。

 それを耳にして堪ったものじゃないと憤慨したのは、王国に仮想敵国扱いされている大河を挟んだお向かいさんの王国だ。そこは伝統的に魔族の王が治めていた為、「邪悪なる者ども」という王の表現がダイレクトに自分達のことを指しているのではないかと大いに憤慨した。何しろ「邪悪なる」という形容詞は遥か太古の昔から魔族の皆さんを蔑視する際に用いられる差別用語でも、代表格トップ10に入る使用頻度で活用されている差別的表現だったからだ。ちょっと俺らの肌が地黒で黒い角に黒い翼とか生やしちゃってるからって邪悪扱いはないんじゃねぇの? あぁん? 俺ら人種的に顔黒いだけだし。というのが昔から人間さん達に差別されてきた魔族の言い分(チンピラ風味)だった。

 差別するモノと、差別されるモノ。両者の間には現実に王国と王国の間を流れる大河よりも深くて広い溝がある。二国の関係は楽観視できない地雷を抱えており、彼の王国に伝わる聖剣からして初代国王が対魔族戦を想定して作らせた魔族に深刻な被害をもたらす兵器だった、という不動の歴史的事実がある。そもそもその剣が大活躍した戦乱からして、他所の土地での勢力争いに敗退した人間さん達がこの辺の土地に流れてきて、先住していた魔族相手に領土争いを起こし、魔族から土地を強奪する為に大暴れしたという闇に葬られた事実があった。寿命の短い人間側は既に戦争の事実を忘却していても、虐げられついでに土地を追われた魔族さん達はばっちり今の時代にも記憶を完備していたが。いつの時代もいじめた側より、いじめられた側がしっかり執念深く記憶を残しているモノである。

 ……最近、人間側の王国は人口増加に伴って土地が不足していると聞く。

 いつまた人間と戦争になるかと備えを怠らずに諜報員を潜伏させて人間側の王国の実情を調査しまくっていた魔族の皆さんは、思った。

 また自分達の都合が悪くなったから、魔族(おれ)達にツケを払わせる気か……と。

 このままじゃ時を置かずしてまた戦争が始まるに違いない。

 二国の間には大河が流れており、争うのも骨が折れるが実力優秀な魔族の皆さんにとってはやりようがない訳じゃない。むしろそこは空を飛べない人間さん達の方が不利だ。

 不利なはずなのだが……対魔族用の殲滅兵器『聖剣』が人間たちの手にあることが、大きな懸念だ。

 そもそも『聖剣』だなんて伝説になるような兵器(アレ)があるからこそ、人間たちも調子に乗るのだろう。

 頭の痛い思いで対策会議を開いていた魔族上層部の皆さんは、一つの結論に達した。


「本格的な戦争が始まる前に、聖剣(アレ)どうにかしとこう」


 もちろん、相手は対魔族用に作られた兵器。

 それが古の時代に作られたものだとしても、魔族が一族郎党ひっくるめて種族的な超進化でも遂げていないことには有効打を喰らってしまうことだろう。だからこそ油断は出来ず、楽観視はご法度だ。真っ向からの正面勝負など、以ての外である。

 だから魔族の皆さんは、聖剣対策本部を打ち立てた。

 代表は魔王の一人娘キャロライン姫(5)である。

 ちなみに伝統と格式にのっとって対外的に魔王の血族が代表を務めなければならないのに他の主だった人員がそれぞれ忙しく、適当な人材がいなかったからこそのお飾り代表であった。だからキャロラインちゃん5歳の他に、ちゃんと実際の統率を担当する補佐官(実質上の代表)が存在する。優秀有能であったがために魔王に見出され、貧乏故に満足に得られなかった勉学の機会を個人的に支援してもらい、故に魔王と王家に絶対の忠誠を誓った青年ガードキープ君20歳だ。彼はキャロラインちゃん5歳が1歳の時から近似として側近く仕えることを任命され、その絶対の忠誠心でもって姫に仕えてきた。実際やってることは乳母と大差ないというか乳母以上に乳母であったが、つまりはキャロラインちゃんを抜擢することは=ガードキープ君が実際の裏ボスとして君臨するということ。その才能を遺憾なく発揮して姫の実績を積み上げる為、引いては姫の覇道の一歩を作る為、ガードキープ君は張り切って聖なる剣の廃棄(スクラップ)大作戦に乗り出した。

 

 そして聖剣対策本部の第一回会議でガードキープ君が放った名言がコチラである。


「聖剣を物理的にどうにかするのが難しくても、振るうのは人間……だったら使い手の方をどうにかしましょう」


 対策本部のメンバーとして選出された魔族の皆々様は目から鱗をポロリして叫んだ。

 盲点であった――!と。

 ガードキープ君の発言によってみるみる形になっていく対策方針。

 第一回の廃棄(スクラップ)作戦は、人間を篭絡するにはどうするか――その基本に還ろう、ということでまずは定番からいってみることになる。

 

 ハニートラップである。


「それが駄目だったら借金漬け作戦を実行しましょう。念のため、同時進行で下準備しますよ」

「ガーディくん、しゃっきぢゅけってなぁにー?」

「あはは。金銭的猶予がないというのに泥沼にはまって首が回らなくなる阿呆を人為的に再現する作戦ですよー、姫」

「うー??? ガーディくん、わかんなーい」

「あはははは。うちの駄目オヤジ2号を作るってことですよー」

 無邪気に首を傾げる姫君5歳と、朗らかに笑う青年20歳。

 何故かいつも肩車という姿で対策本部に現れる主従二人組から、他のメンバーはそっと目を逸らす。

 あの兄ちゃん、絶対に姫の教育に悪いよと思ったが、それは口に出さぬが花というヤツだった。





 タイトルが「失われた~」となっているので、恐らく魔族側の裏工作で勇者が聖剣失くしちゃったよどうしよう、みたいなお話を書くつもりだったかと……どうするつもりだったのか、忘れてしまった小林です。

 多分、聖剣は質流れする予定だった気がします。

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