序
「父上、母上!」
格子から差し込む光と共に聞こえる子供の声。鈴の音のように高く愛らしい声に、優しげな両親の声が応える。囃子の音が遠く聞こえるから、今日は祭りがあるのだろう。
明かり取りから外を見やれば、親の手に引かれ歩く子供の姿が多くあった。幸せで眩しい姿だ。
青々とした緑と朱の提灯が町を彩り、人々は団扇を仰ぎながら道を行き交っていた。おそらく外は暑いのだろう。
「……父上。……母上」
真似して、そう呟いてみる。けれど、それもこの場所でだけだ。そう呼ぶことは、許されていないから。
この場所には誰もいない。誰も寄り付こうとしない。もうずっと、それは変わらない。前は日に三度、食事を持つ侍女がいたけれど、私がただの一度話しかけた次の日から、ここには来なくなってしまった。
でも、もう慣れた。
話し相手がいなくとも、ここから出られなくても。
それでも。
それでも、期待してしまう。
「今日こそは、父上、来てくれるかな」
あの大きな手を差し延べてくれるかもしれない。出ておいで、と優しく微笑んでくれるかもしれない。
そんな淡い期待を、私はずっと捨て切れない。
いつか、きっと――。