第十七話:波乱の予感
あれからバトン練習を日が暮れるまでやった。
合計で何本やったのかわからない。
でも、ようやく先生からもOKを貰えるバトンパスをする事が出来た。
俺と日高のところが全然うまくいかなくて大変だったけど・・・。
こういう細かい合わせは苦手で俺がミスしてばかりだった。
それなのに日高は文句一つ言わずに付き合ってくれた。
あれが他の奴だったら確実にキレているだろう。
本当に感謝している。
あいつの性格が黙々となんでもこなす性格でよかった。
「お疲れ様でーす!」
「お疲れっす。」
三月の大きな声と日高の低い声が聞こえた。
あれだけ走ったのに三月はなぜこんなにも元気なのだろうか・・。
「お疲れさん。じゃあな。」
翼はもうクタクタのようで適当な挨拶しかしなかった。
「お疲れ! 日高、最後まで悪かったな。じゃ!」
日高に謝り、俺も翼の後を追う。
みんな一生懸命取り組んでいたため、もう部活終了時刻は過ぎ既に辺りは暗くなっていた。
香織に途中で先に帰るように言っといたほど。
あまりのんびり帰宅していると夕飯抜きにされてしまいそうだったので翼と一緒に足早に家に帰った。
「ただいまー。飯は?」
「はいはい、出来てるわよ。」
家族みんな夕食は食べ終わっていたようだ。
腹が減りすぎて死にそう。
俺はカレーを3杯平らげるとすぐに風呂へと入った。
その早さと量にみんな驚いていた。
(まぁ、山盛り3杯を25分たらずで食べたら驚くよな。)
風呂もさっさと出た。
早めに寛ぎたいのだ。
急いで自分の部屋へと向かった。
床にあるクッションに座り、コンポの電源を入れた。
大音量で流すと姉貴に怒られるので音は小さめだが。
座っていたクッションを枕にして寝転ぶと携帯を手に取る。
「新着メッセージ2通」
液晶画面にそう表示された。
一通目は香織から。
「バトン練習お疲れ様! リレーメンバーはやっぱり速いね! バトン、うまくいった? 疲れてるなら返事無くても平気だよ!」
ねぎらいの言葉だ。
疲れている時に好きな人からこんなメールを貰うと疲れが一気に吹き飛ぶ。
(香織からのメールなんだから疲れてたって返事するって。)
そう、心の中で密かに思いながら文章を考える。
「ありがと! バトンは最後はOKもらえたよ。それまでかなり時間かかったけど・・・。全然心配しなくて大丈夫!」
何度か誤字・脱字が無いか確認して送信ボタンを押す。
二通目は筒井から。
「明日って何時集合でしたっけ?!(汗 あと、今日は香織が寂しそうにしてましたよ?(笑)」
筒井らしいメールだ。
集合時間を忘れてるとこがあいつらしい。
しかもメールでもからかってるし。
とりあえず、集合時間を書いて最後に「ばーか」と入れて送信しておいた。
しばらく漫画を読みながらくつろいでいるとまた携帯が鳴った。
だがメールでは無い。
(電話・・・?)
「もしもし?」
「あ・・いきなりごめんね。今、大丈夫?」
電話の主は香織だった。
向こうから電話が来るのは珍しかったのでかなり驚いた。
「大丈夫だよ。ちょうど暇だったし。」
俺も香織も某携帯会社の人気プランを使っているためこの時間帯なら無料で通話出来る。
携帯の料金は俺の場合、基本料以外は自腹なので注意しなければならない。
「よかった! あ、メールでも言ったけどお疲れ様!」
「ううん、ちょっと疲れたくらいだから平気。」
未だにどこかぎこちない話し方になってしまう。
なぜ翼や筒井の時のように話せないのだろうか・・。
「そっかぁ。寝たくなったら言ってね! いつでも切るから!」
「あぁ、ありがと。でも・・。」
「ん? どうかしたの?」
「香織と話していたいなぁーって・・。」
つい、本音が出た。
こんな事を大っぴらに言っちゃって平気なのか?
なぜか言ってはいけなかったような気がしてきた。
少しの間、香織は黙り込んでしまった。
「ありがと・・私もそうだよ・・・。」
電話ごしだが顔を赤くして下を向いている香織の姿が想像できる。
言ってしまった俺自身も恥ずかしい気持ちで一杯になった。
「あ、いや、その・・なんていうか・・・。」
思わず慌ててしまう。
お互いに黙ってしまった。
電話での沈黙は一番気まずい。
「あ、あのね。実は・・・。」
香織が沈黙を切り裂いた。
「ちゃんと言っておかないといけない事があって・・・。」
俺はなぜだかすごく嫌な胸騒ぎがした。
なんとか二日連続更新できました。
これからもう少し更新出来るように努力します^^;




