第一話:練習、そして発覚。
よくわからない気持ちの事を姉に相談すると、竜二は同じ部活の後輩である「笹山香織」の事が好きなのだと姉に言われ、戸惑う。
そんな中いつものように部活が始まるが・・・。
今日は何をしようか。
部活が始まり、俺はメニューを考えながら走っていた。
俺たちの部活の顧問の先生は立派な人だが進路事務のため来れる事が少ない。
隣から副部長の片桐翼が話しかけてくる。
「竜二。今日はどうする?」
「あぁ、今考えてた。大会前だし軽めにスタートダッシュにしとくか?」
「そうか。キツくして怪我されたら困るしな。」
翼は俺がとても信頼している俗に言う「親友」という存在だ。
成績が良く、俺が最も苦手としている数学でいつも90点台を取っている強者。
また普段はメガネをかけていてガリ勉に見えるがそこまで堅苦しい奴ではない。
俺よりも顔は良い方で何回か告白もされているらしい。
こいつも足が速く、種目は違えど俺と一緒に何度か県大会に出場している。
そうこうしているうちにアップが終わった。
久々に50mでも計測してみようか。
一年生に計測してもらおうと思い、適役を探す。
やっぱり笹山かな・・・?
あいつ、ちょっと抜けてるように見えて意外と几帳面だし。
別に笹山ばかりを贔屓しているつもりは無いが自然とあいつが思い浮かぶ。
「笹山ー。50mやるからタイム計って!」
「はい! 部長はまた片桐先輩と計るんですか?」
「うん。あいつには負けられないからね。」
「そうですか〜。頑張ってくださいね! じゃ、準備しま〜す。」
何気ない会話なのに胸がドキドキして、手に汗まで掻いている。
後輩相手になぜこんなに緊張しているのだろうか・・・?
これが「好き」って事なのか?
って・・・今は練習に集中しないとな。
元々負けず嫌いな俺だったが笹山が応援している、というのもあり余計に負けるわけにはいかなくなった。
他の一年生にスターターを任せ、翼と一緒にスタートに着く。
「位置について〜・・・よーい。」
「パン!!」
ほぼ二人同時にスタート。
前傾姿勢をとり、徐々に上体を起こしていく。
そして加速。
30m、40m過ぎても隣り合ったままだ。
周りの景色や人がすぐ後ろへ過ぎてゆき、どんどんとゴールへと迫ってゆく。
ただひたすらにゴールを目指して走る、俺はこの爽快感が好きなんだ。
そしてゴール。
するとすぐに笹山が駆け寄ってきた。
「先輩やっぱ速いですね!ほとんど同着でしたよ!」
俺に言っているのか翼に言っているのかはわからなかったが翼が口を開く。
「ふぅ〜。で、笹山。何秒だった?」
「あ、すみません。えっと斉藤先輩が6’36で片桐先輩が6’38です。」
おっ。勝った。やった!
「あぁ〜。負けちまったかぁ。竜二、さすがだな。」
「よし!勝った! けど翼はやっぱ速いなぁ〜!」
その後、何本も走ったが俺は負ける事は無かった。
やがて部活の時間は終わり下校時刻になる。
俺はいつも翼と一緒に帰っているので今日も翼と返る事にした。
すると唐突に翼の口から思いがけない言葉が・・・。
「なぁ、竜二。笹山って、可愛いよな? プロフィールとか見ても可愛らしいし。」
一瞬、言葉を失ってしまった。
「え? ・・・さぁ。 ってか、プロフィール?」
「あぁ。 最近はやってるんだってさ。女子だけじゃなく男子にも。」
と言って差し出されたのはホームページのURLだった。
「これがそうなのか?」
「まぁ、見てみたら? 竜二の携帯でも見れると思うから。」
「ありがと。帰ったら見てみるよ。」
笹山のプロフィール、か。
・・・・・・気になる。
けど、なんだ? この気持ちは。
翼が「可愛い」って言ってから心にグサっと来たって言うのかなんというか。
これも姉貴の言うように「嫉妬」なのか?
こんな話をしながら二人は帰路に着いた。
「ただいま〜。」
俺は家に着くとすぐさま自分の携帯電話を取り出した。
翼からもらった紙に書いてあるURLを携帯に打ち込むと画面を開く。
「これが・・・プロフィール?」
俺はつい、画面を食い入るように見つめていた。
確かに可愛らしい。
顔文字や絵文字がところどころに散りばめられているが適度な数で見やすい。
画面をスクロールしていくとこんな項目が。
「好きな人はのタイプは?」
物凄く気になる。けど見ちゃいけない気もする。
ゆっくりゆっくりとスクロールしていくと画面に表示されていく。
「やっぱり背高くて優しい人かな? けど、優しいだけじゃなくちょっと冷たい。みたいな?
もう正直に言っちゃうと同学年に好きな人いるなぁ〜。」
唖然とした。ただただ驚いた。
なぜだか胸が締め付けられ、肩の力が一気に抜けていく。
急に涙を流して泣きたい衝動にも駆られた。
だがそれを堪え、冷静に考えようとする。
落ち着け、俺。
なぜだ? 女の子なんだし好きな人がいたって普通の事じゃないか。
ネット上に本当の事なんて書くはずないだろ?
いつもの俺なら「へぇ〜」くらいに流していたはずだ。
なのになんで俺はこんなに悲しんでいるんだ?
どうしてこんなに切ない気持ちになるんだ?
俺は・・・笹山の事が本当に「好き」だったのか・・・。
これが・・・今までわからなかった俺の本当の気持ち・・・?




