第十一話:告白
「はい・・・わかりました。」
この間の事を思い出したかのように目を逸らしながら言う。
俺は笹山を連れて競技場の裏へと向かった。
競技場の裏側なんてよほどの物好きじゃない限り誰か来る事は無い。
少し原っぱのようになっているが木々が多いため周りからじろじろと見られる心配も無い。
お互い正面を向くように立ち止まる。
まるで決闘でもするかのような雰囲気。
が、二人とも目を合わせる事は無い。
視点が定まらず、空や地面をボーっと見つめるだけ。
この沈黙はとても長く感じられた。
そしてついにこの沈黙を切り裂くように笹山が声を発した。
「この間の事ですよ・・ね? あの時は本当に混乱してて・・すみませんでした。」
俯くように軽く礼をする。
「あぁ・・実はあの時、ちゃんと言えなかった事があるんだ。」
大きく唾液を飲み込む。
頭が真っ白になってきて何をどうしたら良いのかわからなくなってくる。
「言えなかった・・・こと?」
ずっと俯き加減だった笹山がふと顔を上げる。
しかしそこにいつもの元気は無く、あの時の悲しい目をしていた。
心を見透かされるような純粋で潤んだ瞳。
その瞳にはまた涙がたまっているように見えた。
「まずは顔を背けたり、目をわざと逸らしたりしてごめん。 でも・・・」
「でも・・?」
大きく深呼吸をしてから腹をくくる。
今までに味わった事の無い緊張感。
そして今までに無いくらいの重く、暗い空気が流れる。
「笹山の事が嫌いで顔を背けたりするわけじゃないんだ。」
「えっ・・・?」
「俺は、笹山の事が好きで好きでたまらなくて。でも顔や目を合わせる事が物凄く恥ずかしくて・・・。こんな経験始めてだったからどうしたらいいのかわからなかったんだ。」
「!!!」
相当驚いたようだ。
あの時と同じように笹山の瞳から次々に涙があふれ出てくる。
「誰よりも笹山の事が好きだ。 俺と・・・付き合って下さい。」
ようやく言う事が出来た。
これが俺の正直な気持ち。
今まで何なのかわからなくてもやもやしていた気持ち。
笹山の目を真剣に見つめる。
背けたり逸らしたりなんてせずに。
口を片手で抑えて涙を流し続けていた。
笹山は震える口を必死に動かしながらゆっくり、はっきりと答えを出す。
「私も・・・私も先輩の事がずっと大好きでした・・・でも、本当に私なんかでいいんですか・・・?」
そう俺に問いかけるとそのまま号泣してしまう。
俺は少し俯き、慎重に言葉を選んで口に出す。
「・・・笹山だからいいんだよ。俺は笹山がいいんだ。代わりなんていない。」
この言葉を発した瞬間、笹山は力が抜けたようにその場に座り込んでしまった。
「本当に・・・本当にありがとうございます・・・よ、よろしくお願いします・・・」
ところどころに咳やすすり泣きが入りつつも丁寧に答えてくれた。
「こ、こちらこそよろしくお願いします。ありがとう・・・」
頭の中が混乱して今の状況をうまく掴めない。
(これはOKなのか・・・? とりあえず慰めてあげないと・・・)
そう思い、俺は手を差し伸べる。
「ずっと辛い思いさせてごめんな。さ、立ち上がれるか?」
「ぐすっ・・・すみません・・・」
俺の手をしっかりと握って立ち上がる。
「ほら、これ使っていいから。 もう泣くなって。」
微笑みながらポケットからハンカチを取り出しそれを手渡した。
優しくしたつもりだったのだが笹山は余計に泣き出してしまった。
そしてハンカチを受け取ったほんの一瞬の出来事だった。
俺はバランスを崩し、倒れそうになる。
気づくと笹山が俺の胸でわんわんと泣いているではないか。
この状況にどうしたらいいのかわからずあたふたするばかり。
でも、そんな笹山の事をとてもいとおしく思った。
俺は笹山の事を軽く抱きしめながら
「本当に・・・ごめんな・・・」
そう呟いていた。
笹山は思っていた以上に小さくほわほわした感じで例えるならば羽毛布団のようだった。
もしかしたら例える事など出来ないかもしれない。
そんな不思議な感覚だ。
しばらく泣いていたがようやく泣き止んでくれた。
「じゃあ、そろそろ帰るか?」
「はい・・・服、グチャグチャにしちゃってごめんなさい。」
「気にしなくていいんだよ。後、敬語も使わなくていいよ。」
「うん、わかった・・」
照れくさそうにそう言うと俺も照れくさそうに言う。
「じゃ、帰ろ? 香織。」
「うん!」
ようやく元気な笑顔を取り戻してくれた。
互いに微笑みあうと手を握り締め、帰路に着く事にした。
とうとう告白しちゃいました(笑)
次はある矛盾を解決したいと思います。




