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小林晴幸のネタ放流場  作者: 小林晴幸
ネタの放流場
28/55

キミと親友

過去の書きかけデータから、またなんぞ発掘しました。

これも中々カオスなことになっているようです。




 十年前、三歳の君は僕の家の隣に引っ越してきた。

 それ以来、僕と君はいつもいっしょだったね。

 まるで、キョウダイみたいに。


 いつも一緒だったから、兄弟と間違えられたこともあったっけ。

 大きくなってからは、カップルと間違えられたことも。


 だけど僕と君は、そういうものを超越していて。

 僕は君のことを親友だと思っていた。

 男女の性別をこえた親友だって。


 でもそう思っていたのは僕だけだったっていう話。



 僕と君が飛び越えたモノは、性別だけじゃなかったんだね。





   


   【 キミと親友 】






 中学生になってから二度目の夏、事件は起きた。

 僕らは近所の田んぼにタガメを取りに行く途中で、手に持っていたのは小さなバケツと釣り用の網くらいで。

 ウエストポーチの中にはおやつのスルメと、空いていた左手にラムネ瓶。

 とても身軽な姿のまま、僕達は突如として見知らぬ森に迷い込んだ。

 どこだ、ここ。

「さっきまで田んぼ沿いの畦道にいた筈なのに……!?」

 びっくりだった。

 見あきるほどに知っていた筈の道は、まっすぐ国道まで続いていて。途中に森への分かれ道なんてどこにもない一本道だったのに。

 気が付いたら僕らは真っ暗な森にいる。いつの間に……!

「ゆーた、ご近所の田んぼってこんなミステリアスな場所だったっけ」

「いやいやいやいや、どう見てもここ未知の領域だよ!? 近所にあんな人面樹とか生えてたら絶対噂に……人面樹!?」

 なんてこった。

 目の前に広がる光景は、本物のミステリーだった。

 人面が生えてるくらいなら、気のせいかストレス性の錯覚だって誤魔化せたのに。

『ひぇっひぇっひぇ……久しぶりの御馳走じゃのぉ。生肉じゃあ……!』

 喋るんだよ。喋ったんだよあの木ぃ……!

 あろうことか木に生えた人面は不気味な笑いと共に嫌な予感満載の叫びを上げて、僕らに襲いかかって来たんだ。

 根っこがぼこぼこっと音を立てて、地面から引きはがされて。大きな幹と茂る枝葉を揺らし、人面樹は動きだす。

 僕らのことを捕まえようと、細長い根っこが鞭みたいにしなってこっちに跳びかかってきた。

 やられる……!

 平凡で平穏な田舎町でのんびり生きてきた平和呆けしまくりの僕には、こんな非常事態に太刀打ちできるスペックがない。

 僕達は何もかもわからないまま、こんな知らない場所で木に生えたおっさんに成す術もなく食われるしかないのか?

 足がガタガタする。逃げても逃げ切れる自信はない。

 それでも僕の親友は女の子だから。

 僕が何とかしなきゃって、そう思って庇おうとしたんだけど……

「下がって」

「え?」

「ゆーたは私が守る……!」

「ええっ!?」

 その時、僕が見たモノは……「信じるのが難しい」、そんな出来事で。


 何も2人の間には隠す物のない、気心の知れた親友。

 僕は君のことをそう思っていたね。

 本当の君のこと、何一つ知らないまま。

 僕は表面上の君だけを見て、君を全部知った気でいたんだ。


 まさか、君の手から。

 レーザーが発射される仕様になってるとか、思いもしなかったんだよ……!


 ガシャコッ

 

 場違いに金属質な音が、僕の耳を打つ。

 滑らかな白い肌だった筈の親友の左手が……あれぇ、肘から先がなくなってるんですけど!?

 え、食われた!? 青ざめながら凝視すると、なんだか様子が違う。

 ……君の肘の先、そんな金属質な輪っかとかはまってたっけ。やけに分厚いし太いし、無骨なんだけど……アクセサリーじゃないよね?

 さっきから許容量を超えた展開が続くせいで、僕の頭はポンコツになりかけていて。

 現実から逃げかけた意識は、でも次の瞬間、とんでもない光景を見せつけられて無理やり正気に戻された。


 親友の消えた肘から生えてきたのは、『銃口』だった。


 一体いつの間に君の左腕には、『レーザーガン』が内蔵されるようになっていたんだい?


 きゅぃんっ


 そんな音に先んじて、光が走った。

 圧倒的だった。

 光の走る左腕を、親友が少し動かしただけ。

 それだけで、人面樹は真っ二つになっていた。ご丁寧に顔面を焼き潰す形で。

「あ、あ、あわわわわ……」

「ゆーた、大丈夫!? 怪我はない?」

「ひ、ひひひひひひなこ! 僕のことよりそれなぁにー!?」

「これ? ……流石に誤魔化しは利かないか」

「この状況で誤魔化せるつもりだったの!?」

「良く聞いて、ゆーた。私はゆーたに嘘なんて吐きたくないから、正直に言うね」

「う、うん……!」

「実は私ね、銀河系外の遠い宇宙の彼方にある惑星の侵略国家が地球侵略の足がかりにする為に地球人を模して誕生させた人造生命体なの。有事の際、というか侵略作戦の開始時に侵略国家の先兵として戦うことを想定して、実戦配備に備えて色々と改造されてるから結構強いんだよ。私!」

「そんなさらっと重大でとんでもないことを軽く明るく打ち明けられても!? え、これ僕どう反応すれば良いの!? 驚くの、悲しむの、心配すべきなの!? っていうか改造って、ひなこの身体は大丈夫なの!? え、っと……辛い思いとかしてない? だったら僕、ひなこが辛いのに全然気付けなかった自分に凹むんだけど……」

「ゆーた……信じられないとか、怒ったりとかはしないんだね。私、ゆーたのそういうところ好きだよ。私のことを良くも悪くも信じてくれるところ」

「あれ、嘘なの?」

「ううん、ホント」

「だよね、ひなこはこういう場面で嘘吐いたりしないって僕知ってる」

「そう言ってくれるゆーただから、私が信じられるのはゆーただけだって思うんだ……何だか変な場所に来ちゃったみたいだし、何があるかわからない状況っぽいし。どうすべきか判断に迷うけど……大丈夫だよ、親友。どんな危険からも、私がゆーたを守るからね! 絶対に守り切るから!」

「そんな宣言されて僕どうしたら良いの。感謝して頼りっきりになる未来しか見えないけど、それって男としてどうなの?」

「だけど実際、きっと私の方が強いし適材適所だよ! 戦闘訓練だって受けてるし、私の身体に内蔵されてる兵器はレーザーガンだけじゃないんだから」

「ひなこの身体は本当に大丈夫なの!? って、あれ? そういえばさっきの質問にも大丈夫って返してもらえてない!? 大丈夫じゃないの!?」

 

 この時、君は笑うばっかりで僕の心配にあまり取り合ってくれなかったね。

 わざと逸らしてるんだって、顔を見ればわかったよ。僕に心配されたくないんだってこと。

 それはつまり、言及されたくないってことで……今まで、僕の知らないところで辛い思いをしていたんだと思うと、知らずへらへら笑っていた過去の自分に悔しくなる。

 なんでもっと、君のことを見ていられなかったのかな。あんなにいつも一緒にいたんだから、注意深く見ていれば気付けたはずなのに。

 それも仕方ないって、君は笑うけど。

 

 何が起こったのか、本当にわからない。

 突然の見知らぬ場所、いきなり襲ってきた化け物、それを左腕に内蔵されたレーザー兵器で焼き払った君。

 ……これ、僕どれに反応すれば良いんだろう。一番驚くべきタイミングを逃した感がして仕方がない。

 この時はまだ、僕も君も地球とは全然別の場所……ゲームや小説の中みたいな、『異世界』ってとこに飛ばされたなんて思いもしなくって。

 これからどうやって家に帰るのか、そもそも君を元の場所に帰すべきなのか。そこがわからなくって、僕は頭を悩ませたんだ。

 そもそも帰れないって現実に、まだ気付かないふりをして。


「それにしてもさっきの化け物、何だったんだろう……」

「……もしかして母星のライバル国家に誘拐されたのかな。もしくは侵略前の実験? 地球人の対応能力テストも兼ねて、兵器用に開発された人造生命体が放たれていたとか……」

「やめて、そっち路線はあまり考えたくない。それくらいなら妖怪とかの方がまだマシだよ……! っていうかよく考えると侵略って地球は大丈夫なの!?」


 いろんなものが、わからないことばっかりで。

 これからどうしたら良いのかすら、わからなくって。

 生き抜く術を心配するより前に、今の自分じゃどうにもならないことばかりを案じた。

 もっと自分の状況に手いっぱいになるべきだって、わかっていたけど。


 でも、なんでだろうね。

 僕は君が隣にいれば、それだけで万事がうまくいくような。

 何があったって、全部へっちゃらだって。そんな気がしたんだ。


「とりあえず人里を探してみようか。ちょっと待ってて、探査可能圏内に知的生命体の反応がないか調べるから」

「……それは助かるけど、ひなこ、ソレなに?」

「それ? ああ、この右手のこれ?」

「うん、それ。なんか棒状に光ってるけど」

「男の子の大好きなヤツだよ。ビーム●ーベルとかライ○セイバーとか、そんな感じのアレ。ここは物騒みたいだからね、すぐ動けるように武装しておかないと」

「さっきのレーザーガンじゃ駄目なの?」

「あれ、連発するには燃費が悪いんだよねー……一回使うとエネルギーのチャージに時間を食うし、長時間の使用向きじゃあないかな。あ、でも安心して! さっきも言ったけど他にも兵器は内蔵してるから! 外敵に対峙した際の安全は保障するからね」


 そしてそれはあながち間違ってもいなかったって話。




登場人物

佐久間(さくま) 悠多(ゆうた)

 中学二年生、13歳。

 友達思いで日名子とは男女の垣根を越えた親友。

 ちょっと気弱なところはあるし自分の為に奮い立つ気概はないが、誰かの為であれば無茶でも頑張れる男の子。

 本当の意味で人を信じることのできる、現代日本では絶滅が危惧される純心さを持つ。

 どう考えても明らかに少年の心の許容量を超えた事態に連続して直面するも、それで正気を失うこともなく。

 自分は信じるべき相手を信じれば良いと割切り、早い段階で状況を受け入れた器の大きい猛者である。


宮辺(みやべ) 日名子(ひなこ)

 中学二年生、13歳。

 朗らかで明るい悠多の親友。さっぱりした性格で男女問わず人気があるが、恋愛面で目立った噂はない。

 笑顔で接しながらも周囲に見えない壁を張っているタイプで、根本的に悠多以外の人間を信用していない。

 実は地球侵略を目論む地球外生命体が造った人造人間で、来るべき侵略の日に備えながら現在は目下のところ自分の配備された周辺状況に関する調査が主な任務。そして彼女と同じ立場の人造人間は世界各国に潜伏しているらしい。

 しかし侵略が始まれば自分の信頼する唯一無二の親友である悠多がどうなるかわからず、逆らえない母星の命令に唯々諾々と従いつつも将来を憂いている。

 自分を無条件に信頼してくれる悠多の為に何も行動を起こせずにいる自分を臆病者だと卑下し、そんな自分が嫌で仕方がない。

 異世界に来たと悟り、自分をがんじがらめにしていた全てのしがらみが消えたと気付いて弾ける未来まであと三日。



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