プロローグ
俺はいつもと同じようにベッドで考え事をしていた。
寝る前にはなぜか考え事をしている。
俺の名前は斉藤竜二。
中学二年で陸上部に入っている。
自慢じゃないが県大会にも何度か出場した。
だから先輩や先生に期待の眼差しを向けられ、部長になってしまったのである。
俺は人の前に立って進んで動く、という事が一番苦手なのに・・・。
最初に推薦された時点で断れば良いものを成り行きで引き受けてしまった。
そう。俺は昔から頼まれたら断れない性格だった。
この性格のせいでいつも貧乏くじを引いている。
小学校のころから掃除当番や給食当番を頼まれるのは毎度のことだった。
学級委員もやったしうさぎの世話までやった。
別にパシられているわけでは無いが友達に頼まれるとどうしても断れない。
今、一番悩んでいる事かもしれないな。
いや? 二番目か?
俺にもこの性格以上に悩んでいる事があった。
同じ部活の後輩である笹山香織という女子の事がすごく気になっているのだ。
笹山はとても明るく、活発で細かい所に気配りが出来るいい子だ。
だが責任感が強すぎて問題を一人で背負い込んでしまう所もある。
以前、彼女の悩みを聞いた事があった。
しかし、途中で泣き出してしまい俺はあたふたしながらなだめるだけだった。
自分でも情けない話だと思う。
彼女は容姿も良く、ほっぺたのちょこちょことしたニキビが可愛らしい。
セミロングの髪の毛をいつもきちっと結んでいる、いかにもモテるだろう!って子。
前まではちょっかいかけてくる後輩、としか思わなかったのだが・・・。
そもそも俺は走る事ばかりでこちらの方面には疎かったため、昨日姉貴に相談してみた。
「竜〜。それってその子の事、好きなんじゃないの? ってか絶対そうだって! 頑張れ〜♪」
と、軽く流されてしまった。
こんな大事な時に役に立たない姉貴め・・・。
でも少しだけわかった気がする。
俺は・・・笹山の事が好き・・・?
笹山はただの後輩じゃないのか?
気づくと目で追っていたり他の男子部員と話しているとなんとも言えない気持ちに襲われる。
姉貴いわく、この気持ちは「嫉妬」らしい。
そんな事言われてもわかんない。
もう寝てしまおう。明日も朝練あるんだし。
俺は目を閉じるとすぐに眠ってしまった。
次の日。
チュンチュンと雀が鳴き朝日が窓から入ってくる。
いつも設定している携帯電話のアラームで俺は目覚めた。
寝ぼけ眼で顔を洗い、朝食のパンを少しかじって歯を磨くとすぐにシューズを持ち出発した。
「いってきまーす!」
アラームを鳴らす時間を間違えたため少し遅刻気味だった。
部長が遅れてしまったらまずい、と思ったが持ち前の足の速さでなんとかセーフ。
俺が肩で息をしていると一人の後輩が近づいて来た。
「先輩! 遅刻ギリギリじゃないですかぁ〜。また遅くまで考え事してたんですか?」
あの笹山だった。
走ってきたので胸の鼓動は元々激しかったが、なぜだか余計に早くなる。
こいつの目を見てると吸い込まれそうな感覚に陥る。
目を合わせている事が出来ず、つい目線を逸らしてしまう。
「あ! 目逸らしましたねぇ〜? 図星だぁ!」
「今日は携帯のアラームが・・・。」
「言い訳禁止! さ、もう時間ですよ? 大会は来週なんですから早く練習しましょ!」
確かに大会まであと少しだ。けど理由くらい言わせてくれても・・。
まぁ細かい事は気にしないようにしよう。
「練習始めま〜す。」
この掛け声とともに今日もまた部活が始まる・・。
この時はまだ部活が終わった後、あんな事になるなんて思いもしなかった。




