5話「彼の好物」
大きな大きなハンバーグ
投稿日:2024年07月10日
材料:2人前(重要)
牛挽肉:900g
玉ねぎ:3個
パン粉:大さじ15
牛乳:大さじ8
卵:6個
塩・胡椒:少々
■■■■:適量
■■の■■:少々
手順(※全工程「2人前」を前提に進めてください)
1玉ねぎをみじん切りにし、フライパンで飴色になるまで炒めます。炒め終えたら皿に移し、しっかり粗
熱を取ってください。
2ボウルに牛挽肉、炒めた玉ねぎ、パン粉、牛乳、卵、塩・胡椒を入れます。ここで■■■■を加え、全
体が白っぽく粘りが出るまで手早く捏ねてください。
※この分量は「2人前」以外の形に調整しないでください。
3肉だねを正確に二等分します。
2つが同じ重さ・同じ大きさ・同じ厚みになるまで、何度でも整えてください。
4フライパンに油を引き、2つの肉だねを必ず並べて焼きます。中央を軽く窪ませ、中火で焼き色をつけ
ます。
この段階で、空いている方の皿(=彼の皿)をテーブルに置き、カトラリーも2人分セットしておいて
ください。
5裏返して蓋をし、弱火でじっくり蒸し焼きにします。仕上げに■■の■■を振りかけ、香りを立たせま
す。
※香りは2つに同量。片方だけ濃くしないでください。
62枚の皿に等しく盛り付けます。
一枚は自分の席へ、もう一枚は向かい側の席へ。
食事を始める前に、向かい側の皿が正しい位置にあることを確認してください。ずれていた場合は、そ
っと真っ直ぐに戻します。
注意点(※最重要:2人前)
どんなに時間がなくても、必ず2人前を調理してください。
1人分しか作らなかった場合、彼は怒り出し、あなたに危害を加える可能性があります。
向かいの席に座る彼を直視してはいけません。食事はあくまで、そこに誰もいないかのように進めてください。
食事はマナーを守ってください。マナーが悪い場合もあなたに危害を加える可能性があります。
レビュー
★★★★★ 「うま~っなハンバーグ」投稿者:ゆいまる@料理研究家 2024/08/12
味は文句なしにお店レベルです。肉がふっくらして、香りも立って、食べ応えがあります。
このレシピは、味以前に必ず2人前で作る理由がはっきりしています。皿を2枚出して席を整えた瞬間、部屋の空気が落ち着きました。
「2人前」を守ったことで、最後まで変なことは起きませんでした。逆に言うと、守らないのは怖いと思います。
★★★★☆ 「満足感えぐい」投稿者:名無しさん 2024/08/24
■■■■の効果なのか、旨味が強く出ます。ソースなしでも成立するレベル。
ただ、2人前のうち自分の分だけを先に食べきろうとしたら、向かい側のフォークがわずかに鳴りました。
以来、必ず同じペースで食べるようにしています。2人前というより、2つを同格に扱うレシピだと思います。
あと、ちょっと大きめのハンバーグなので小食の人には向かないかも。
★★★★★ 「寂しさを埋めてくれた」投稿者:名無しさん 2024/09/15
このレシピのレビューをする前にまずは感謝を述べさせてください。あなたのおかげで私はまた活力を取り戻すことができました。
ほんとうにありがとう。
身の上話をここで書くのは場違いかもしれませんが、許してください。
私は半年ほど前、妻を亡くしてしまいました。交通事故です。最初、救急隊員から「妻が事故に遭い、病院に運ばれているので急いで来てほしい」という連絡を受けたとき、背中がサーっと冷たくなっていくのを感じました。その時私は仕事の昼休憩でコンビニへ昼ご飯を買いに行く途中だったのですが、上司に連絡もせずに急いでタクシーを呼び妻が運ばれている病院に向かいました。
タクシーのなかで私はどうして自分の妻なんだとか、どれくらいのけがなんだとか頭の中でずっと考えていました。ただ何もなく無事でいてくれと願っていました。
病院につくと私の願いは聞き入れてくれなかったのだとわかりました。先生に話を聞くと最善の処置は施してくれたそうでしたが、損傷が激しく、今の医療技術ではどうにもならないと言い聞かせられました。私は年甲斐もなくわめき散らかしました。わんわん泣いてしまいました。そんな私を先生や看護師は何も言うことなくそっとしておいてくれました。
妻が亡くなり、最初の1月は葬儀などで忙しくて何も考えられませんでした。今思えばそのおかげで救われていた部分もあったのだと思います。ずっと忙しい状態が続けば、もう妻がいないという現実に向き合うことなく過ごせたかもしれません。しかし、忙しい時期はそう長くは続きませんでした。
3月すれば、ほとんどのやるべきことは終わり、現実と向き合う時間がやってきてしまいました。まず、家のことができなかったのです。お恥ずかしながら、家事全般を妻一人に任せておりました。私は仕事をするからお前は家事をやれ、なんて時代錯誤過ぎる考えだったと思います。それでも妻は嫌な顔せずに家事をやってくれていました。そのため私は家事のやり方が全く分からず最初の方は洗濯や掃除をするだけなのに1日かかってしまいました。洗濯機のボタンをどれを押せばいいか分からないなど初歩的なこともできなかったので当然だと思います。
しかしそういった家事はやっていくうちに慣れて今では何とか一人でやっていける、くらいにはなっています。ただ問題は食事でした。家事をほとんどやってきていなかったのですから当然料理なんてやったことがありません。最初の方はコンビニで買ってきたカップ麵などでなんとかしのいでいたのですが、やはりそれだけだと栄養が足りないと思い、初めて料理を作ってみることにしました。ただ目玉焼きを作るだけだったのですが、まあひどい有様でした。
卵を割るときに失敗し、飛び散った殻が混入するわ、フライパンに油をしくのを忘れて卵がこびりつくわ、私はこんな簡単なこともまともにできないのかと落胆しました。そしてそれと同時に毎日妻は洗濯や掃除などの家事に合わせて料理まで、しかもものすごくおいしい料理を作ってくれていたとありがたさを改めて実感しました。
さらにそれから1月立つ頃には妻に比べたらお粗末なものですがなんとか料理もできるようになりました。しかし、私はどんなに料理がうまく作れたとしても前のように満足できなくなっていました。味についてとかではなく、なにかこう、足りない感じがしていたんです。
原因は分かっていました。はい、妻です。妻の手料理ということでなく、妻が”いること”が大切だったんです。仕事終わりどんなに疲れていても家に帰り、妻と食事をするだけで明日も頑張ろうと思えていました。妻は食事をするときに私の話を目を見て聞いてくれたし、料理を食べるときは美味しそうに食べる。そういった存在がいることが大切なのだと今になってわかりました。
そのことを自覚したとき私はまた泣いてしまいました。そしてもっと感謝の言葉を妻に言っていればよかったと後悔もしています。自分一人で家事をやることにより妻のありがたさが分かるなんて遅すぎるんですけどね。
そしてしばらく満たされたいない食事を続けていた時にこのレシピと出会いました。最初レシピを見たときは必ず2人分用意する必要があるということに違和感を覚えたのですが、奇しくもその日は妻と私の結婚記念日だったので丁度良いと思いこのレシピで料理をしました。
料理が完成し、食べようとしたときに私は感じました。目の前に誰かいると。目で見えているわけでないのですが、はっきりとわかるんです。
最初はびっくりしましたが、不思議と心は落ち着いていました。私はしばらく呆然としていると相手方は食事を始めました。それをみて私もなぜだか分かりませんが一緒に食べるべきだと思い、一緒に食事を始めました。
食べ進めているうちに私はふと思ったのです。これはもしや妻が帰ってきたのではないかと。一瞬期待しましたが違いました。妻は食事をする際に必ず汁物から食べ始めるというルーティンがあったのですが相手方はメインのハンバーグから食べていたからです。一瞬の希望から違うと分かり落胆しましたが、私は相手方のことが気になり始めました。
そこで色々質問をしたのですが、相手方は何も答えることなく食事を続けました。しまいには私がしつこく質問を続けたせいで相手方は怒ってしまいました。私はすぐに謝ると相手方はしばらく私を見つめた後また食事を再開しました。そしてそのあとはお互い何も言葉を発さずに食事を終えて、相手方が帰ろうとしたときに相手方は彼、つまり男であるということを教えてくれました。なぜ教えてくれたのかは分かりませんが、私に対して少しでも心を開いてくれたのではと思い少しうれしくなりました。そしてまた彼と話したいと思いました。
そこから私は毎晩必ずこのレシピのハンバーグを作り続けて彼と一緒に食事を続けました。食事を続けていくうちに変な緊張は解けて、しまいには彼との食事が1日のなかで一番楽しい時間になっていました。彼も私との食事を楽しいと思ってくれたのか分かりませんが、少しずつ私とも話をしてくれるようになりました。
話しの内容は私の仕事についてとか、お気に入りのテレビタレントの話などたわいもないことから、彼自身の話も少し教えてくれました。彼は自分で自分の存在が分かっておらず、ただこのレシピのハンバーグが自分の一番の好物であるということだけ分かっているとのことでした。だからこのレシピでハンバーグを作った場合、彼は自分のことを知れると思い現れていたそうです。2人分作らないとだめなのかと問うと別にそんなことはないそうです。なので2人分作らないと恐ろしいことが起こるというのはうわさが独り歩きしただけだと思います。ただし、彼はマナーにはうるさいらしくマナーが悪い人には少し驚かせることはしていたそうです。
私は彼が彼自身のことを自分に教えてくれたのがうれしくて私も自分自身のことを語りました。妻との生活のこと、妻が事故でなくなったこと、彼との時間が私にとって楽しい時間になっていることなど話していくうちに私は気づきました。妻がなくなってから足りないと感じていた食事がいまではとても満足できるようになっていることを。彼が私の足りていない部分を満たしてくれていたのです。そのことを伝えると彼は少し嬉しそうにし、少しの沈黙のあと私に言ってきたんです。
もう「私に会うのはやめるべき」だと。その言葉を聞いたとき私はなにかマナー違反をしてしまったのではないかと焦っていたのですが、違いました。
彼は私に語りました。彼にとってもこの時間がとても楽しかったこと、この時間がずっと続けばいいと思っているがそうはいかないこと、自分が本来は人と接してはいけない存在であること…
彼は言いました。私はこのハンバーグだけが唯一自分であることが確かめられる存在だったと、でも私と話しているうちにこのままではダメだと思ったのだそうです。そして私にこう言いました。
「自分は自分がいるべき場所で自分の居場所を探す、だからあなたも新しい居場所を作ってください」と。
私はこの言葉を聞いて理解しました。私はずっと過去の居場所にしがみついていたのだと。そして彼もまた同じであったのだと。
その言葉を聞いて、理解して私もそろそろ前を向くべきだと思いました。そして私たちは最後の食事を楽しみました。彼との食事は満たされていましたが、もっと明るい気持ちで食事をすることができました。いつものハンバーグがなんだか美味しく感じることができました。
私が食事を終えていた時には彼はもういなくなっていました。少し寂しかったがこの別れ方でよかったと思います。話すと別れがつらくなってしまいますから。
それから私は今までの仕事をやめ、新しい仕事に挑戦することにしました。彼と約束した新しい居場所を見つけるために。彼もおそらく私とは違う場所で新しい居場所を見つけていると思います。
でも一つだけ心残りがあるんです。それは彼にお礼を言いそびれたことです。私がもう一度前向きな気持ちになれたのは彼のおかげです。だから彼がこれを見ているかは分かりませんが、伝えたいなと思ったんです。
だから、もう一度言わせてください。
あなたのおかげで私はまた活力を取り戻すことができました。
ほんとうにありがとう。
ーーーーー報告書添付資料⑫ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2024/09/15以降 この現象は確認されなくなりました。




