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第六十一章 劉楊の乱

 ーー事の真偽を確かめ、謀叛の計画が事実であれば、真定王劉楊を捕縛せよーー


劉秀の密命を帯びた耿純こうじゅんは、表向きは鎮撫を行うためと称して冀州に赴いた。

耿純は恩赦を大々的に行なうと同時に、密偵を放って劉楊の身辺を探らせた。恩赦は真の目的を偽装すると同時に、減刑などをちらつかされて劉楊に加担する者を牽制するために行われた。

密偵からは、綿曼めんまんに隠れている盗賊集団と劉楊が密会して謀議を重ねている、という情報が入った。謀叛の計画は事実である。

劉楊は耿純の到来に動揺し、面会を求めた。

しかし、耿純は自分が皇帝の勅命を遂行中の身である事から、例え王と言えどもそちらから出向くのが筋である、として宿舎から動こうとしなかった。

劉楊は耿純が自身の甥である事から、自分を捕縛しに来たのか或いは反乱に加担しに来たのか、判断に迷っており、早急に確かめたいと考えていた。

ついに痺れを切らした劉楊は、反乱計画の中心となった自身の弟や従兄弟と護衛を引き連れて耿純のいる宿舎にやってきた。


「これはこれは、叔父上。ご機嫌麗しく……」


「堅苦しい挨拶はいい、お前がやってきた目的は何だ」


耿純は微笑んだ。


「冀州豪族の命運のため、この地で壮挙を成さんと参りました」


劉楊も笑みを浮かべて応じた。味方だと判断したのだ。

耿純は、謀議のために宿舎に計画の首謀者を全て上がらせてほしい、敵に聞かれないように護衛を戸口に立たせてほしい、と劉楊に告げた。

劉楊らが部屋に入ると扉は固く閉じられた。

部屋に潜ませていた兵士達が劉楊らを全員殺すまでに一分とかからなかった。


「これが私の“壮挙”だ」


返り血を拭った耿純は呟いた。

首謀者が全員殺されたことにより、残る関係者は震え上がり、謀叛の計画そのものが消滅した。


 「まさかそこまでやってくれるとは。真定王の親族であるお前に、それを殺すことまで要求するのは無体だと思って敢えて言わなかったのだが……」


「お気遣いに涙が溢れる思いです。しかし、叔父の不始末を正すにはこれしかないと存じました。命を違えたこと、お許しください」


劉秀はこの果断な部下に感嘆していた。しかし、敢えて殺すまでしたということは相応の恩賞を期待しているのかもしれない。


「いや、ここまでしてくれてむしろ助かった。何か望む褒美はないか?出来るかぎり叶えよう」


「……では、つかせて頂きたい官職がございます」


耿純が願い出たのは、劉秀に取って意外な官職だった。太守、つまり耿純は文官への転身を願い出たのである。これまで武官として活躍した耿純の、戦場からの早すぎる引退だった。

真定王劉楊は冀州豪族の中心人物であった。耿純が劉楊を殺害するのは、冀州豪族にとっては重大な裏切り行為である。耿純は裏切り者の汚名をかぶってまで劉楊を殺め、自身は引退した。これは言外に冀州豪族への寛大な処置を望むものではなかったか。

劉秀は謀叛が未遂に終わったことを理由として、真定王劉楊の息子を許し、父の国を継がせた。また、郭聖通の弟達をはじめ、劉楊に連座して罰される者は一人もいなかった。冀州豪族はこの処置に胸を撫で下ろした。


耿純は東郡の太守として赴任すると数ヶ月で治安を回復し、以後四年の間善政を布いた。

取り調べの最中に自殺者が出たことを罪に問われ罷免されたが、劉秀が東郡を通りかかると老若男女数千人の民衆がその車駕に取りすがって涙ながらに乞うた。


「どうか、どうか、耿純様を太守にお返しください!」


その後、東郡で再び盗賊が決起した時、耿純が派遣されるとみな一斉に武器を捨てて降伏した。劉秀は耿純を東郡太守に再び戻した。

耿純は生涯その地で太守を続け、在職のまま没した。

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