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そういうことなら -二重人格帝王ウリオンの伝説  作者: 早猛虎家
プロローグ:鳴り物入りで選ばれた教皇
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第一話 登場

きゃぁーーーっ!



大聖堂には先ほどから、

その場に似つかわしくない

黄色い歓声が響き渡っている。


それがまた天井によく反響して


もう、うるさいのなんの。



「静かに!

し・ず・か・に!」



入り口近くの僧侶が必死になって

注意している。

しかし若い娘たちの明るい叫びは

おさまることがない。


なぜなら、すでに大聖堂の

中にいる娘たちが黙っても、

後から後から途切れることなく

新しい娘たちが入ってくるからだ。


そしてまた新しい歓声が湧く…。



「静かにできない人は

出ていきなさい!」



いやはや。


いくら何を言っても

静まるのは一瞬だけ。

同じことの繰り返し。



奥の柱のそばでは、その様子を

眺めながら二人の僧侶が

囁き合っていた。



「まるで鳥の巣に入ったような

騒がしさで、耐えられませんよ。

あぁ…耳がビリビリする!」


「本当に。

ああいった人たちは、

劇場にでも遊びに来るぐらいの

感覚でいるのでしょう。

あきれたことですね」


「ここまで大騒ぎになるとは

思わなかったでしょう?」


「そうですね。

準備をしている時には、誰もが

素晴らしいミサになるだろうと

言っていましたよ」



「全く恥ずかしいことです。

わたしは、つい先ほどまで

勘違いしたままだったのです」


「勘違い?

どういうことです?」



「大聖堂の入り口に

並ぶ人々を見て、わたしは

若い人が多く来て

素晴らしいことだ、と

思ったのです。

それがこの騒ぎとは…」



「仕方ありませんよ…。

それが普通の感想でしょう。

多くのかたが来ること自体は

素晴らしいことですから」


「そうですよね…。

あのような若いかたがたにも

きちんと話を聞いて頂くことが

大切だとは思います。

ですが、あまりの騒々しさで…」


「そうですね。

これでは、静かに祈りたいかたの

邪魔になってしまいます」



同じ時、大聖堂の入り口を

くぐったばかりの

娘たちは、まるで

観光旅行に来たかのような

はしゃぎようで。



…実際、観光のつもりで

ここに来たわけだったが…



「きゃぁっ!すごい混雑!」


「見えなーい!」


「押すんじゃないわよ!」


「あっ!顔が見えた!

どーしよー!

うわさ以上のイケメンかもー!」


「どこどこ!?」


「ちょっと!押さないでよ!

見えなくなっちゃったじゃない!」


「なによ!

ひとりだけずるい!」



さてさて、このような

大混乱の原因であり

大聖堂に集まる

皆の視線の先にいる人物、それは


先月選出されたばかりの

新しい教皇で。


彼はこの騒ぎも全く

気にならない様子。


かわいい我が子を見るような

優しく温かい目で

人々を眺めている。


しかしその黒い瞳と、黒い眉には

何か得体の知れない

不思議な妖しさが宿っていて、


彼に近付いた人々は、思わず

吸い込まれるように

見入ってしまうのだった。



教皇だけが落ち着き払っていて騒ぎは静まる気配がない。

大聖堂の外はもっと恐ろしい事態だった。



「並んで!押さないで!」


参拝者を誘導する僧侶が叫んでいる。



「だめだ!このままでは将棋倒しになる!」

「われわれの手に負えない!助けを呼ばなくては!」

「裏にいる者を全員呼んで来よう!」



こうして、手の空いていない者までが参拝者の誘導にかりだされた。

それは食事係の者までも。

ああ、今日は僧侶たちは皆、断食をするハメになるだろう…。



そして人々のどよめきが頂点に達したかと思われたその時、


教皇がゆっくりと足を踏み出した。


そして姿勢を正すと、よく通る声で話を始めた。



大聖堂は、一瞬にして静まり返った。


押し合いへし合いしていた娘たちも、話題の教皇の声を聞き逃すまいと口を閉じたのだ。



誰もが、彼の発するなんの変哲もない言葉に

息をつめて聞き入っていた…。



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