やっと、会えたね
そこには、美少女がいた。
山のふもとから追いかけてきてようやく会えた。
頂上に行けば会えるなんて思っていたけれど、本当に頂上で会えるとは思っていなかった。
感動のあまり沈黙。
膝をつき崇拝するような気持ち。
女神でも見てるかようだった。
嬉しさで足は動かない。
今にも駆け出して彼女に飛び込みたいのだが、彼女はそれをよしとしなかった。
夕陽を眺める彼女。
その姿がとても美しく、見惚れてしまった。
彼女はこの山の守り神かなにかなのではないのかと思った。
その彼女がこちらを見た。
「ーーーーー!」
驚いたような、引きつったような顔をしている。
「え?」
なんでそんな顔をしたのかわからなかった。
ぼくには、彼女に思わせるなにかがあるのだというのか。
「あ、あう…うわわわわ…」
なにか慌てている彼女。
助けてあげたいのだがかける言葉が見つからない。
するとそこに…
「おまたせー!時間かかっちゃってごめん!」
1人の男が現れた。
驚きを隠せない。
そりゃ彼女は可愛いから彼氏の1人や二人はいるもんだと思ってはいたが…
その男はなんと、クラスメートの佐治火 幻という名前の男だったのだ。
「な、なんで…なんでお前がいるんだーー!」
ぼくは幻に問いかけた。
「なんで!なんで!なんで!ンッヒィィィィ!」
頭の中がごちゃまぜになってわからなくなっていた。
「落ち着け!落ち着けって!」
「落ち着いてなんかいられるかーー!」
今にも暴れ出しそうだ。
「あわわわ。はうわわわわ」
彼女は戸惑っているようだ。
そうだ。ぼくは彼女を困らせるために来たんじゃない。
一目みられるだけでよかったはずだ。
落ち着け。落ち着け。落ち着け落ち着け落ち着け。
心を無に。
白紙の回答用紙を思い浮かべろ。
ぼくはこれからテストに取り掛かる。
こんな乱れた思考じゃ、わかるものもわからなくなる。
冷静になるんだ。ぼくはやればできる男だ。
無心になれ。奏 誠司。
「………………………ふぅ」
落ち着くことに成功した。
乱れた呼吸も正常に戻った。
「なんでお前がそんな可愛い子と一緒にいるんだ?」
疑問をありのままぶつけた。
「ああ。それはね。今日一日この子とピクニックをしてたからだよ。」
「なぜ…この子とピクニックなんだ?」
「誘われたからだよ。」
「なんで誘われたんだ?」
「それはぼくにもわからない。ピクニックに付き合ってくれる人なら誰でもよかったんじゃないか?」
違う。そんなはずはない。ただの男友達をピクニックになんか誘うもんか。
誘うとしたらそれは…
「二人。付き合ってるのか?」
「は?」
「え?」
「ち、ちちちちがいます!付き合ってなんかいません!」
「そうだよ。なに勘違いしてるんだよ。第一この子はーー」
幻が何かを言いかけたその口を彼女は塞いだ。
「んんん!んーーー!」
幻は苦しそうだった。
「今なにを言おうとした?」
彼女が怖い顔でそういった。
「な、なんでもありません…」
幻は縮こまった態度でそう言った。
しかし、二人が付き合ってはいないのだとわかって安心した。
だが、気になる。
幻はさっきなんと言おうとしていたのか。
それだけが気がかりだった。