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第六十六章 大熊猫の目

 「なんだ、この旗は!」


劉嘉りゅうかの追撃を躱しながら再び漢中に戻ってきた延岑えんしんは、漢中に構築された長大な防御陣地と、そこにたなびく白色に銀の縁取りがなされた旗を見た。旗には“成”の文字が踊っている。


「親分、成は蜀郡の公孫述こうそんじゅつの国ですぜ。劉嘉と遊んでる場合じゃあなかったっすね」


「公孫述、抜け目のないやつだ。よし、とりあえず天水郡へ侵入して態勢を立て直すぞ」


延岑が行き当たりばったりで侵入した天水郡は、隗囂かいごうの部将達が守りを固めており、すぐに追い出されてしまった。


一方、本拠地のはずの漢中を公孫述に奪い取られた漢中王の劉嘉は漢中奪還の兵を執拗に送ったが、公孫述の部将である侯丹こうたんに阻まれて成果をあげることが出来なかった。

漢中郡の西にある武都郡ぶとぐんに陣をしいた劉嘉であったが、ここにも安住することは出来ない。


「性懲りもなく延岑のやつが攻め入って来たぞ」


溜め息とともに来歙が伝える。


「この世に生まれ落ちた事を後悔させてあげましょう。李宝りほう、直ちに迎撃です」


侯丹に敗れて間もない時期を狙ったつもりの延岑であったが、劉嘉はしっかりと態勢を取り直していた。

延岑は陳倉で迎撃の大軍に遭遇することとなった。


「この俺が読みを外すとは……」


「親分、しょっちゅう外してますぜ?」


延岑の軍を打ち破った劉嘉はさらに追撃を加え、延岑は命からがら逃走した。


「延岑は何としても仕留める。絶対に許しません」


血走った目の劉嘉を見て、来歙が諌める。


「そんな事をしていて何の意味がある。さしあたってこの武都郡で民を慰撫することが先決ではないか?」


劉嘉の傍らに控えていた李宝が来歙を遮った。


「王命に逆らうとは何事ですか?いくら陛下の旧知と言えど、発言には気をつけて頂きたい」


李宝は劉嘉から丞相に任命されて、万事に口を出すようになっていた。

結局、劉嘉は来歙の意見を退け、延岑との不毛な角逐戦に突入していくのであった。


 「更始帝が亡くなった今、皇統を再び建て直せるのはこの私しかおるまいて」


りょうの地、睢陽すいようの城において、劉永りゅうえいは即位を宣言した。

測位の儀式に呼ばれた四人の群雄は、劉永により将帥に任命された。

一人は徐州に勢力を張る元海賊、張歩ちょうほ。新末に起こった反乱の最も初期の一つである呂母の乱に参加していた古株で、劉永より輔漢大将軍の号を受けた。


「然り。まずは、陛下のご威光を遍く天地に知らしめるために、外へ外へと向かうべきです。私に任せていただければ、陛下のために漢土の全てを献上してご覧にいれましょう」


もう一人の群雄は、やや冷めた態度を取る。


「勢力圏の拡大も勿論必要ですが、やはり銅馬帝の出方が気になります。外敵への備えを優先すべきでしょう」


董憲とうけんは、赤眉本隊から分離独立し東海郡に拠点を置く群雄である。名将と名高い廉丹れんたんを打ち破り、新王朝に大打撃を与えたという華やかな経歴の持ち主であった。こちらは翼漢大将軍という号だった。

他の二名は山陽の群雄である佼彊こうきょう、沛郡の豪傑である周建しゅうけんだったが、勢力や名声において先の二人に劣ることから、やや気圧され気味で発言はなかった。


「二人の意見はそれぞれ尤もである。張歩は青洲、徐州へ侵攻し、我が領土にこれを加えよ。董憲は守りを固め、偽りの皇帝を防ぐためにあるゆる手段を講じよ。そして、佼彊と周建は、其々がこの二人について共に作戦を進めよ」


劉永は大きな腹を揺するように喋る。愛嬌のある体型とは裏腹に眼光は鋭く、目元には猜疑心が凝り固まったかのような深い皺が刻まれている。董憲は劉永の姿を見て、大熊猫の目が意外に鋭いことを連想していた。

劉永は群雄が心からの忠誠を誓っているとは露ほども思っていないし、事実その通りだった。

しかし、命令にかこつけて自身の勢力を強化したい二人は、ある意味真面目に劉永の命令を守った。張歩は青洲、徐州の全てを平らげて劉永の領土とし、董憲は着々と防御を固めていった。

ここに劉秀と覇を競い合う新たな大勢力、りょうの劉永政権が出現したのであった。

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