1
初めて投稿してみました。
「姫、この城は間もなく落ちます。」
鳴り止まない喧噪。
しかしそれも、急速に収束へと向かっていた。饐えたような血の匂いがあたりに充満し、その喧噪は、この場所へ徐々に近づいてくる。その数を減らしながら。
「姫?」
いらえない相手に、困惑した声が落ちる。
皇帝の寵姫に、最期の伝令を任された青年将校はただどうして良いのかわからなかった。もっと、混乱したり、取り乱したりするのかと思っていた。皇帝からは、すべて姫の良きように計らえ、と申しつかっている。自刃して果てたい、とおっしゃる事もあるやも知れぬ。その時のために、毒を用意せねばなるまいか、とまで思っていたのだ。
ここは、王宮の最奥。後宮。繊細な作りの建築群。優雅に、たゆとうように。四阿を繋ぐように、小さな、可憐な川が流れ、色鮮やかな花々が咲き乱れる。
さながらこの世の、楽園。小さな桃源郷とでもいうべきか。美しいもの。可憐なもの。鮮やかなもの。この世の粋を極めたような、箱庭。一雫の汚れすら許さないこの場所は、ある種の緊張感すら漂わせていた。血なまぐささに彩られた、大国梁の広大な宮殿の中、戦の最中にあって、ここだけは奇妙なほどに平穏であった。
「おひいさま?」
「青藍様?」
彼女の取り巻きの侍女や女官たちも不安げに彼女の表情をうかがい始める。不安な空気が、この安穏とした世界の中心をとりまいている。
それでも彼女は、帳の向こうで無表情を貫いたままだ。豪奢な衣装、玉、翡翠。そのどれもが、彼女のために皇帝自らあつらえたもので。その思いの篤さが伝わろうというもの。それらに彩られたまま、彼女は身動きもしない。
虚空を見つめるその漆黒の両眼がその思いを映し出す事はない。花の顔、華奢な体躯。普段から人形に例えられる事の多い、時には悪し様に、青藍ではあったが、今日はまさにものいわぬ人形そのものであった。
かこん、と庭園の川に取り付けられた水の流れを使った仕掛けだけが軽やかに、やけに乾いた音を立てた。
そして、流れる静寂。
その静寂を壊さないまでも、この場の空気に、耐えきれなくなった侍女がすすり泣きを始める。嗚咽が、あたりに充満してゆく。
「これ、」
硬い表情で、年かさの女官がそれをたしなめたが、彼女にもそれがどうしようもないくらいわかっていた。ここは、皇帝の寵姫の庭。ましてや、その寵姫・青藍は皇帝の子まで孕んでいる。攻め込んできたのが、いかな、青藍の母国とはいえ、捕えられればその処遇は火を見るよりも明らかだ。おまけに、彼女の父であった前皇帝は昨年弑され、新たな皇帝が庭臣の中から選ばれたという。
「さりとて、」
「さりとて、年若くお美しい姫様が、」
「このような、事が、」
とうとう侍女たちは泣き崩れた。
その姿は、皆儚げで、痛々しく。見ている方まで、涙が滲んでくる。そんな風情であった。