表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そういうことなら -二重人格帝王ウリオンの伝説  作者: 早猛虎家
プロローグ:鳴り物入りで選ばれた教皇
3/250

第二話 若すぎた男

いかがでしょうか。


話題の教皇こそ本作の主人公グレゴリウスすなわちウリオンなのです。


聖人のように見えてかなりしたたかな人物のようですが…。


それでは引き続き序章をお楽しみください。



ひと仕事終えた教皇は、大聖堂に隣接した宿泊棟の部屋でゆったりと瞑想にふけっていた。



静かなその姿には威厳が感じられ、とても彼がまだ18歳であるとは思えない。



そう、教皇グレゴリウスは驚いたことに18歳だった。

天才だ、逸材だとの触れ込みで就任した若すぎる教皇は、良くも悪くも話題の中心となり皆の興味の対象だった。



僧院は静まり返っている。

耳を澄ませば時おり部屋の前を通り過ぎる僧侶の衣擦れの音以外には、物音ひとつしない。


それというのも僧侶たちがあまりの忙しさに「今日は疲れた」などと話す気力も無いほど疲れてしまったからで。


話題のグレゴリウス教皇をひと目見ようとつめかけた人々が多すぎて、ミサは予想外の大混雑。

終了は予定時刻を大幅に過ぎた。


僧侶たちは、自分らの簡素な食事の支度をする暇もなく断食する結果になった。



カタカタと食器を運んでくる音がしてきた。



「グレゴリウス様…白湯をポットに入れました。どうぞ喉を潤してくださいませ」



眉に白髪の混じった年配の、穏やかそうな僧侶が遠慮がちに声をかけた。


彼が教皇になってから、いつも身の回りの世話をしてくれるヨハネスだ。



胃の感覚が無く喉も渇いていなかったが、ヨハネスの気遣いをありがたく思い教皇は、白湯を少しずつ飲んだ。


ひとくち飲み込むごとに胸から腹のほうへ心地よい刺激が伝わっていく。


数秒もすると湯がしみて、空っぽの胃をきゅるきゅるとよじるような痛みが彼を襲った。

それでもグレゴリウスは涼しい顔をしている。

まるで、痛みなど慣れていると言わんばかりに。



「お体の調子はいかがですか?

グレゴリウス様はお若くていらっしゃるから、余計にお腹がすきましたでしょうに…」



白湯をカップに注ぎ足しながらヨハネスが言った。



「わたしのことはかまいません。

皆のおかげで、ようやくわたしは勤めを果たすことができます…」



グレゴリウスがそう答えると、ヨハネスは優しく微笑んだ。


グレゴリウスは自分が教皇だからといって特別扱いをして欲しいとは考えていなかった。


むしろそれまでと変わらず接してもらいたかったし、とくに年長者にはさまざまな知識を教えて欲しいぐらいだった。



「まだ若いわたしが教皇に選ばれたのですから、皆さんには飾らない姿を見せてもらいたいですね。

これまで教皇の耳に入らなかったようなことも聞きたいです」



素晴らしい心がけです、とヨハネスは相槌をうった。


白湯を飲みながらグレゴリウスは、ふと思った。

同年代の僧侶と最後に親しく話したのは、いったい何年前のことだったろう?と。



ヨハネスは謙虚で信頼できる人だったが、グレゴリウスにとって親しい友人とは違う。

彼が教皇になる前は、僧院の大先輩だったヨハネスである。

それが今は身の回りの世話係になっている。


グレゴリウスの地位が上がるにしたがって彼の周囲に同年代の者は減って行き、

いまや彼が日ごろ接する僧侶はことごとく、父親か祖父のような年齢だった。



「今日は、もう休みましょう」


二人で静かに祈りを捧げると、年配の僧侶は一礼して退室した。



…彼はわたしの祖父に少し似ている…。


退室する彼の後ろ姿を見ながら、グレゴリウスは思いだしていた。みずからの進路に影響を与えた祖父のことを。



その頃、祖父はまだ現役のグランデール国王だった。そして、産まれたばかりのグレゴリウスは、ウリオンという名の王子だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ