第二十三話:キッツい罰ゲーム
「大富豪」というのはトランプのカードゲームの事です。
ジョーカーが一番強く、順番に2、1、13・・・3
となっています。
同じカードを二枚・三枚と同時に出す事も可能。
ちなみに「8切り」「スペ3」「革命」はローカルルールなので無い所もあると思います。
8切り・・・8を出すとそのまま切る事ができ、新たにカードを出せる。
スペ3・・・ジョーカーが出た場合、スペードの3を出せばジョーカーを切る事が出来る。 (スペ3は無しにしてありますが)
革命・・・3を4枚だとか同じカードを4枚一気に出すと革命となりカードの強さがすべて逆転する。
目の前に次々とカードが出されていく。
もうすぐ上がる人が出てきても良い頃だ。
「はい。」
日高が出したのは『12』だ。
「あ! てめっ! 12とか大きすぎだろ〜・・・。パス。」
翼が自分の手札と睨めっこしながら前に出されたカードにいちゃもんをつける。
「そりゃナイって〜。パス。」
三月も頭をグシャグシャと掻きながら嘆く。
俺の番だ。
ここは一気に賭けに出てしまおう。
一位になれば罰ゲームは思いのまま。
自分の中に秘めていたSの部分に気がついた瞬間であった。
「いけっ!」
そう言って俺が出したカードは『2』。
このゲームにおいて一番強いカードだ。
ちなみにこのカードを切られたらお仕舞いである。
なぜなら残り一枚となった手札のカードはこのゲームで一番弱い『3』だからだ。
一瞬、場がしらけた―――
なんだこの空気は?
みんながお前、空気読めよーとでも言いたげな目をしている。
誰もが俺の方をジトーっとした目線で見つめてくる。
俺、何か悪い事したか?!
そのひんやりとした空気を打ち砕いたのはやはりこいつであった。
「やった〜! ジョーカー!!」
牧野が高らかに叫ぶ。
「・・・あぁぁぁ〜!!!!」
このカードの存在をすっかり忘れていた。
大富豪において『2』は最強を誇るがジョーカーには勝てないのだ。
まてよ。
という事は・・・?
残った手持ちのカードは最弱である『3』だ。
「負けたぁぁ!!!」
罰ゲーム決定の瞬間だった。
途轍もない敗北感に襲われる。
まだ『革命』という可能性もあるがそんな可能性は無いに等しい。
こうなったら日高が一位になってくれる事を祈るしかない。
日高ならキツイ罰ゲームはしなさそうな気がする。
「よっしゃ〜! 牧野ナイス!!」
「牧野、よくやった!」
「先輩ありがとうございます!!」
みんな口々に歓喜の言葉を発する。
日高、頑張ってくれ―――…!
それから2〜3分経っただろうか。
「よしっ! 上がり!」
上がったのは栢山であった。
最悪だ。
こいつはドSである事でも有名。
罰ゲームを決める役なんてやらしたら何をやらされるかわからない。
栢山が上がってからみんな上がっていった。
「さぁ〜。罰ゲームは何にしようかな〜。」
不気味に微笑む栢山の姿は悪魔か何かだと心底思った。
思わず俺は息を呑む。
「じゃあ、さっきのロビーの真ん中で『香織〜!好きだ〜!』って言って。二回。」
「お、おい!」
「ああ、もちろん大声で。みんなこの部屋にいるから聞こえなかったらやり直しね。」
「馬鹿! 他の人に迷惑になるだろ!」
まったくこの悪魔は何を言い出すんだ。
「いやいや。この宿舎、うちの学校しかいないから平気だよ。女子は上だし。」
黙り込むしかなかった。
そういう問題じゃなくて! とか突っ込めばよかったのだろうがこいつに何を言っても無駄だ。
なんでこいつが一番になってしまったのだろう。
なんで俺は馬鹿な賭けに出てしまったのだろう。
すべてを恨めしく思い、ロビーへとトボトボ向かう。
他の5人の熱い目線を受けながら。
まともだと思っていた日高もいつの間にかみんなに感化されてしまっている。
まずは辺りをキョロキョロと見回す。
幸いホテルでは無かったためフロントのようなものは無い。
・・ロビーには誰もいない。
もう覚悟を決めよう。
「香織ぃ〜!!! 好きだー!!!」
思い切り叫ぶ。
恥ずかしくて死にそう。
部屋の方向を見ると栢山が人差し指を突き立て口パクで「もう一回」と言ってくる。
あいつ、本当に正気か?
「香織っ!!! 好きだー!!!!」
言い終わるとダッシュで部屋に駆け込む。
今ので辺りはざわついている。
みんな犯人は誰か、とキョロキョロとしている。
もちろん爆笑している者が多数。
そんな好奇心旺盛な目で探さないでくれ、と願うばかりだった。
そんな騒ぎを聞きつけた担任や他の先生がロビーに来たようだ。
無事に部屋に戻る事が出来た俺は肩で息をする。
呼吸が無性に荒い。
「はぁ・・はぁ・・・お前、本当にこんな事させやがって・・・」
全員爆笑している。
牧野と翼なんてスキー場で転んだときよりも笑っている。
ずっと腹いてーだとか喚いている。
こっちの気も知らないで。
この二人は俺がどれだけ恥ずかしい思いをしたかわかっているのだろうか。
多分わかっていないであろう。
と、そのとき。
バタバタッ! バタンッ!
勢い良くドアが開かれた。
「今、馬鹿な事をした奴は誰だ?!」
学年主任の先生が鬼のような形相で怒鳴っている。
この事件の発端がバレたらどうなるかわからない。
「俺たちはここでずっと荷物整理をしてただけですよ? そしたらさっきの声が聞こえて・・・。この馬鹿が荷物を全部ひっくり返しちゃったんですよ。」
栢山が機転をきかせていけしゃあしゃあと在りもしない嘘をつく。
この馬鹿が、という所を強調して牧野の頭をぺしぺしと叩く。
いきなりそんな事をされて不服そうだったが状況が状況だったので黙っていた。
こんなときに頭が回る奴は羨ましい。
トランプは片付けてあり、荷物が牧野のおかげでグチャグチャだった事が功を奏した。
「そうか、悪かったな。」
一言だけ言い残して先生は去っていった。
5秒ほどの沈黙―――
「あー! びっくりした! 栢山もよくあんな事を簡単に・・・。」
翼の口から安堵の息が漏れる。
「栢山先輩、流石ですね! すごいっす!」
いつもは無口な日高もようやく慣れてきたようだ。
「ひでぇなぁー。俺を悪役に仕立て上げちゃってさー。」
牧野だけがブーイングをしている。
そりゃ、あんな役をいきなり押し付けられたら誰だって文句を言うだろう。
「まぁ、切り抜けられたからいいじゃないですか! 先輩の罰ゲームも面白かったですし!」
三月は思い出し笑いを堪えているのがバレバレである。
まったく酷い後輩だ。
「とりあえずよー。さっさと片付けて風呂行かねぇ?」
またさっきの事で爆笑されそうだったので話を逸らす。
「そうだな。また学年主任に怒鳴られるのもアレだし。」
この状況で翼がフォローしてくれた。
地獄に仏とはこの事だろう。
「よしっ! 決まり! 行こう!!」
俺たちはまず散らばった荷物を片付ける事に。
それから風呂だ。
何事も無く終われば良いけど・・・。
罰ゲームも案外普通のものになってしまったかと思います(汗
栢山のドSっぷりが合間見えたかと^^;
更新間隔が空いてしまい、申し訳ありませんでした。
評価・コメントも増えて嬉しかったです^^




