第五話:またまたお呼び出し?
いきなり翼に呼び出された竜二。
翼の話とは・・・?
翼がとても深刻そうな顔をしていたので俺も少し緊張気味だった。
「あのさ。」
「どうした? 大丈夫か?」
その深刻そうな顔に思わず気遣いの言葉が出る。
「大丈夫。一個聞きたい事があるんだ。」
「いいけど?」
何を言われるかまったく検討がつかなかった。
まさかこんな事を言われるなんて。
「実は筒井の事なんだけど・・・。」
「あぁ、さっきの子だろ? すごいよなー。あの子がどうした?」
いきなり筒井の話が出てくるとは。
続けて翼が言う。
「お前、あの子の事好きか?」
「えっ?」
「筒井の事をどう思ってるか聞いてんの!」
思わず聞き返してしまった。
翼から筒井の事が気になっているとは聞いたが俺が筒井の事を気にしているなんて言った覚えはない。
「俺は別・・「本当の事言えよ!! ごまかすんじゃねぇ!!」
否定しようとした所、翼に物凄い剣幕で遮られてしまった。
ここまで凄い剣幕で怒る翼は久しぶりに見た。
「だから何も無いって! いきなりどうしたんだよ?!」
いきなり怒鳴られて理由を聞かない方がおかしいだろう。
「そっか・・・。いきなり怒鳴って悪かったな。ごめん。」
急に冷めた感じに戻り冷静さを取り戻したかのように見えた。
「ちょっと待てよ。お前がいきなり怒鳴るわけないだろ? 理由を言えよ。」
昔からの付き合いだ。
翼がいきなりキレるような奴じゃない事は俺がよく知っている。
そんな翼が怒鳴ったのだから余計に理由が気になる。
無駄に詮索しない方がよかったのかもしれないが・・・。
「うるせぇな。関係ないだろ?! もういい!」
こんな言い方をされてはこっちだって腹が立つ。
「めちゃくちゃ関係あんじゃねぇかよ! 大体あんな風に言われたら気になるに決まってんだろ!?」
「だからそこは謝っただろ?! いちいちしつこいんだよ!!!」
さすがに俺もキレた。
なぜここまで否定されなければならないんだ?
沸々と怒りがこみ上げてくる。
「ふざけんじゃねぇ!! お前がいきなり聞いてきたんだろ!! お前こそウザイんだよ!」
「はぁ?! ふざけてるのはそっちの方じゃねぇか!!!」
すでに翼もキレていた。
次の言葉を発しようとしたその瞬間。
バシッ!!
翼の右の拳が俺の左頬に入る。
とっさに目を瞑り、仰け反ったがすぐに体勢を整える。
「痛いじゃねぇかよ!」
胸倉を掴み、そう吐き捨てた。
自分の方向に翼の体を引き寄せると膝を上げ、鳩尾の辺りに蹴りを入れる。
多少くの字に曲がるがその程度では堪えない。
今度は俺の腹に目掛けて拳を繰り出してきた。
胸倉を掴んでいたため、避ける術は無くそのまま食らう。
翼同様、俺も体をくの字に曲げる。
が、俺だってこれくらいじゃ堪えない。
蹴りを繰り出そうとするが先手を取られ、左腿に蹴りが直撃した。
すかさず俺も翼を蹴り飛ばした。
翼はその場に倒れ、尻餅をつく。
このまま立ち上がってきたら、また引っ叩いてやろうと思っていたが。
何か言ってきたのでそれは止めにした。
「はぁ・・・やっぱ殴り合いじゃ負けちまうか。竜二、俺が悪かった。ごめんな。」
「ふぅ・・・口じゃお前には敵いっこないな。あのままだと俺が手出してた。悪い。」
まさに「雨降って地固まる」という言葉の通りだろう。
「ところで・・・。」
「さっきの事だよな。」
「あぁ。」
「やっぱりお前には隠し事出来ないな。」
喧嘩の原因であるこの事だったが聞かずにはいられなかったのだ。
堪忍したかのように翼が言うと事の経緯を話し始める。
「実は俺、筒井と付き合ってるんだ。」
「・・・えぇぇぇぇ!!!!」
ただただ驚くしかなかった。
筒井と翼が仲良さそうにしている所はあまり見てなかったし。
(だったら翼が告白したのか?)
色々な疑問があるが一つずつぶつけてみる。
「でも、それが俺と何の関係があるんだ?」
「練習の時、ずっと筒井の事見てただろ? この時だけじゃない。何かとお前、筒井の方に近づいてたし。」
「・・・・・・はい?」
(・・・いくらなんでも誤解しすぎだろう。)
さっきのは確かに見ていたけど、それはレースを観戦していただけで。
正直に言っちゃうと見てたのは笹山の方だったし・・・。
近づいてるって言うけど、それは筒井の前にいる笹山に用があるわけで。
「誤解だって! 確かに見てたけどあれはレースを観戦してただけ! 何もないって!」
翼のあの深刻そうな目は疑っていた目だったのか。
あいつも俺と同じく「嫉妬」しているのだろうか?
「俺、あいつの事になると見境が無くて・・。本当にごめん!明日ジュースおごるからさ?!」
ジュース一本で終わらせようとする所が翼らしい。
「はいはい。もういいって。明日忘れるなよ〜?」
「了解! ってかー、竜二は好きな子とかいないの?」
(ドキッ。)
一瞬、翼から目を逸らす。
だがそれもバレていたようだった。
「おぉ! とうとう竜二にも! まぁ、さしずめ笹山あたりだと思うけど〜。」
(なんでだ?! 翼に言った覚えは無いぞ?)
「竜二くぅ〜ん? 焦りすぎですよ〜? バレバレなんだって!!」
翼が猫なで声で俺をからかってくる。
(あの凄まじい剣幕はいづこに?!)
密かにそう思いながら俺も堪忍したように言う。
「わかったよ! 笹山のことが好きなんだよ!」
すかさず翼が突っ込みを入れた。
「やっぱり〜? 顔真っ赤ですよー?」
「馬鹿! お前に殴られたからだよ!」
とっさに言い返すが無駄であった。
「ごめん! でも俺、片方しか殴ってないし〜。まぁ、笹山可愛いもんな。頑張れ〜。」
(ったく。急に調子づきやがって・・)
心の中で舌打ちをした。
まぁ、なぜか顔が火照っていたのは本当なのだが。
「じゃあ帰ろうぜ? 明日は10時に駅だぞ? また遅刻しないようにな〜。じゃ!」
「あれはアラームが! ・・いいや。 じゃあな〜。」
短く別れの挨拶をすると家に着く。
あまりにも疲れていたため、すぐに風呂に入るとそのまま寝てしまった。
この時はまだ明日、あんな事になるなんて思いもしなかった。




