第二話:相談
翼から教えてもらったURLを元に竜二は香織のプロフィールへと辿り着く。
しかしそこで見たものは香織には同級生に好きな人がいるという事実だった。
せっかく香織の事が好きだと気づいたのにどん底に落とされた気持ちの竜二は姉にこの事を相談する・・。
俺は携帯の画面を見ながらしばらくボーっとしていた。
まるで見てはいけないものを見てしまったような気持ちで。
なんでもっと早く自分の気持ちに気づけなかったんだ・・・。
そんな後悔ばかりが押し寄せてくる。
自分ではどうしようもないこの気持ち。
また姉貴に相談してみようかな・・・
「竜二〜! ごはん! 何度言えばわかるのっ?!」
母さんが怒り気味に言っている。
まずい、全然聞こえなかった。
「今、行くー。」
適当に返事をすると、急いで食卓へ向かう。
夕飯を食べ終わったら姉貴に言ってみよう。
夕飯は俺の好物のハンバーグステーキだった。
いつもならすぐにむさぼりつくはずだったが、なぜか食欲が無い。
適当に食事をすませ、風呂に入ると姉貴の部屋へ行った。
ドアを軽くノックする。
「姉ちゃん? また相談したいんだけど・・・いい?」
「いいよ。入ってきな?」
部屋に入ると携帯をいじっていたがそれを置いて話し始めた。
「どうしたの? 暗い顔して・・。そこ座って良いから、話してみな?」
「ありがと。この前、相談した後輩の事なんだけど。」
「あの笹山って子ね。あの子がどうかしたの?」
「ちょっとこれ、見て?」
俺はおもむろに携帯を取り出すと先ほどまで見ていた画面を姉貴にも見せる。
「これってプロフじゃん! 竜の? 結構可愛いじゃん!」
「俺のじゃなくて! ・・・笹山の。 翼に教えてもらった。」
「あの子のかぁ! で、これがどうしたの?」
「まぁ、下まで見てよ。」
姉貴は画面をスクロールして、「あの項目」を見つけた。
「好きな人のタイプってあるじゃん! どれどれ・・・。
背高くて優しいけど、たまにちょっと冷たい。こんなギャップいいよね♪」
「もうちょっとスクロールしてみて。」
「ん? 正直に言っちゃうと同学年に好きな人いるなぁ・・・か。
竜、これ見て凹んでたのね。」
そう言われると少し胸が痛んだ。
俺は何も言う事が出来ず、ただ俯くだけだった。
少しの間、部屋の中に沈黙が漂う。
「・・・でもね、竜。ちょっと良い?」
姉貴が優しい口調でかつ真剣な眼差しで閉ざしていた口を開く。
俯いてた顔を上げ、姉貴の目を見た。
「好きになった子に好きな子がいたらすぐに諦めちゃうの? それで簡単に諦めきれるの?
竜がそれでいいなら良いと思うよ。けど私は絶対に後悔すると思う。
だって告白もしていないじゃん。その子の事が好きって気づけたのも最近でしょ?
そんなの絶対もったいないよ。」
一呼吸置くと姉貴は話を続ける。
「私だって好きな人に好きな人がいるって知ってたけど、告白した。
絶対フラれる!って覚悟してたからすごく怖かった。だけど結果はOKだったんだよ。
後で聞いてみると途中から最初好きだった子より私の方が気になりだしたんだって。
こんな風に人の気持ちはいつ、どう変わるかわからないの。
だからすぐに諦めるのはまだ早いと思うよ?」
姉貴は話し終えると優しく微笑んでいた。
今までに見た事ないくらい優しい笑顔で俺のことを見つめている。
最後まで話を聞くと自然に涙が一粒、二粒と頬を伝わり床に落ちた。
泣くつもりなんて無かったのに・・・。
今の言葉が心の中で音楽をリピートしているように何度も何度も繰り返され、頬を伝う涙が増える。
必死に涙を堪えようとするがまったく堪えることが出来ない。
むしろ、堪えようとすればするほど涙が流れてくる。
まるで涙を調節する蛇口が破裂してしまったかのように・・・。
俺は・・・こんなに笹山の事が好きだったのか・・・。
そんな事を思っているうちに俺の顔は涙でクシャクシャになっていった。
だが、そんな事はお構いなしとでも言うかのように涙は止め処なく流れる。
すると姉貴がまた話し始めた。
「切ないよね。辛いよね。すごくよくわかるよ。
・・・私もそうだったから。」
もう一度、姉貴の真剣な目を見る。
「でもね、竜。 よく聞いて?
キツイ事言うかもしれないけど、今の竜は転んで立ち上がれずに泣いている子供と同じ。
けど、転んだ子だっていつまでも立ち上がれないわけじゃない。
傷口は痛いかもしれないけれど、頑張って立ち上がろうとするでしょう?
そして立ち上がれた子は少しかもしれないけど前の自分より強くなっているはず。
お母さんの手を借りてようやく立ち上がる子とは違ってね。
恋愛もそれと同じ。」
俺の目から涙が止まる事はなかったが、俺は姉貴の話を黙って聞いていた。
「好きな人の好きな人、っていう石につまづいているだけ。
竜はその石につまづいたまま泣いているの?
立ち上がろう、って努力せずに誰かが助けてくれるまで待ってるの?」
「・・だ」
「ん?」
「嫌だ・・・こんな何もせずに終わっちゃうなんて嫌だ・・・。」
何と言っているかわかりにくかったと思うが姉貴はちゃんと答えてくれた。
「そうでしょ? だったら行動しなきゃ。
告白するなりアピールするなりね?」
「わかった・・姉ちゃん、ありがとう・・」
「いいの。ただし、焦り過ぎないようにね?
一応大会前なんでしょ? 告白するにしても大会が終わってからの方が良いと思うな。」
「うん、大会終わったらあいつに告白してみる・・」
「頑張ってね、応援してるから! 失恋したって私が慰めてあげる。
相談にもまた乗ってあげるから。ほら、もう泣かないの! 男の子でしょ?」
姉貴は優しくそう言うと何も言わずティッシュを差し出してくれた。
そうだ。泣いてたって何も始まらないんだ。
それにこんなとこ、カッコ悪すぎて見せられないし。
立ち上がらないとな。
俺はそう心に言い聞かせ、立ち上がると姉貴の部屋を後にしようとする。
その瞬間、俺の携帯電話が鳴り響いた。




