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第六十五章 隗囂の援軍

 涼州、北地ほくちの城を取り巻く山々の隙間には、夥しい数の軍勢がひしめいている。

隗囂かいごうからこの地を任された部将の楊広は、城楼からこの光景を眺めて魂を無くしたような心地でいた。


「隗王が自ら出向いていらっしゃったとはいえ、この赤眉の大軍に抗うことなど出来るのだろうか」


「それが出来るのだよ、楊広」


気がつくと、背後には笑顔の隗囂がいた。傍らには腹心の王元おうげんが侍っている。


「我が涼州の地形は狭隘にして険阻であり、大軍の強みは減じられている。また、こちらの蓄えは十分にあり、赤眉の備えには致命的な穴がある。固く守り、援軍が至るまで決してこちらから仕掛けてはいけない」


楊広は目を丸くする。


「援軍?援軍のあてがあるのですか?」


隗囂はやれやれといった表情で、兎の毛の耳当てを取り出すと、両耳に着けて言った。


「この頃は、肌寒くなってきたと思わないか」


 一週間後、涼州を大寒波が襲った。

涼州の気候に明るくない赤眉は、全く防寒の備えを持っていなかった。

白銀の世界の中で、立ったまま凍りついて死ぬ者が多くあった。

赤眉の首領、御史大夫の樊崇はんすうは全軍に長安への撤退を命じた。丞相の除宣じょせんはこの判断に疑問を抱いた。


「長安ですと?あそこには、奪えるものはもはや残っておりますまい」


「まだ手をつけていない金目の物が、一つある。良いから行くぞ」


撤退をはじめた赤眉を見て、隗囂は命令を発した。


「王元、楊広、客人がお帰りになられるようだ。黄泉あのよまで見送ってやれ」


獣皮の衣類を纏って冬仕様になった隗囂の軍は、二将に率いられて赤眉に背後から襲いかかった。

徒歩かちの多い赤眉軍は大雪に足をとられ、戦いは一方的なものとなった。


「鹿を狩るよりもよほど簡単だ。これでは歯ごたえというものがない。……十二人目ぇ!」


王元は目前の赤眉に向かって勢いよく大斧だいふを振り下ろした。激しい金属音が響き、獲物のはずの相手は大斧を金砕棒で防ぎつつ不敵に笑っている。


「歯ごたえがなんだってぇ?オオォォォ!」


「な、何ぃ?」


王元の大斧は勢いよく跳ねあげられた。しかし、相手の金砕棒が振り下ろされるより前に、王元は馬首を巡らし、恐ろしいこの重量物は空を切った。


「中々やるな。我が名は王元!汝の名を聞こう」


「琅邪の諸葛稚しょかつちだ!」


王元が諸葛稚と激戦を繰り広げていた頃、楊広もまた逄安ほうあん率いる決死隊に阻まれていた。


「一人はダメ元でとっこんで行け!もう一人は馬の足に飛びついて何としても止めろ!最後の一人は馬の上の奴を何としてもぶっ殺せ!」


最初は優勢だった楊広の騎兵は、この捨て身の攻撃に一人、また一人と沈んでいく。


「こいつら、ここまでして仲間を逃がそうというのか!」


多くの犠牲を払いながらも、赤眉は撤退に成功した。また、諸葛稚や逄安を含めた赤眉の幹部はほぼ全て逃げ延びた。


長安を制した鄧禹とううは、赤眉の帰還を全く予期できていなかった。

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