はじまりの刻
イメージカラー:銀を目指したい
え?意味分からんって?
作品のイメージカラーですよー(/・ω・)/
毎日毎日テレビでニュースが流れる。良いことも、悪いことも。でもそれは自分の世界とは別のところで起こっていると、無意識のうちにそう認識してしまう。
危機感はない。強いて言えば、今日このまま学校に行って、苦手な数学の授業で先生に当てられたらどうしよう、なんてことぐらい。
そんな平凡な毎日。
朝食のパンを齧り咀嚼した月夜はテレビを眺めながら牛乳でパンを押し流す。
テレビは今大人気のアイドルのことや政治家のことが流れ、占いの表示に変わって、月夜はようやくテレビから視線を外した。時計を見た月夜は慌てた。朝食を急いで食べて身支度を整え、家を出た。庭は雑草が生い茂り、いつも通っている道だけが一直線通れるだけだ。そこを駆け抜け、制服についた朝露を軽く払落し、学校への道のりを駆ける。
いつもの時間に無事ついた。いそいそと部活棟に行く。周りに人の気配はない。この空間が月夜は好きだった。
制服から道着に着替え、弓道場に入る。まずは掃除だ。朝日に受けて光る道場に仕上げるととても気持ちがいい。さっさと道具を用意して手入れをする。そうしてから体を解し、集中する。
弓と矢を持ち、姿勢を正し、的を狙いながら、構える。狙って、放す。タンッと気持ちいい音が響いたが、残念。もう少し上だった。フッと息を吐き、再び集中しようとしたら、ガタンと音がした。
「はよ。大樹。今日は珍しく早いな」
「おはよう。月夜。オレだって早起きぐらいするよ」
大樹は幼馴染。月夜の隣の家の長男。毎朝、弓道場に来るが、部員ではない。一度やってみるか?と聞いたものの左右に頭を振り断った。大樹が弓道場に来るのは、月夜が集中しすぎて時間を忘れないようにするためアラーム係だからだ。
矢を持った月夜は再度集中し、的を狙った。
チャイムが鳴る五分前、教室に入った。ホームルームが始まる前だから、人口が高い。
「はよー、月夜」
「おはよ、明久」
「はよー、月夜」
「おはよ、暮星」
挨拶してきたのは双子の明久と暮星。彼らは一卵性の双子だから外見で判別するのは難しい。
「はよ、金森兄弟。いやしかし、お前ら本当に同じ顔だな。月夜、区別の仕方教えてくれ」
「雰囲気」
「いや、分からないから」
「じゃあ、諦めろ」
どっちがどっちだか判別できない大樹を見てクスクス笑う明久と暮星。
「分かんなくていいよ。オレら二人で一つだし」
「そうそう。大樹に分かったら皆分かるって」
彼らはそうやって教師までもをからかう。故に彼らの見分けができる月夜に面倒が回ってくるのだが。
今日も長閑だ。いつもと変わらない。悩みはたくさんあるけれど、どれも平凡で、でもそれが平和で幸せの象徴だと、月夜はいつも思う。
「こう平和だとさー、なんか起きねーかなって思うよなー」
隣で窓の外を一緒に見ていた大樹がそう呟いた。
「なにか、ね。起きない方が幸せだろ」
「そうなんだけどさー」
「そんなことよりも、大樹は明日の科学の小テストの方が心配じゃないか?」
「小テストやってるどころじゃない事態にならないかな」
「ならないだろ」
キッパリ言うなよー、とへにゃへにゃ座り込んだ大地から目を逸らして、外を見た。グラウンドの周りに植えられている木が不自然に動いた。いや、気のせいかもしれない。暫く凝視していたが異変はなかったので、見るのをやめたと同時に廊下の方から声がかかった。
「東ー。先生が金森兄弟の暮星がどっちか教えてくれってー」
「はいはいっと」
窓を離れる月夜の後から大樹がついてくる。困っている先生のところに着き、暮星の方を指差して教えると、後ろから、やっぱり分からんと声がした。
「別に、大樹が分かったところで用なんてないだろ」
「まあ、そうなんだけど」
分かって損することでもないから、見分け方を教えてもいいのだけれど、もう少しこの秘密を一人占めしていたいというのもあったので教えない。教える時がきたら教えるが。まあそれは随分と先のことだろうな、と月夜は思っていた。
とある日の放課後。いつも通り弓道場で一人、練習をしていたのだが、そんな月夜の肌を冷たい空気が撫でた。
「大樹ー。雨、来るから片付け・・・」
そういえば、今日は家の用事があるからとホームルームが終わったらすぐ帰ったことを思い出した。こうなったら雨が降る前に一人で片付けなければならない。
せっせと一人で片付けて、ようやく戸締りも終えた時に、しとしとと静かに雨が降り出した。
「間に合った・・・」
部室棟の方へ小走りで向かい、道着から制服に着替えて外に出た。
しとしとと降っていた雨はいつの間にか土砂降りに変わっていた。傘を持っていないので、こんな中を走って帰るのは少し危険だと思い、暫く待った。その判断は正しかったらしく、暫くして普通の雨に静まった。ジャージを傘代わりにし、雨の中に飛び込んだ。ばしゃばしゃと跳ねる泥水にげんなりする。部室にいた時よりも湿気がまとわりつき、なんだか動き辛い。靴も濡れて重くなっていた。
ようやく校門を出たのはいいが、この短時間でこれほどまでに濡れた。このままじゃ家に着く頃には濡れ鼠だろう。それでも、できるだけ早く家に帰りたい。そう思って月夜がひたすら走り続けていると、道の真ん中で傘もささずに立ちつくしている一人の男性を見つけた。
異様だ。
頭のどこかで警鐘が鳴り、ピリピリと首の後ろが痛くなる。
逃げなくては。
どこかで思う。しかし、何故か月夜の足は止まっていた。真上から降る雨が濡れたジャージを更に重くする。
男性の足元を見た。何か転がっている。
人、だ。
何故、地面に伏せている?何故、動かない?
地面に打ち付けられる雫の音が増した気がした。
月夜の思考は既に答えを提示していた。それを理解した瞬間、男性が月夜の方を振り向いた。
「っ!!」
声が出ない。出たとしても雨音が邪魔をするだろう。
逃げなくては。再度そう思ってもやはり足が地面に縫い付けられたように動かない。
男性がゆっくりとした動作で近づいてくる。外灯に光って見えた男性の手元にはナイフ
があった。
頭の中で鳴っていた警鐘は止まっていて、首の後ろのピリピリとした痛みも引いていた。
ゆっくりと近づいてくる男性に不思議と恐れを感じない。
何ができる?何ができる?
雨音がそう問うように月夜の耳に届いた。
カチリとどこかで鍵が開いた音がした。
ズッと月夜が片足を引くと、男性がナイフを突き出して走ってきた。
先程まで視界を邪魔していた雨が消えたようにクリアに男性が見えた。
動きが分かる。このままなら、男性は右足で踏み込んでくるだろうと予測できた月夜の視界には淡い光の円の線が浮かんでいた。
男性がナイフを持ってる方の手を振り被った瞬間、月夜の胸の前に光が出現した。閃光弾のようにあっという間に光が広がり、月夜と男性とその周囲を飲み込んだ。
真っ白い光が収まると、いきなり頭の上でバケツをひっくり返されたように雨が降ってきた。いや、もともと雨が降っていたのだから、光に包まれた時が異常だったのだ。
月夜の胸の前だけが明るく、そこにはホワンホワンと丸い光の塊があった。
「なんだ、これ・・・・」
何もできずに見ていると、いきなり光が動き出して手首に巻き付いた。パァンと手首に巻き付いた光が弾けると手首には青緑色の玉が連なったブレスレットが着いていた。
まじまじと見ているとハッと我に変えった月夜がすぐに目の前を見る。すると、地面に倒れている人物が二人。もともと倒れている人物が一人と月夜の足に前に倒れている男性が一人。ナイフは男性から1mくらい離れたところに落ちていた。
「えと・・・大丈夫・・・ですか?」
声をかけても全然反応しないためか、不安になる。この状況を見られたら、確実に月夜が疑われるだろう。どうしようかと右往左往していると、後方でぱしゃりと水の跳ねる音がした。月夜の心臓がこれでもかというくらい早く動く。
「なるほど・・・」
傘代わりなのか、大きな葉を持ち、存在が大きいのか、体は成人男性のそれだが見た目よりも大きく見える。キリっとした目がより男らしさを引き出していて、美形の類だ。
男性は葉を持つ手とは反対の手で月夜を呼んだ。じゃらりと綺麗な石でできたブレスレットが鳴る。不思議と月夜の体は呼ばれるままにその男性へと寄る。近寄った末、バッといきなり服に手をかけられ、脱がされそうになるので、月夜は驚いてその男性から距離をとった。
「なっ、なん、なんですか!?いきなり!!」
「ああ、すまんすまん。肩、見てみろよ」
軽い謝り方に反省の意が全然見受けられないので、月夜は怪しがりながら、自分の肩をそっと見る。そこには、部室で着替えている時にはなかった異様な模様が浮かんでいた。
「なん・・・ですか、これ」
「あったか。それは御印。神官である印」
神官。それはこの国の法律である。特殊な力を持っており、それによって人を裁くことができる。神官がイエスと言えばイエスであり、ノーと言えばノーなのだ。そんな存在であることを許されたのは、この国を治める帝の一族が持つ力であるからだ。その力を目覚めさせられるのは血族の中でも希少である。それが今、月夜のもとにあるという。
「まさか。だって・・・オレは帝の血族じゃない」
「まあ、説明は後だな。本当に神官であるか確かめなくちゃならないからな。この手を見ろ」
言われた通り月夜が男性の手を見ると、男性がその手を胸の前に移動させた。すると、たちまち胸の前が光り、一本の刀が出てきた。
「じゃ、これやって。そのブレスレットのついてる方の手を胸の前に持ってきて、刀を想像するだけでいい」
断ったところでどうにかなるわけではないので、素直に従う。月夜はいきなり出現したブレスレットの着いた方の手を胸の前へ持っていき、刀を頭の中で想像する。刀なんてまじまじと見たことなんかないけれど、こんな感じという程度に想像したはずが、より鮮明に刀の姿が思い浮かぶ。途端に肩の異様な模様がじわりと疼いた気がした。月夜の手元が光り、刀が出現する。浮かぶ刀を掴むとやけにしっくりと手に馴染んだ。
呆然としている月夜に向かって、大きな葉を持った男性はニコリと笑い、おめでとう、合格だ、と月夜に告げた。
えーっと、拙くてごめんなさい。
頑張って完結させたい!!
読んで頂いて恐縮な限りです!!