第10話 どうでもいいよ
ノブとサンザークがマク王国に入って10日目予定通り馬車は進み、マク王国首都マーセルに到着する。ちなみに馬車を引く、動物はウーマーという動物らしく、名前にひねりもなければ、まんま姿かたちも馬だったことにノブはさすがは『隣の世界』としか思えなかった。
乗り合い馬車はマーセルの門の前まで行くと乗っていた人を下し、馬車専用の列に並び、ノブとサンザークも人専用の長蛇の列に並ぶ。1時間ほど並ぶと兵士に簡単な身分証明をし、入城税を払って城下街に入る。サンザークが身分証明書となるギルドバッジを出すと兵士は思わず敬礼をしてしまい、少し注目を浴びるといった事件はあったものの何事もなく城下町に入ることができた。
二人は城下町に入る、マク王国は小国と呼ばれる大陸で12番目の国だが、そこは首都なので今までノブが見た街の中でもっとも大きく、もっとも賑やかだった。市場には人が溢れ、様々な声が聞こえ、田舎出身のノブは元の世界の夏祭りの時を思い出しながらサンザークの後を追うように歩き、市場を抜け裏通り入る。サンザークは裏通りにある、みすぼらしいというより、廃墟の前で足を止める。
「着いたぞ、ここが俺の剣を鍛えなおしてくれた鍛冶師ドワーフが営む、鍛冶屋ドワーフだ」
「ボロ・・・ボロっていうより、廃墟じゃないですか!もう、あんまり僕を驚かせないでくださいよ!でも、ドワーフ族はいるんですね?(やっぱり、鍛冶といえばドワーフかこのボロさはいただけないけど、ドワーフが鍛冶が得意なことは僕でも知ってる)」
「ドワーフ族?お前、何言ってんだよ。ここで家事をやってるのはドワーフさんだ」
「ん?ドワーフさん?だから、ドワーフ族の人でしょ?身長が低くて髭を生やしててお酒が大好きな」
「いや、ドワーフさんだ。まぁよくわからんが中に入るぞ」
サンザークは朽ちかけているドアをノックし、中からの返答を待って開け、ノブを促し二人で中に入る。
そこにいたのは綺麗な机を前に優雅にティーカップに口をつけている、女の人がいた。女の人はセレブの雰囲気を醸し出し、背中まで伸びる髪はサラサラ、スタイルは良く、若くはないが美熟女という言葉が似合う人だった。
「何からつっこもう・・・・・・・まず、外の雰囲気と中の光景のギャップ!!!次にドワーフのイメージ崩しすぎ!!!そして、なぜめっちゃ美人!!!」
ノブはつっこめる限りつっこむ。すると、美熟女のドワーフさんがティーカップから口を話し、サンザークに声をかける。
「サンザーク、久しぶりだな。して、この騒がしい小僧は誰でい?」
と太めの声を出し、ノブの方を向く。
「オカマやーーーーんっ!!!声だけドワーフのイメージ通りって!!」
「おい、ノブ落ち着けって!」
「おい、小僧!失礼なやつだな!わしはオカマじゃない、女装が好きなだけでい!!!」
「これ以上、ドワーフのイメージを崩さないでくださいー!!」
数分後、やっとの事でノブは落ち着きを取り戻し、サンザークと共に席につく
「それでこのうるさい小僧は一体なんなんだ?」
「こいつは俺の1番弟子のノブだ。根は良い奴なんだが突然気が動転することがあるんだ」
「なるほどな、しかしお前が弟子を取るとは思わんかった。今までもお前から教えをこいたいとやってきた奴は多かったろうに・・・・・・」
「俺は俺より強くなれると思ったやつしか弟子に取らないと特級冒険者になった時に決めたんだ。今まではそういう奴が居なかっただけだ・・・」
「ほう、そこまでお前に言わせる逸材か!!」
「まぁな・・」
ノブは二人の会話を聞きながら思う
『シュールすぎる!!山賊みたいな人とオカマが真面目な顔をして話す姿・・・シュールすぎる!!』
「それで小僧のマイジュエリーは何なんだ?」
「あぁ・・・今から話すことは他言無用だぞ!!!」
「わかっている、わしの命に変えても他言はせん!!」
「レインボーダイヤだ」
「何っ!?レインボーダイヤだと!?そんなバカな、ありえん!!」
サンザークはドワーフの驚く顔を見て、ルーブルのシシブ支部長が同じ反応をしていたことを思い出す
『やはり、そうなるわな』
「まぁお前の事だから嘘はないと思うが、実際に見て見ないことには信じられん」
「おい、ノブ、ドワーフさんにお前のマイジュエリーを見せてやれ」
ノブは黙って頷くと懐からレインボーダイヤを出し、ドワーフに見せる
「こ、こ、これが神の・・・美しい・・・ありがとう・・・・しかし、このレインボーダイヤに適合する武器なんて、いくらわしでも作ることはできんぞ・・・ましてや適合する武器があることすら疑わしい」
「いや、そんな事はわかってる」
「ならどうして、わしのところに来たんだ?ただ自慢に来ただけではなかろう」
「えぇ、ノブの武器を鍛え直してもらいに来たんだ、ノブ、あの鉄の棒を出せ」
ノブは布に包まれた鉄の棒を出し、ドワーフに渡す。ドワーフは鉄の棒を受け取るとマジマジと見て
「穴が2つあるのは珍しい、一見ただの錆びた刀のようだが・・・芯の部分に力は感じる。古代遺跡で出土されたのか?しかし、これを鍛え直しても、お前のブラックバスターと同等の得物になるかもしれんが、レインボーダイヤに適合するとは思えんぞ・・・」
「確かにただの古代遺跡で発見された物ならブラックバスター程度だろうが、この錆びた鉄の棒はバン王国、常闇の洞窟最下層ある神の水くみ場の水底に突き刺さっていたんだ」
「なっ!?何!?常闇の洞窟といえばお前でさえ入ればただではすまないという迷宮のはずだろ?しかも、神の水くみ場の水底に刺さってる棒は誰が何をしようとも絶対に抜けない、この話はこの大陸中の冒険者・・・いや誰もが知る話だぞ!それがこの錆びた鉄の棒の事でなのか!?」
「恐らくな、俺も1回だけ神の水くみ場に行って抜こうとしたが抜けなかった・・・・その時に見た鉄の棒とこれは同じものだろう・・・」
「・・・・そうか、神と神なら適合するか・・・」
「ちょいと、お二人さんぼくは全くついて行けてないんですが・・・サンザークさん、話の中で気になったんですが、僕がいた場所ってそんな危険な所だったんですか?」
「危険も何もノブ、お前が居ただろう場所は1級冒険者がパーティを組んで挑んでも最下層にたどり着く前に90%死ぬ、そして残り110%が運良くたどり着いても帰り道で100%死ぬような所だ」
「・・・・・(あのイケメンハゲぇーーーーーー!!!!!)」
「まぁお前はとてつもなく運が良かったって事だな。それで、ドワーフさんこの鉄の棒を鍛え直してもらえるか?」
「僕からもお願いします!!!」
「それはわしとしても是非やらせてほしいが・・・・一つだけ条件がある・・・・わしの大好物、ウーシーのミルクがきらしていてな、それが無けりゃ剣は打てん!!」
ノブはポカーンとしながらも
「ウーシーのミルクですか?」
「あぁそうだ、わしは酒が飲めんからウーシーのミルクを飲んで、集中力を保つんだよ」
「・・・・・・」
ノブは、もはやどうでもいいと思いながらサンザーク共に市場にミルクを買いに行くのだった