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小林晴幸のネタ放流場  作者: 小林晴幸
ネタの放流場
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魔王の娘と藁人形(※『魔王撲殺』次世代ネタ)

仕事帰りのバス停で、ふと唐突に思い浮かんだもの。

今後書く予定は特にありませんが、『魔王撲殺』の続編ネタです。

取敢えず思いついた範囲で書き出してみました。



 私の父はこの大陸の王様だけど、私の将来は安泰って訳じゃない。

 だって、玉座は世襲制じゃないから。

 この大陸は完全完璧、実力主義。弱肉強食の下剋上推奨。

 そんなところだから、私も今はお姫様だけど未来はどうかわからなかった。

 私の勉強を見てくれていた宰相さんが言う。

「姫様、この大陸の玉座は強者達が争い、戦いの末に勝敗によってのみ定まるもの。

ですので姫様には父君の亡き後を想定し、身の振り方を考えていただく必要があります。将来を見据えてよく考えておきましょう。親は、子より先に命を終えるもの。その時は絶対にやって来るのですから」

 宰相が言うには、私には幾つかの選択肢がある……けれどどの未来を選ぶにしても、準備が必要だって。

 父上の亡くなった後、ただ何もせず城を明け渡して市井に下るにしても、日々の糧を得る手段を身につけておかないといずれは野垂れ死に一直線。手に職を付けるなり、知識を蓄えるなりの下準備が肝要だって言う。

 大人しく城と玉座を渡さず、次代の王に名乗りを上げて他の玉座を狙う猛者達と戦うにしたって、私の今の実力じゃ危うい。その場合は修行して強くなり、時に備える必要がある。

 あるいは女という性を利用して、誰かに取り入り寄生……は言い過ぎかもしれないけど、結婚相手を当てにして生きる道もある。誰かを当てにして生きるなら、それなりに求められる技能なり気遣いなりを身につけないと。

 後は新しい王の臣下に下り、追従して生きるとか……うぅん、柄じゃない気がする。

 いろんな道が私の前にはある。

 どの道を選ぶも、私次第。

 だけど私は王の……魔王の、一人娘だから。

 どんな道を選んでも、次の王が誰であっても。

 否応なく注目を受け、関心を集めることになる。とても面倒臭いことにね。

 将来をどう定めようと、どの道にも長短があって私の思ったようには進まない可能性が高い。

 だからこそ後悔のない様、よくよく考えて未来を見定めなさいと……私は宰相に言われて育った。

 母上は私の好きなようにしたら良いって言ってくれた。

 でも、父上は……


 とても、今更だと思うの。

 私が年頃になってからいきなり、父上は私に結婚するように言うようになった。

 娘が成長するのを見て、父上は娘の将来が心配になったらしい。

 自分が死んだ後まで娘の生活と安全は保障できないから、自分の代わりに安心して託せる旦那様を得よ……なんて。

 とてもとてもとても、余計な御世話だと思うの。父上。

 私、将来はね?

 父上がいなくなっちゃった、その後はね?

 お城を出て、気ままに世界を見て回るひとり旅なんて、良いなぁ……って。

 そんな風に、漠然と思い描いている途中だったの。

 その未来絵図はまだまだ未完成で、脇が甘いし細かいところは定まってないし、とても具体的とは言えないものだったけど。

 それでも、これからゆっくり父上がいなくなっちゃう遠い未来までの間に、じっくりと腰を据えて完成させていくつもりだったの。

 なのに父上が安心できるような実力者に嫁いで、家庭に入れなんて。

 私が反発しても仕方ないよね。

 それに父上、私はまだ十三歳だよ?

 母上は私に、結婚するなら十六歳を過ぎてからにしなさいって言った。

 その十六歳まで、まだ三年もある。

 なのに父上ったら、私の了承もなしにいきなりお見合い話を三十件も持ってきて……すぐに終わるかっての。見合いして出会いを重ねて相手をちょっと知って、結婚するに値するかどうか考えて答えを出して。短いスパンでもそれを繰り返している内に、三十件全てを消化する頃には余裕で二十歳超えちゃうと思う。

 どうせなら父上の設定する最低基準をクリアした男達の中から、私が気にいる相手を探して選ぶ猶予を与えたいっていう親心だったらしいけど。

 でもやっぱり初っ端から三十件は多すぎると思うの。

 やっぱり、これは私が反発しても仕方のない案件だと思うの。


 だから。

 だからね、父上。



 私、家出します。


 



 ――そうして私は、私が小さい頃から身辺警護を一手に担ってくれていた、父上の四天王の一角……母上への忠義に厚いはじめ君を連れて、お城を飛び出した。

 はじめ君は気乗りしないみたいだったけど。

 でも私を一人にする訳もいかないから、渋々同行することにしてくれたみたい。

 ありがとう。はじめ君。



「へ、陛下ぁぁあああっ! 申し訳ありません、王女様に逃げられましたぁ!」

「逃亡を果たしたお見合い現場に、このような置き手紙が!」

 涙目の護衛兵達が竹竿に挟んで掲げ、献上してきた愛娘の手紙に目を通し。

 姫の父――黒闇大陸を統べる魔王陛下は盛大に口に含んでいた緑茶を噴き出した。



 





 

登場人物

・瀧本メリールネット(たける)

  魔王の娘。愛称はメリー。13歳。

  お姫様だけど割と自由奔放に育つ。

  最近縁談が増えてきて父に見合いを命じられ、むしゃくしゃして家出した。

  『武』という名前は両親が魂の故郷と呼ぶ謎の島国ニッポンの神話の英雄に由来するらしい。

  しかし英雄を『尊敬する人』と言った母から聞いた話の数々に、本当に神話に語られる『英雄』なのかと懐疑的な気持ちを抱いている。女装して騙し討ちとか尻から串刺しとか、どんな英雄だ。


・はじめ君

  魔王の四天王筆頭。藁人形。

  魔王の娘を護衛する任に就いている。

  おおらかで包容力があり、メリーの家出にも文句ひとつ言わずについてくる。口ないけどね!


(りん)

  魔王の友人である神の息子でメリーの幼馴染。親友。ドライな性格。

  メリーの家出の巻き添えを喰らうが、いつものことなのでさして動じていない。

 

松前(まさき) (はじめ)

  突如この世界に召喚された少年。勇者。

  実は事故で召喚されたのだが本人は露知らず。

  「勇者!?→利用される!」と思考展開して勢いで脱走し、餡蜜屋の前でメリーと出会う。

  得体の知れない藁人形のはじめ君に言い知れない恐れを抱いている。

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