世界を救え聖女様! ~選ばれた五人の戦士たち~
なんか一昨日の朝方、ふっと思い浮かんだネタです。
忘れない内に、思い浮かんだ範囲を急いで書き留めたのが、こちら。
ここからどう膨らませようか思案のしどころです。
神皇紀1,×××年――世界は、未曽有の危難に苛まれようとしていた。
上代の時代、大王テロメアが封じた太古の魔性が世界のいたるところで目覚め、暴威を振るう。
それらを束ねるのは魔性共の長……淫蕩な邪神の娘ネッシーパフ。
彼女の指先一つ、指示一つで幾多の平和な光景が戦地と化し、平原は燃え、浜辺は干上がり、そして大小さまざまな国々が闇と混沌に沈みゆく。
嗚呼、あの闇の軍勢を止めるのは誰ぞ。
この世界を救い、光と人類の安寧を取り戻すのは誰ぞ――。
血に塗れた時代の末に、世界を見守る神のお導きによって戦士が生を受けた。
魔性を再び闇に封じ、滅びかけた人の世を救う。
そんな使命を身に帯びて、天より降った魂と共に生まれた……五人の戦士が。
彼らは身の内に眠る天の眷属より力を借りて、各地に蔓延る魔の者どもと戦う術を生まれつき備えていた。
人類の反逆の、開始である。
そして、彼らが神のお導きでこの世に生を受けてから……十五年が過ぎた。
幼く若すぎる身で、邪悪を封じる過酷な旅は厳し過ぎる。
人類の焦れる思いに急かされながら急いで成長した彼らにも、旅立ちの時がやって来た。
今までは五人それぞれで分担して、己の住む地域の周辺のみに留まった悪の浄化。
しかしそれも、もう生国から遠く離れられないと心苦しく思う必要もない。
自分達の力が必要だ。必要としてくれる人達が、待っているんだ。
もう幼さを理由に自制する必要はない。
自分達を待つ人々を、助ける為に。
そして同じ使命を受けて生まれた、まだ見ぬ仲間達と合流する為に――
使命を受けた戦士達は、それぞれに合流を目指して旅を開始した。
一人を除いて。
彼らの度は使命の困難さもさることながら、苦労の連続であった。
時に行き違い、時にすれ違う。
そんな時もあった。
中々五人が揃わないことに歯痒い思いをしたこともある。
全員が揃えば身の内に眠る魂――天の眷属――の枷も外れ、今までにない力を振るえる筈なのだ。
同じ目的の為、同じ使命の為に。
やがて四人の戦士が集結した。
彼らの旅立ち、その節目であった夏至の日から……既に半年が過ぎようとしていた。
だが、まだ一人。
最後のあと一人だけが、未だ揃わない。
その一人の名はエクレーヌ・プチフォンダン。
『聖女』の名で呼ばれ、救いを求める者には何人であれ手を差し伸べるという。
彼、いや彼女は、五人の戦士達の中でも最も名の知れた者であり、その所在も判明している。
人類救済の地――神が下界に残した神器、その清らかな力に守られた『聖地』クリステル。
そこが、聖女エクレーヌの拠点であった。
彼女は早くに見いだされ……聖地に仕える神の徒らに引き取られ、彼らに守られて育ったという。
聖女の救いを求める人々は長蛇の列を築き、人々を思ってかすぐに旅立てる状況ではないという。
四人戦士達はいずれも最も有名で所在のはっきりした彼女の元を一度は訪れていたが、その度に神の徒らによって「聖女は多忙だ」と追い返されていた。
他の戦士四人が揃ってから、出直すようにと。
そして戦士達は、既に四人が揃っている。
人々の救済も重要だが、何より使命の達成が急務。
世界各地で暴れる魔性を迅速に封じてこそ、人々を救う早道となる筈だ。
今度は追い返させない。強い思いを胸に、戦士達は聖地へと足を運んだ――。
なるべくならば、出来るだけ長く。
聖女を聖地に留め置きたいと願っていた神官達も、一度は追い返した戦士達が……それも神官の言葉通りに聖女を除いた四人の戦士全員が揃って迎えに来たとあっては観念せざるを得ない。
見出してよりずっと聖地の奥深くで育てられた聖女にも、ついに旅立ちの時がやって来たのだ。
彼らを引き合わせるべく、神官達は聖地の深い場所へと戦士達を案内した。
案内を買って出た神官の浮かない顔が気にかかったが――。
戦士と言えど、彼らは十五歳という思春期真っただ中の青少年。
神官達の不審な様子を意識の端に留めながらも仲間になる最後の一人……それも『聖女』なんて呼ばれる女の子のことが今は関心を占める。だって思春期だから。
戦士達は、聖女以外の四人が四人とも健全で健康な少年達だった。
だからこそ『たったひとりの女の子』なんて言われると性格やら容姿やらが気になって仕方ない。
「エクレーヌちゃんってどんな子なんだろうね!」
「お前……会った事もない女子をいきなりちゃん付けか」
「噂ではなんでも妖精族の如きお姿だそうですよ」
「それってエルフ系で綺麗ってことかな、それともフェアリーみたいな可愛い系? わあ、めっちゃわくわくする!」
「顔なんてどうでも良い……性格さえ問題なくて、まともなら」
「それって僕らがまともじゃないって言ってるような……」
「まともなヤツ? 少なくともお前らの中にはいないよ」
「酷いことを言うなぁ、ライラック。君も僕らの仲間なのにね」
「仲間だよ。仲間だけど……同類になるつもりはない!」
「つまり結果的に世話役として全責任を君が担うことに」
「く……っ切実にまともな仲間が欲しい」
まだ見ぬ仲間への期待を膨らませながら、彼らは聖女との対面を待ち望み――
――そして、彼らは出会った。
先導の神官に導かれ、戦士達の前に聖女が現れる。
凛と佇み、聖職にある者らしく静かな眼差しを彼らに注ぐ聖女。
彼女は十五歳という年齢にそぐわぬ程に小柄で、初めて顔を合わせる仲間達に視線を合わせる為、いっぱいに首を傾けて彼らを見上げる。
赤茶色の豊かな髪を三つ編みに垂らし、緑の瞳を若さに煌かせ。
豊かな体を窮屈そうに白い巫女服に包んで、両手は胸の前で組み合わされ……
そして立派な髭が生えていた。
「「「「!?」」」」
豊かな、樽のようなずんぐりとした体型。
厳つく分厚い、物凄く強そうな肩を窮屈そうに巫女服が覆う。
今にも繊細なつくりの巫女服が筋肉ではちきれそうだ。
聖女は……どこからどう見ても黒妖精族だった。
少なくとも一見して十五歳の少女には見えない。
両手両足では頑丈で無骨な皮のグローブとブーツが巫女服にはそぐわぬ重圧な存在感を放っている。
そして、何よりもヒゲだ。
豊かで立派な髭が、最も大きな存在感を纏って存在している。
『聖女』の鼻の下から、顎を隠し、首を隠し、胸元まで垂れる髭。もみあげと繋がる、髭。
丁寧に編まれてピンクのリボン(小花の刺繍付き)で飾られる髭は、異質としか言いようのない。
未だ十五歳という若々しさ故に体毛も薄く、髭も生えていないか生えたって目立たない四人の少年達は衝撃を受けた。
先程まで聖女に期待を寄せて高鳴っていた胸が、今は別の理由で……切迫感さえ感じる程に高鳴っている。
それは決して、甘い男女のあれやそれやを連想させるような脈動ではない。
いわば――男としての敗北感、とでも言おうか。
強く男性を感じさせる象徴であるはずの、髭。
自分達よりも圧倒的に上の存在感を放つ、髭。
男として生まれたというのに……自分達はどうしてこんなに劣っているのか。
相手は女性で、更には同年であるはず。
同年代の少年達の中では感じたことの無い筈の劣等感が、四人の戦士を自然と委縮させる。
彼らは完全に意表を突かれ、びびって挙動不審に陥っていた。
だって女の子が現れると思ってたんだもん! 同じ十五歳の女の子が!
聖女(髭)が女の子であることに変わりはないのだが、女の子は女の子でもドワーフ(髭)の女の子だとは思いも寄らなかったのだ。
良く見れば聖女の顔立ちは確かに若々しく、女性らしい柔らかさや愛嬌を備えていたのだが。
何しろ顔の下半分は完全に赤茶色の鬚に覆われ、隠されてしまっている訳で。
その鬚と武張った肉体の視覚的効果によって、露出している部分の愛らしさを差し引いてもちょっと若いおっさんにしか見えなかった。
「皆様、はじめまして。私はエクレーヌ・プチフォンダンと申します。若輩の身ですが聖地に仕える上位神官としての技能を修めております。使命の旅を達成するには想像もつかない厳しい試練が待ち受けていることと思いますが、全力を尽くしていきたいと思っております。どうぞ皆様、これからよろしくお願い致しますね」
柔らかな声音で決意を表明する、聖女エクレーヌ。どう見てもドワーフです有難うございます。
初めて発した彼女の声の、四人の青少年の耳を擽る音律は少女らしい軽やかさと高さで可愛いと評して差し支えない。
しかし外見は厳つく重厚なドワーフそのものといった姿でも、声音は愛らしいソプラノなのだ。
耳と目の受ける情報が齟齬を訴え、ミスマッチだと叫びを上げる。
待て、落ち着け、耳よ目よ。お前らの得た情報に間違いはない。間違ってはいないのだ。
現実というもの、そして事実というもの。
それらを素直に受け取るには、少年達の心は繊細過ぎた。
だって思春期だもの。仕方がないんだ。
だから仲間達よ、特にジュールよ、お前……耳と目ぇ塞いでんじゃねーよ。
聖地を訪れた四人の戦士達。
最後の仲間を求めて足を運んだ四人の内で最も早く立ち直……ってはいないが、仲間達と旅路を共にする間に培った理性を総動員して心身を戒める呪縛から立ち直ったのは、いつの間にか一行のリーダー的存在として祭り上げられていた戦士ライラック。(矢面に立たされているともいう)
彼は自分達がいつまでも硬直していては聖女(と、呼ぶには何故か抵抗を覚える)に不信感を抱かせてしまうかもしれない、心を傷つけるかもしれないと思い至って咳払いと共に居住まいを正した。
咳払いで場を誤魔化すのは中々に高いスキルと空気を読む力が要されると思うのだが、この歳にしてそれを身に付けているライラックの社交能力は逸材といっても良いだろう。
その分、今まで場を取り繕う為に尽力する機会が多すぎたとも取れるが。
「え、えーと……ご丁寧にどうも。だけどこれからは仲間として一緒に旅をする身だ。あまり堅苦しいのはナシにしよう。俺はライラックだ。こいつらの面倒を見ている」
「まあ、お世話だなんて……ふふ、面白いことを仰いますのね。私達は同年ですのに」
「……うっ」
「ライラック様?」
「い、いや! なんでもない。それよりライラック様は止してくれ。俺達はこれから仲間として力を合わせる身だろう?」
「ライラック様……いえ、ライラックさんですね。よろしくお願いします」
「さん付けかぁ……」
例え年齢は同じでも外見年齢という観点で言えばエクレーヌはライラックよりも随分と大人びて見える(鬚)。
そんな相手に丁寧な言葉で話しかけられ、更にはさん付け。
同じ十五歳の筈なのに、何故かライラックはエクレーヌの細やかな態度や言葉遣いに居た堪れない思いを味わった。
「敬語じゃなくって砕けた言葉遣いでも良いんだけど」
「これは……癖の様なものですから。幼少から聖地で過ごしていますと、自然と」
「ああ、そうか。神職だもんな! 丁寧な言葉遣いは当然だよな……」
なんとか友好的に会話を繋ぐライラック少年十五歳。
話してみれば普通に、いや普通以上に丁寧で女らしい相手だと感じるのだが、その言葉を操る相手の外見がもろにドワーフであることが少年の精神力をがりがりと削る。
そんな反応をみせる自身の心に胸中で恥じ入りながら、早く慣れなくてはならないと必死に念じた。
そしていつまでも自分だけが会話をしている訳にもいかないと。
ライラックはさりげなく……自分の隣で棒のように突っ立っている、コミュニケーション能力が自分よりも高かった筈の少年の脇を肘で突いた。
「……はっ 僕は何を!? なんかおっさんの悪夢を見たような……!」
「ははははは。どーしたぁ、ジュール。お前、立ったまま夢なんて見てたのかよー(棒)。最後の仲間との対面だって言うのに失礼な奴だなぁ。ほんと、ごめんなエクレーヌ……あ、エクレーヌって呼んでも良いよな? 実はこいつ、ジュールって言うんだけど結構ボケててなー? 態度が変でも気にしなくって良いから! 本当に!」
「ジュールさんと仰いますの? ジュールさん、エクレーヌです」
「あ……ああ、うん! よ、よっよよよよろしくエクレーヌ!」
「ジュールさんというと、確か……東方にあるどちらかの軍のご出身と伺ったことが」
「あー……親が世の為人の為に鍛えてこいって言って、さあ。親に放り込まれたんだ。普通は一般志願者なんて受け入れてもらえないんだよ? だけど僕はほら、立場が立場だから。軍の人達も特例で受け入れてくれたんだ! でも修行で技能は身についても、どうにもならないものってあるよね。性格とか」
「誇るな。そして威張るなよ……」
「今は軍を辞して絵描きをやってるんだ! 得意なのは似顔絵かな。静物画はどうにも苦手」
「絵描きさん、ですか? それは……職業選択は、自由ですものね。使命が果たされるまでは何かを仰る方もいると思いますが……」
「うん、それはわかってるよ。だけど僕、これが自分の道だってもう決めたから」
「強い意志と、信念をお持ちなのですね……将来を一つに見据えて努力をする姿勢は、神もお認めになるところです。周囲に流されて戦いに特化した職に決めても仕方がない環境でお育ちになってなお、そうお決めになった……。御立派ですわ、ジュールさん」
「う、うん、ありがと! ……(うわぁ、厭味とかじゃなくってマジで言ってるよぉ? 絵かきとかノリだけで決めたとか言えない……職業選択、棒倒しで決めたとか、言えない!)」
実は適当に幾つかの職を書いた紙を広げ、その上で棒を倒した結果が絵描きだった。
そんな職業選択の風景が脳裏に蘇り、ジュールの背筋をだらだらと冷汗が伝う。
居た堪れなくなる少女の純真な眼差しが、なんだかちょっぴり痛かった。
「え、ええと僕だけがいつまでもおしゃべりに独占してちゃ駄目だよね! みんなで親睦深めなくっちゃ。え、えーと……次はヤコブの番でしょ! 自己紹介しなよ!」
「え、俺?」
「そう、君! ……ってなに一人でくつろいじゃってんの!?」
いつの間に、硬直から脱していたのか。
ライラックとジュールが必死に場を取り繕っていた傍らで、本当にいつの間にか。
ヤコブと名指しされた細身の少年は、応接間のソファに腰かけなおして紅茶を堪能していた。
せめて新しい仲間との紹介の場でくらい、側に立っていろとライラックが頭を抱える。
エクレーヌを無視した形で単独お茶会に興じる姿は、どう見ても空気を読んでいなかった。
「そう、じゃあ皆も座ったら? いつまでも立ち話じゃ疲れるよ。俺が」
「お前、ほんっとうに自由だな……」
紅茶のカップから手を離すことなく、片手でヤコブが皆を招き寄せる。
ちょいちょいと振られる手にはさり気無くクッキーが摘ままれている。どうやらお茶だけでなくお茶菓子まで楽しんでいたらしい。
「旅なんてしてると、どうも甘味に飢えるよね。はあ、落ち着く……」
「落ち着く前に自己紹介しろよ、お前は」
「自己紹介? 俺はヤコブ・グリーン」
「名前しか言うべきことはないのか、おい」
どうにもやる気のなさそうな態度に、困惑気味に微笑みながら聖女は思った。
ああ、確かに光景を見ると……ライラックさんが自身を指して世話を焼いているなんて表現してもおかしくはありませんわねぇと。
なんだか自由な空気を纏った、ヤコブ少年。
旅立ちが遅れた分、各地や他の戦士についての情報を集めていたエクレーヌはこの少年の名前も勿論知っていた。
「ヤコブさん、ですわね。お聞きした話では、とても巧みに水の術を操る騎士様とか……」
「そう、俺の特性。水は自由自在……騎士団に強制入団させられてなかったら、ずっと水と戯れていられたのに」
どうやらヤコブもジュール同様、使命を重んじた親御さんによって職業選択に干渉を受けた口らしい。
そしてどうやら、親御さんの判断は正解だったようだ。
ジュールの場合は性格的な適正不足で入った軍も中途半端に辞す羽目となったようだが。
ヤコブの場合は懇切丁寧な騎士団長の直接指導により、なんとか騎士としての格好は付くくらいの仕上がりを見せている。
この自由過ぎる性格では、騎士団長様の丁寧な御指導がなかった場合どんな成長を遂げていたことか……
彼が四歳の時、将来は水芸で食っていく芸人か素潜り漁師になりたいと言った時の戦慄を、ヤコブのご両親は今でも忘れていない。
自主的に世の為人の為に働けない人間は大勢いるが、使命を授かった身でそれは不味かろうと頭を悩ませた。そんな御両親の苦悩が偲ばれる。
神に使命を授かった五人の戦士達
神獣『紅蓮』の魂を内包する戦士――ライラック・サンジョルダン
身長183㎝ 体重73㎏
胃痛持ちの苦労性。何かと責任感が強くて気負いすぎる。
将来絶対に禿げると周囲に言われて最近抜け毛が気になる十五歳。
熱と炎を纏って放つ一撃は、どんなモノでもバターの様に易く切り裂く。
神獣『蒼茫』の魂を内包する騎士――ヤコブ・グリーン
身長176㎝ 体重64㎏
天然不思議ちゃんの自由人で更には男の娘という色々詰め込まれ感が凄い少年。
実力は本物だが協調性は皆無でやる気が感じられない十五歳。
騎士にならなかったら水芸を極めていた。
天人『剛腕』の魂を内包する魔導士――アンクル・ホーン
身長160㎝ 体重51㎏
なんで魔導士になったと周囲に言われる怪力無双の引籠り。陽光?溶ける溶ける。
今からでも遅くないと物理職に誘われるがそれより書庫に籠っていたい十五歳。
研究開発を重ねた魔道具を重量無制限に持ち歩き、火力過多な攻撃は焦土を築く。
神器『流転』の魂を内包する絵描き――ジュール・プロミネンス
身長164㎝ 体重55㎏
なんでもかんでも取敢えず笑って流す頭空っぽ系の思考力放棄気味な十五歳。
憎めない明るい笑顔と前向きさと勢いだけで全てを乗り切る。若さってすごい。
前職:忍者 地元の忍軍に放り込まれるも、性格的に全く忍べないので転職したらしい。
天女『頻伽』の魂を内包する聖女――エクレーヌ・プチフォンダン
身長132㎝ 体重82㎏ (体脂肪率7%)
神殿の奥で大事に大事に育てられた純粋培養の箱入り聖女。ひげ。
使命にかける思いと人類救済の気持ちは本物だが見た目がミスマッチな十五歳。
その歌声には神のご加護が宿り、人の心とあらゆる傷病を癒す。
エクレーヌが聖女になったいきさつ
本来、ドワーフは地下の穴倉から出てこない妖精族である。
それというのも日光を浴びると石化するか爆散してしまうという呪われた種族特性故に。
しかし鉱脈で元気に働く平凡なドワーフ夫婦の元に宿命を帯びた戦士――エクレーヌが生まれたことで、ご両親は大変戸惑った。
これで男児であればまだしも、女児であったからだ。
ドワーフとはいっても、女は大切にされるモノという考えから戦闘職と無縁に育つ。
だが生まれてきた女の子は将来、使命の旅に出なければならない――
ご両親は悩みに悩み、一族の長老会議の議題に上げてもらって一族皆で考えた。
この女の子の為には、どう育てるのが一番なのかを。
神の恩寵によってドワーフであるにも関わらずエクレーヌが日光によって害されないということが分かった時、一族の長老衆は決断を下した。
選ばれし戦士がドワーフ女児に生まれたことにはきっと意味があるのだろう。
男児ではないが故に、ドワーフ戦士として育てるのではなく……一族の穴倉から出し、外の世界で魔性と戦う為の術を身に着けさせることに……そうして広く様々な物事と接することで可能性を広げる未来を与えようという話になった。
それが、エクレーヌ五歳の折である。
そうと決まればエクレーヌを魔性と戦うに最も適した環境に預けようと、ドワーフ達は魔性を滅する神秘の技に通じた『聖地』にエクレーヌを預けることとする。
これが最後の別れになるかもしれない……。
エクレーヌを『聖地』に送り届ける任には、彼女の両親が名乗り出た。
日光を浴びれば大変なことになる……命の心配が常に付きまとう、危険な旅路である。
それでも知恵を絞り、工夫を凝らし、日光を避けて夜を渡り、両親はエクレーヌを連れて『聖地』のすぐ側までたどり着く。
あと、もう一歩……もう目に見える距離だ、と。
そこまで来た時に、悲劇は親子に襲い掛かる。
あと少しで目的地だというのに、彼らに魔の眷属が襲い掛かったのである。
使命を持って生まれたと言っても、エクレーヌは未だ五歳……戦う術など持ちうるはずがない。
何とかこの子だけは、エクレーヌだけは生き延びさせる。
その覚悟で、両親は我が身を捨てて魔物に立ち向かった。
そして、頃合いは明け方へ……ドワーフは日光を浴びれば石になるか、爆裂四散する運命である。
エクレーヌだけは無事に済む。それが両親の心の慰めであった。
捨て身の戦法、ここに極まれり。両親はそれぞれ残った魔物に抱き着き、朝日が昇るのを待った。
果たして、結果は……父親は魔物に抱き着いたまま石となり、枷となった。母親は魔物に抱き着いたまま爆発し、道連れにして諸共果てた。
生き残った幼いエクレーヌは、呆然と両親の散る姿を見つめることとなったのだ。
母親の爆発する音で駆けつけた『聖地』の神官達は、朝日を浴びて涙するエクレーヌを見つけた。
その時から、ドワーフの少女は『聖地』の預かりとなり――両親の死に際に無力を痛感した少女は魔性を滅する覚悟を誰よりも強く意識し、使命を果たせと願った両親の遺志を無駄にせぬよう研鑽に励むこととなる。
やがてエクレーヌは、髭の生えた立派な聖女になった――。




