清楚で儚げな生き別れの姉(?)を探す男装の少女と、天真爛漫で愛らしかった生き別れの妹を探すオネエの物語
去年の秋ごろに設定だけ思いついて放置していたネタです。
小さな島々と、大きな三つの大陸で成り立つ世界。
太陽に一番近い大陸に、とても古い歴史を持つ王国があった。
どれくらい古いかというと、大陸のどの国よりも古くから存在するというくらい。
他の国々は大樹の枝葉の様に、その小さくて古い国から枝分かれして生まれたもの。
大陸の国々の歴史をたどれば、それは全てその古い王国に行きついた。
だからこそ、他のどの国々からも敬意をもって尊重される。
そんな古くて小さな、伝統と格式を誇る王国ソラジュエル。
誰からも侵略されることなく長く続いた、平和で緑豊かな小国。
だけどそんな国でも、やがて滅びの時はやって来た。
迫り来る崩壊の足音を鳴らすのは、他の大陸から流れ着いた異民族を祖とする暴虐な王の国。
暴王ジェラルミン率いる軍事国家、シュクメーロン。
暴王は己を太陽の末裔だと声高に叫び、小さな国々から軍事力に任せて呑み込んでいった。
彼らの方針は一貫して、侵略した国の王族は、皆殺し。
それは大陸で最も尊重されていた、ソラジュエルの王族も例外ではない。
だが、ソラジュエル王族の中、二人の王女が今もなお暴王より逃げ延び続けていた。
古い歴史と、遡れば数多くの国々の祖ともいえる由緒を持つ亡国の姫君たち。
ともすれば暴王に呑み込まれていった国々が一斉に蜂起する為の、旗印ともなり得る尊い身。
王都陥落の折、防衛線を最期まで守って暴王に首を取られた第一王子アメジスト。
その双子の妹である第一王女、儚げな美貌で妖精姫と讃えられたアイオラ姫。
当時、十四歳。
そして王家の末子に当たる第二王女リチア姫。
当時、四歳。
莫大な懸賞金を賭けられ、暴王の配下による捜索は年々苛烈さを増している。
しかしかつては『生死を問わず』と手配書に明言されていたものが、近年になって『生きたまま捕縛すべし』という文言に変わっていた。
それは多くの国を併呑して巨大国家となったものの、国土と共に怨嗟と反乱分子をも身の内に抱え込むこととなった暴王が思いついた苦肉の策によるもの。
大陸で最も尊重される一族であり、滅びた数多くの王家より各上とされる王家の姫。
尊い姫を王太子の妻として子を産ませれば、反乱の意思を封じることが出来るのではないかと。
幸いにして逃亡しているのはどちらも女。
捕まえてしまいさえすればどうとでもなる、利用の余地はいくらでもある、と。
暴王の言葉はソラジュエル王族への侮辱にも等しい。
国々の祖とされる一族の姫を冒涜された屈辱に、更なる怒りが大陸全土に広がった。
――と、そんな時代背景を踏まえた上で。
今回の物語は幕を開ける。
「姫様……本当に行かれるのですか?」
「メイア、姫様は寄せ。折角男装しているものを……台無しの上に、その呼称こそが私を危険に陥れる火種に成り得る。本当に私の身を案じるのであれば、もう少し気を付けてくれ」
「……承知致しました、なんて言えるとお思いですか」
「それでも堪えてほしい。私の身を案じるのであれば」
「………………わかりましたよ、『若君様』」
「……その呼び方も名家の子息みたいで危険な気がするんだが。今のご時世、野盗の類は何処にでもいると口を酸っぱくして注意してくれたのはメイアだろう」
「これがメイアに妥協できる精一杯ですよ」
「せめて名前呼びにしてくれないか? 勿論、偽名の」
「様付けでお呼びすることだけは引きませんよ」
「メイア……」
第一王女アイオラ (第二王子アイオライト) 二十七歳
ソラジュエル王家の風習に、王の嫡子に男の双子が生まれた際は王位争いを防ぐ為、長子が立太子するまで次子を女として育てるというものがある。
そしてかつて子供が成人まで中々育たなかった時代の名残で、ソラジュエル王国で立太子が認められるのは成人年齢の十五歳から。
そういった事情から、王国が滅ぶまで女として後宮で育った。
王家の風習を知る自国の貴族からは暗黙の了解として男疑惑を向けられていたが、あまりに繊細な美貌であり、あまりに所作が可憐で完璧であったため、血迷った方々からの縁談が殺到した。
こんな美しい姫が、男の筈がない……!! →残念、男でした!
王都陥落の折、妹とはぐれながらもなんとか落ち延びる。
その時に女装を卒業し、死んだのは実は妹の方だったということにして兄王子のふりして滅ぼされた諸国から残党を集めて『解放軍』を組織し、陣頭に立つ。
しかし未だ行方のつかめぬ妹……彼の天使ちゃんの行方不明に常時心を痛めており、発作的に半狂乱の態で探しに走る癖がある。
妹探しでふらふらしている時は、中途半端な女装でオネエと化してふらふらふらふら。
まさかこの姿なら手配された王族とは露見するまいと思ってのことだが、本当に検問などほぼ素通り状態なのでちょっと複雑。
第二王女リチア (第一王女リチア) 十七歳
まだ幼い四歳の時に国家の滅亡という憂き目と遭遇。
それまでただ家族や臣下から可愛がられるだけの生活を送っていたが日常は一変。
昔は自分を可愛がってくれていた兄や姉を心から慕う天真爛漫な可愛い女の子だった。
だが今は繊細で虫も殺せない心優しい姉に代わって兵を集め、祖国を奪還して敵を討たねばならないという見当違いの決意を固めてすっかり変貌してしまった。
姉に関しては過酷な祖国奪還などという血腥い話とは関わらず、戦乱からは遠い場所で誠実で気の良い夫でも迎えて平穏に暮らしてくれたら……と願っている。
生真面目で融通のきかない男装女子。
憧れであり理想の女性である姉というイメージが強過ぎて、一向に現実に気付かない。
姉を心から心配しており、その無事と幸せを確認するまで国の為に命を懸けることが出来ないと思っている。
こんな二人が滅びた祖国の酒場で運命の再会(笑)を果たし、行動を共にするようになる。
酒の上の話として軽く「可愛い妹(美しい姉)を探している」という互いの事情を聞かされながらも、相手があまりに変貌している為に「まさかな……」と思い違いを発生させ、探し人当人が隣にいるのに気づかず、協力を約束して一緒に旅をする話。




