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風花ーKAZAHANAー  作者: 結城朱琉
2/14

はじまりの刻 弐

なんか、短くてスイマセン(;´・ω・)・・・

大きな葉を持った男性は、突如隣に出現した黒ずくめの者に、懐から出した封筒を渡して、月夜に帰るぞと声をかけた。


「帰るって・・・」


「お前の家に決まってるだろ」


正直戸惑った。何故なら、月夜の家は客を招くような外見ではないからだ。断ろうと口を開いた月夜よりも早く口を開いた男性は、お前の家なら知っていると告げた。その瞬間月夜は警戒した。家を知っているなんて普通じゃない。ずっと前から後をつけていたことになるのだ。


「お前の監視は上からの命令でな」


監視、とは物騒だ。自然と眉間に皺を作った月夜の頭の中は、どうやったらこの男性から無事に逃げられるか、でいっぱいだ。


「不審者扱いされるのはさすがに嫌だな。仕方ない、か」


上着を一枚脱いだ男性の右の腕に紫色の鉢巻(はちまき)が巻かれていた。そのハチマキの両端には、国を治める帝の家紋である雪柳の紋章があった。


「神官・坪岡(つぼおか) 真司(じんじ)。神官長の命により、新しい神官の監視及び警護任務遂行中。新しい神官への儀礼として神刀(しんとう)花檻(はなおり)抜刀」


手を胸の前に当て、男性が刀を出現させると、その刀を(さや)から抜いた。その瞬間、どこから生えてきたのか、(つる)(たば)になって真司と月夜の上にアーチを作る。おかげで雨が降ってこない。蔓とは別の植物が蔓を伝って広がり、一斉に花を咲かせた。紫色の綺麗な藤の花だった。


「すごい・・・」


「これで、オレが神官だって信じた?」


コクリと素直に頷いた月夜に、真司は満面な笑顔を浮かべ、よしっ、と言った。


「さっそく、お前の家に行くぞ。これから準備で忙しいぞ」


準備?と首を傾げる月夜に、真司は説明は後だと言い、月夜の背中を押した。


頷いたは頷いたが、信用はしていない。なぜなら、月夜は神官についてあまり知らない。事件に絡むような環境にいないからである。なにかしらに事件に関われば神官に関わる機会があるのだが、それが皆無である以上いきなり神官だと言われても信用できないのは尤もである。


機嫌良く月夜の隣を歩く真司は、どこからどう見ても一般人である。神官だなんて誰が思うだろうか。


月夜の家の庭を見て、文句一つ言わず、雨でしな垂れる草の間を通っても表情一つ変えない真司を度々盗み見、どうやら本当に監視されていたらしい、と実感した月夜はなんだか全身鳥肌が立った。真司が表情を変えたのは家の中に入ってからだ。


「おー、案外広いな」


簡素な作りなだけに、余分なところがない。通気性もいいので空気も澄んでいるが、それゆえ冬の寒さにはかなり応える。


「どうぞ」


「お邪魔します」


家に上げ、客間に真司を通した月夜は、着替えるので少し待っていて下さいと告げた後、早々に着替え、お茶を持って客間に行くと、寝転がってテーブルの上にあった煎餅をモグモグと食べている真司の姿があった。


普通、他人の家に行った時はもっと緊張して身が強張るものだが、どうやら真司はその型に当てはまらないらしい。


「お茶をどうぞ」


ようやく起き上がった真司を胡乱気な目で見ながら、月夜は自分のお茶に口をつける。


「ん。この煎餅うまいな」


「伝統ものですから」


「ふうん。ん。ああ、で、話なんだが・・・お前には転校と、引っ越しをしてもらうことになる」


そうですか、とあっさり言った月夜に、真司が予想してたのか?と聞いた。


「ある程度は。神官は大切な存在。となれば自由がないことは想像がつきますし。それに、都市でもこんな端の方の地域じゃいろいろ不便でしょう」


神官のなんたるかを教えるとしても、誰かが中央の方から端の方に来るには面倒極まりない。だったら、月夜一人中央に招いた方が楽というものだ。


「まあ、そういうことだ。明後日には中央の方の学校に移ってもらう。明日は神官長の方に挨拶だな」


予定はもう詰まっているらしい。特に用意する物もないのでこのまま行っても大丈夫なのだが、時間をくれるというのだから素直に受け取っておくものだ。


「わかりました」


もう用は済んだとでもいうように立ち上がって伸びをした真司はスタスタと玄関の方へ向かって歩き出した。月夜は慌てて真司の後を追う。


「邪魔したな。じゃあ、明日の朝迎えに来る。学校の方はこちらで手続きを済ませておくから大丈夫だ」


「はい」


「荷物まとめておけよー」


はい、と答えた月夜の頭をポンポンと軽く叩いた真司は颯爽と月夜の家から去った。


ああ、大樹はともかく、金森兄弟に挨拶できないのは少し残念かな、と思う月夜だった。



翌朝、起きた月夜はいそいそと朝食を食べ、家を空けるための最終確認をした。余った時間をぼんやりとすごして、大樹が家を出る頃合いを見計らって月夜は家を出て大樹を待った。


行ってきまーすとよく聞き慣れた声が月夜の耳に届いた。隣の家の門から出てきた大樹は月夜を見て驚く。


「月夜!?お前部活は!?」


「ごめん。オレ今日引っ越しと転校」


「急に?なんで?」


心底驚いたのか、大樹は落ち着いてた。


「家の都合」


「そっか。・・・んでも、月夜と別れるって感じしないな・・・」


「あ、それはオレも同じ」


「だよなー。またどこかで会ったりして。どこに引っ越すって?」


「中央の方」


「遠いな・・・。でも行ける距離だ」


「無理して来るなよ」


「無理して行くわけねーだろ。遊びにならたまに行ってやるよ」


「分かった。学校遅れるぞ」


「おー、そうだそうだ。んじゃ、行ってくる」


「おう。またな」


「おー、またなー」


大きく手を振りながら去る幼馴染みの背中を見えなくなるまでずっと見ていた。不思議と最後な感じがしない。まったく、引っ越し先の住所を知らないのにどうやって遊びに来るというのだ。


家に戻ろうとした月夜の前に真司がいた。


「行くぞ」


「分かりました」


家に戻って、荷物を持ち、しっかりを戸締りをして、鍵を閉めた。こうして見ると本当に空き家だ。それも数年誰も住んでいないような。それでも、今まで月夜が住んでた家だから、まだまだ住める。そんな家に背を向けて、月夜は歩き出した。


昨日真司と月夜が出会った道は、真司が植物を生やしたはずなのに、今は綺麗さっぱり元通りだ。植物を自由に操れるのだから、きっと生やした時と同様に消したのだろうと簡単に予想がつく。


無言でついてくる月夜に我慢ができなかったのか、真司が、学校の友人には挨拶したのか?と月夜に聞いた。


部活を終えた時点でとうに一般の下校時間は過ぎていた。しかも月夜は携帯電話を持っていないから、連絡手段がない。故に友人に別れの挨拶ができるのは幼馴染みの大樹以外にいないのだ。


「幼馴染みにはしました。学校の友人には別に必要ないですよ」


以外にドライなんだな、という真司の呟きを、月夜はわざと無視をした。


「学校には通えるんですよね?」


「ああ。学校ってひとくくりに言っても、普通の学校じゃなくて神官のための学校」


帝の血族しか神官になれないのに神官のための学校とは何の学校なのだろうか。


「ついでに。お前が神官であることは隠してもらう。そんで、お前がこれから住む場所は神官長の屋敷だ」


別に隠すことに異論はない。それで平穏な日常がすごせるなら。ただ、神官長の屋敷に住むというのは遠慮したい気持ちが月夜の中にあった。修学旅行でさえ友達がいるにも関わらず緊張したというのに、お偉い様と一緒に暮らすなんて緊張が半端ない。この先自分は耐えられるのだろうか、なんて悶々としていると、ポンと肩に手を置かれ、ビクッと大袈裟に反応してしまった。


「電車乗るぞ」


「あ、はい」


座席チケットを渡され、申し訳ない気持ちになりながらも改札を通る。やって来た電車に乗り込み、座席に座ると、隣に座った真司が再び話し始めた。


「神官の学校は那智(なち)学園。小学校からのやつが多いんだが、まあ、お前なら大丈夫だろう」


なにが大丈夫なんだろう、なんて不安を覚える月夜をよそに真司は話しを続ける。


「昨日お前も見た、黒づくめの奴らがいただろう?そいつらは全員那智出身だ。つまり、神官の学校というよりも神官に仕える者が通う学校だな。まあ、オレと神官長は那智出身だけど」


驚くべき事実だ。那智学園といえば、優秀で有名だ。相当頭が良くなければ入れないと聞いていた。月夜の場合は、コネで入ったもののようだから、多少大目に見てもらえると考えていたのだが、人間関係すらも優秀でなければならないのか。


「・・・そんな疲れたような顔をするなよ。多分学園仕切ってんのは神官への崇高心が強い奴だと思うから」


だとしても、神官であることを明かしてはいけないのだから崇高心が高くても月夜には関係ない。もっと平穏な日常が良かった、なんて贅沢を月夜は溜息として吐き出した。


「坪岡さんの時はどうだったんですか?」


「真司でいいよ。オレの時は神官長が影で神刀使って悪い奴らを端から成敗してたらいつの間にか頂点だったな」


「だったらオレが神官だってバレてもいいじゃないですか」


「いや。ダメだ」


「なんでですか」


「お前が頂点に立ったところで全員が従うわけじゃない。必ず反発するやつらが出てくる。そうなると、神官への崇高心が欠けてくる。それに、まだ、善悪の区別がつかないだろう?那智でバラしたら、お前が規則・法律になる。その責任をまだ神官になったばかりのお前が背負えるのか?」


的確な指摘に、月夜の言葉が詰まる。改めて神官という立場が重いものだと目の前に突き付けられた。先を見通している真司の今までの経験が話から垣間見える。


そんなこんなで話をしていたら、あっという間に都の中央に来てしまった。月夜が、物珍しくて見回していると、真司に苦笑された。気前良く、買ってやろうか?と言われれば、遠慮なく買ってもらった。そうして、観光さながらに説明を受け、真司の後に着いて行くと、人も少なくなっていた。ついには人気(ひとけ)がなくなり、黒く高い柵がどこまでも続いているような感じにさせられるぐらい続く、道に出た。


月夜と真司の正面には、門があり、両側に黒い眼鏡と黒い制服を身に纏った警官が立っていた。


「証明書を」


警官の片方がそういうと、真司がスッと袖をまくり上げ、紫色の鉢巻を見せた。


コクリと頷いた警官が門を開ける。門が閉まるまで二人は警官に見張られていた。


「・・・・不気味」


「そう言ってやるな。名誉ある仕事なんだぞ。そうそう。ここは皇居地区。オレみたいな神官や帝の血族なんかが住んでる。帝はこの皇居地区の中央の皇居に住んでる。まあ、ここは帝の御膝元(おひざもと)ってとこか。そんで、さっきの警官、黒い眼鏡してただろ?」


「はい」


「あれは、この鉢巻の雪柳の刺繍に織り込まれてる月光糸(げっこうし)を見てるんだ」


月光糸は皇居でしか栽培されていない貴重なものだ。栽培方法が不明なので一般では作りようがない。


「偽物は簡単に作れないですからね」


「そう。証明書になるから失くしたら厳重処罰。気を付けろよ。さっきお前を通してくれたから話は伝わってるみたいだ。このまま神官長のところに行くぞ」


「はい」


返事をした声が震えた。緊張しているのが伝わったのか、真司がクスリと笑った。


「気楽に行けよ。神官長はなー・・・んー・・・まあ、鈍いやつだな」


「鈍い?」


「そー、鈍いんだよ。んでもって、世間知らず。あー、でも今は結構・・・(さま)になってきたか。昔は一緒に街に潜り込んでたな。んで、帰ったらこってり怒られた」


神官長と真司の仲の良さに自然と月夜の頬が緩んだ。


「仲が、よろしいんですね」


「まあ、幼馴染みだしな。・・・ここだ、月夜」


初めて名前を呼ばれたことに驚いた月夜をよそに真司が中に入っていく。ここは、自由に入れるらしい。


ガララ、と戸を開けた真司がスタスタと入って行ってしまうので戸惑う暇もなく月夜はお邪魔しますといって家に上がる。


「神官長ー」


パアンと勢いよく開いた障子の音に月夜はビクリと驚いた。いや、月夜でなくても驚く程の音だった。


「もう少しゆっくり開けられないのか?真司。障子が壊れてしまうよ」


「クセでな」


「まだ治せるよ」


柔らかな声は雪のように溶けそうだった。それでもやけに耳に残る声だ。


真司の背中の影からひょっこり顔を出した月夜は部屋の奥の長机の前に座って仕事をしている、白髪の男性を見つけた。長髪なためか、中性的だ。着物まで雪のように白いものと水色のもの。紫の帯で、淡く菖蒲が刺繍されている。


「ああ、新しい子、連れてきてくれたんだ?」


「任務ですので」


「そんなに拗ねないでくれよ」


「拗ねてない」


言うと、真司は月夜を部屋に入れた後部屋から出てスパンと障子を閉めた。立ちつくした月夜は緊張で固まった。


「そんなところに立っていないで、こちらに来るといいよ、東月夜君」


「あ、はい」


いつの間にか用意された座布団の上に正座で座る。座ったからといって、早々に話が始まったわけではない。月夜も神官長も黙ったまま五分が過ぎた。長い時間その場にいるような感覚に陥っていた月夜は困った。自分から話出すのも無礼なような気がしたので黙っていたら、神官長がふうと溜息をつき、書類から顔を上げた。紫色の瞳とかち合う。


「先程は真司が無礼ですまなかったね。そんなこんなで最終的に君のことが気になって、そちらの襖の向こう側にいるのだが、それはさておき、君が来る前に書類を終わらしておく予定だったのだが、待たせることになってしまってすまなかったね。君が新しい神官ときいている。一度その証拠に神刀と御印を見せていただこうか」


月夜は、ブレスレットの着いた方の手を胸の前に掲げ、刀をイメージする。そうして神刀が出現した。神刀を持ったまま袖をまくり上げ、肩を見せた。


「・・・これで、いいですか?」


「すまないが、上着全部脱いでもらえるかな?その御印は両肩まであるのではないかと思うのだけれど」


「あ、はい」


神刀を畳の上に置こうと手を放したら神刀が消えた。驚いて神官長をみると、大丈夫だよ、と返ってきた。神刀に構わずに月夜は上着を脱いだ。


確かに、羽織のように御印があった。


スッと神官長が立ち上がり、月夜に断りを入れて、御印に触った。ビクッとしてしまったことに月夜が恥じる。


「うん。分かった。もういいよ。ありがとう。座って」


上着を着て、座布団の上に再び正座で月夜は座った。


「学校は明日からで、それで、御影(みかげ)を付けるんだけど・・・」


「御影?」


「あれ、真司から聞いてない?御影っていって、神官の身の周りのことをしてくれる者のこと。時には身代わりにもなってくれるよ」


「身代わり・・・」


「真司はそういう言葉、大嫌いだから教えなかったんだろうね。まあ、その御影なんだけれども、私の腹心の一人を君に。(かえで)、入ってきなさい」


「はい」


障子を開けて入ってきたのは黒い服を纏った月夜と変わらぬ年の男子だった。


「楓です。月夜様。どうぞよろしくお願いいたします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


深々とお辞儀しあっていると、真司が部屋に入ってきた。


「じゃあ、神官の仕事に関しては、真司に頼むよ。分からないことがあったら真司に聞きなさい」


「はい」


聞いてねぇ!!と訴える真司になびきもしない神官長は、学校が終わったら神官の仕事を教えてもらいなさい。真司を迎えに行かせるから、と月夜に言った。


「はい」


「おいっ雪っ聞いてないぞ!!」


「あ、そうそう。私は、明松(かがり) 雪水(ゆきみず)。以後よろしくお願いします」


「こ、こちらこそ。よろしくお願いいたします」


再び深々と頭を下げた月夜に、雪水はほほえんだ。


その後、無視され続けた真司の叫びが(むな)しく屋敷に響いた。






忙しい毎日です。

はい。

仕事が辛くて現実逃避を毎回してる次第です。


読んでいただき恐縮の限りでございます!!


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