逆ハーマジ勘弁にかかわる物語。~残念ながらリロイは今日もシスコンです。~
お前嫉妬と怒りに心が奪われたとしても、私の一言は肝に命じとけ。な?
恋物語の野外は大変なもようです。
あの方に出会ったのは、ある麗らかな昼下がりの事。
鬼のような后修行に耐えきれず、みっともなく涙を溢しながら庭に走り出てしまった時でした。
きっと、
この出会いがなければ私は…
☆☆☆☆☆☆
「ミシャエル様、こんなところで何をなさってますの?」
広大な学園の庭園の片隅のガゼボで、落ち着きなくソワソワしている王太子殿下を発見した私は溜め息を殺し微笑んで尋ねた。
「貴様には関係無いだろう!」
その目に浮かぶのは嫌悪感。
一体何故そこまで嫌われてしまったのだろうか。
普通に話しかけてもまともな会話もできなくなってきている今日この頃。
やさぐれてもいいでしょうか。
「…リリカ様が貴方様を探しておりましたわ。」
「貴様!リリカになにもしていないだろうな!」
「ミシャエル様、リリカ様は貴方様の従姉妹の姫君です。
そんな方を害そうなどと考えるような愚か者に見えまして?」
あいかわらずこちらを睨み付けてくる殿下。
そう思ってるのですね、そうなのですね。
私、そこまで浅はかになれるほど緩い教育を受けたつもりはありません。
「…私、ミシャエル様とリリカ様の事を祝福したいのですよ…?」
女一人に首ったけになって愚王まっしぐらな貴方と、能力があったり身分の高い顔のいい男に媚売り尻を…いえ…無邪気なふりして男好きなリリカはお似合いですわ、ふふふ。
王太子殿下が目を見開く。
信じられないものを見るような目で。
「私達の婚姻は王家が決めたもの…私が覆す事などできはしません…
ですが、王太子殿下である貴方様ならば、可能なはずです!
大切なリリカ様を側におく事を諦めないでください!」
「…!」
はっとしたような顔に腹が立ちますわ。
私を悪役にして自分たちを悲劇のヒーローヒロインにしたいのですよ。
グダグタいいながらなにもしない。
はぁ…
王弟殿下の庶子であるリリカが学園に来てから少しずつおかしくなりました。
彼女は将来有望とされる男『達』を次々と骨抜きにしました。
そう、『達』をです。
学園の中枢を担う身分の高い方、才能溢れる方々が揃いも揃って仕事をしなくなってしまったのです。
まともに仕事をされていたのは庶務のリロイ様位でしょうか。
我が学園は生徒によって作られる小さな王国。
最低限の身分差はわきまえつつも互いを尊重し切磋琢磨しています。
役職持ちは皆がより良く成長し手を取り合えるよう、全生徒のフォローやサポートもこなしつつ行事運営も行うという名誉の奴隷みたいなものです。
能力が高くても個性的な面々が多い生徒達をしっかりと纏め上げ、才能を生かせられるよう采配を振るかつてのミシャエル様はそれはそれは素晴らしかったのです。
それまでは…私も彼に恋をしていました。
王太子殿下は私の事を義務として宛がわれた婚約者としか思ってはいないのは分かっていたのです。
ですが、
ですが…
それでもその時までは、
『それでもいい。いつか心が通じる事を願って尽くしていこう』と健気にも思ってましたの。
私のような婚約者や許嫁の方々、親しい友人の方々ははじめは諌めたり説得しようと試みました。
ですが、彼らには届く所か憎まれるようになってしまったのです。
リリカを愛する方々はたくさんの期待と重圧を背負って生きてきました。
それ故、バランスを崩してしまったのかもしれない…
もっと早く気付いてあげればよかった…と後悔もしました。
もうしばらく見守るべきなのでは?
それで改善しなかったら?
もしも、彼らの行いが学園外の方々に知られれば彼ら自身だけでなく私達も責を問われてしまう。
後悔と不安と恐怖、怒りと嫉妬。
それらの感情に襲われた私に、あの方の言葉が甦ったのでした。
『あなたは后にしかなれないんじゃなくて、后にだってなれる子なんだよ。
いつか誰かを嫉妬して怒りにまかせて傷付けたくなるかもしれない。
思ってしまうのは仕方がないよ、人間だもの。
けれど考えることをやめないで。その思いだけに囚われないで。』
ずっと、后にならないといけないと思っていました。
后に成れなければ死ぬと同義だと。
皆がそう思っているのだと。
現実は違いました。
お父様をはじめ、家族は私が辛いならば婚約なんぞ破棄だ破棄!といい笑顔でおっしゃって背中を押してくれました。
友人達には心配ばかりかけてました。
私が相談すると、やっと言ってくれたと泣かれてしまい驚いて、そして私も泣いてしまったのでした。
そして、
リロイ様。
リリカ様の恋の下僕達がおかしくなってから方々に頭を下げ、フォローをし、私にもお声をかけて何でも相談に乗ると請け負ってくれました。
ご自身が一番辛い立場でしょうに、それでも…
そうしたら、ミシャエル様達などなんだかどうでもよくなってしまいました。
肩の力が抜けて、楽になりました。
そしてあの方の言葉が私に自信も与えて下さいました。
后修行は本当に本当に大変で、苦しかったし辛かったですが、何があっても対応できる力、何になってもやっていける力を私に与えてくれました。
私の進む未来は、自由に選べるようになったのです!
だから、早く羽ばたきたいのですわ。
「あなたがそんな風に思ってくれていたなんて!
ずっと反対されると思ってたわ!」
ちらりと目をやれば、私の後ろにリリカ様。
更に後ろにいる侍女兼学友のメリッサが『止めたけどふりきられました。』と目で伝えてきます。
待てもできはしませんの…?
どこかいかれても困ると思ってメリッサを側に付けミシャエル様を呼びに行きましたのに…
…まぁ、リリカ様ですものね…
私はそっと俯き、扇で顔をかくし肩を震わせました。
もちろん笑いをこらえております。
しかしながら、他の方からみれば泣くのをこらえているように見えるでしょう。
地獄の后修行に感情コントロールがあります。
私、結構極めましたのよ?
ですから…
顔を上げた拍子に一滴の涙を溢しながら、私は告げます。
「ミシャエル様…いいえ、王太子殿下…!
私達は貴方様の事を頼りきりでしたわ、ですがこれからはご自分の事にも目を向けて下さいませ。
今度は私達が支えていきますわ。
どうぞ名をお許しになってください。」
「…!!!
…すまない…
リリカ、これからはミシャエルと、名を呼んでくれるか…?」
「!!!
ええ!嬉しいわ、ミシャエル様っ!!」
涙を流す私をすまなそうにみた王太子殿下ですがすぐに切り替えて、愛しそうにリリカ様に呼び掛けます。
そして満面の笑みで応え、その胸に飛び込んでいくリリカ様。
相手の名を呼ぶことは重要で婚約者同士でこそ許されるのです。
二人の世界に入る前に、私は声を掛けました。
☆☆☆☆☆☆
「もうやだ、もう無理、間に合わない…」
薄暗い部屋で黒髪の少年が書類に埋まり死にそうな顔をしています。
どうしても処理できない書類の山。
会長印が無ければ処理できない書類なのでした。
「諦めるのはまだ早いですわ!
これをご覧になってくださいまし!」
そこに颯爽と登場するは、私です。
手にあるのは王太子殿下よりいただいた会長代理の委任状。
私達は被害が最小限に、かつ非難を受けるならばリリカ様と愉快な下僕達がこうむるように動く事に決めたのです。
その為の第一の布石が生徒会の権限を委託してもらう事。
色ボケのおかげで学園が機能停止など笑えません。
「…!!!
よくぞやってくれました!これで安心して姉上を学園祭に呼べます!」
黒髪の少年…リロイ様が目を輝かせます。
もうすぐ副会長、会計、書記の委任状を持った方々がやってくるはずです。
皆様、許嫁や婚約者です。
いえ、元、でしょうか。
実行委員会の代理の方々もやってくる事でしょう。
たくさん悩みました。
たくさん苦しみました。
嫉妬も、後悔も、憎しみももちました。
だからこそ、これからは楽しいことをしたいと思うのです。
別の道を見つけたいのです。
だって私は『なんにだってなれる』のですから。
「やっぱりリロイ様ってシスコンですわね。」
あの方がリロイ様のお姉様と知るのは、もう少し先の話。
リリカのハーレムは11人。
うち半分は婚約者ありか許嫁。
うち2割は恋人がいた。フリーだったのはリロイとみんな平等に愛を振り撒く系の遊び人でした。
リロイは脱出したのでハーレムは10人になりました。