第十六話:新たな課題
県大会まであと2週間に迫ったある日。
「コラッ!! 三月! 日高! テキパキ動け!」
「はい! すみませんっ!!」
バトンパスの練習中である。
今、怒られてるのは三月廉太郎。
それと日高怜。
二人ともリレーメンバーだ。
一年なのに二年を差し置いてリレーメンバーに選ばれるほどの逸材。
リレーメンバーは四人。
400mリレーだから一人100m。
一走は三月。
こいつはスタートダッシュが部内で一番速い。
俺や翼でもスタートではこいつに勝てない。
いわゆる「天性の才能」らしい。
それを生かして100mをやっている。
完璧な前半型の走り。
まったく羨ましいものだ。
二走は翼。
先生曰く二走は大抵どの学校もエースが走るらしい。
ここでも翼の方がエース扱いなのが少し癪だけど。
タイム的にはあまり大差ないのに・・。
まぁ、コーナー走がそんなにうまくないってのもあったらしいけど。
三走は俺。
俺は翼とは正反対でコーナー走の方が得意だ。
昔、俺も100mをやってたが三月みたいな爆発的な瞬発力は無かった。
その上走り終わった後に少し余裕が出来てしまう、そんな中途半端な走りだった。
そこを先生に指摘されて400mに転向したっけ。
アンカーは日高。
こいつに加速走をやらせたら俺も翼も追いつけない。
部内で多分、加速が一番うまい。
専門の200mでもスタートして50m付近からかなり加速する。
典型的な後半型だ。
この4人の面子で県に挑む。
ちなみに今は三月と翼が合わせている最中だ。
「よーい・・・はい!」
スターターの一年が合図をして三月が走る。
こいつのスタートを見てると呆気にとられる。
あっという間に翼がつけたポイントの所まで走ってきた。
翼が走り始める。
「はいっ!」
掛け声とともに翼が手を出し、バトンが手に渡る。
そのまま翼が駆け抜ける。
「翼! タイミングはバッチリだけど手、もうちょい上の方が安定すると思う。」
「あぁ、わかった。三月、悪いな。」
「いえいえ! 全然大丈夫っすよ! じゃ、部長と怜も・・」
「そうだな。竜二、俺らは一度見てるよ。」
そう言うと翼は俺にバトンを手渡す。
スタート地点に行くとスタートの指示が出る。
「位置について。よーい・・・はい!」
バッと飛び出す。
学校の校庭は一周200mなのでカーブがキツい。
かなり体を傾けて走らなければならない。
が、俺はとりあえず難なくこなす事が出来た。
そして日高がつけたポイントへと足を踏み入れる。
目の前の日高が走りだした。
日高の背中を追いかける。
(もう少し、もう少し・・今だ!)
「はいっ!」
日高が手を伸ばすが届かない。
(くそっ! 早すぎた!)
結果、バトンはうまく渡らなかった。
試合でこうなってしまったらテイクオーバーゾーンで失格になってしまう。
「竜二ー。声出すのが少し早かったな。もう少しだけ遅らせていいと思うな。」
「ありがと。日高、ごめん!」
両手を合わせて平謝り。
「いや、いいっすよ。俺ももうちょっと合わせますんで・・・。」
こうして何度もバトンパスを繰り返した。
新たな課題が出来た。
この課題を早くクリアしなければ。
俺はもう一度気持ちを入れなおしてスタートに立つのであった・・・。
バトンパスです。
テイクオーバーゾーンとはバトンゾーン(バトンをこの中で渡さなければならない)から出てバトンが渡った場合、失格となってしまいます。
本文、短くて申し訳ないです(汗




