読切版:「記憶の境界」
はじめまして、作品をご覧いただきありがとうございます。
本作は「記憶喪失」と「再会」をテーマにした短編ファンタジーです。
誰かを信じる強さ、そして境界を越えて再び巡り合う想いを書きました。
少しでも読んでくださるあなたの心に届けば嬉しいです。
この世界で絶対に交わることのない、ふたりがいた。
彼は現実の住人。彼女は“異次元”の住人。
偶然のような必然で出会ったふたりは、短い時間を共に過ごし、確かな想いを交わした。
「君の名前は?」
「アイラ。あなたは?」
「……覚えておいてくれるなら、それだけでいい」
だが時は残酷だった。世界の均衡が崩れ、彼は記憶を代償に現実へ帰還させられた。
そして――彼はすべてを忘れていた。
それでも、彼女は信じていた。いつかまた、彼が自分を見つけてくれると。
数年後。彼の前に、見知らぬ少女が現れる。
「……あなたは、私との約束を忘れてしまったのね」
彼の胸に、なぜか温かい痛みが走る。
断片的な記憶。笑顔。涙。異次元の空。
彼女と共に訪れた“境界の地”に、彼は再び足を踏み入れる。
そこで彼は思い出す。あの約束を。
「たとえすべてを忘れても――また君を見つける」
記憶が戻った彼に、彼女はそっと微笑んだ。
「おかえり。やっと、会えたね」
ふたりは再び手を取り合う。
境界を越えて。
世界の理さえも、超えて。
忘れても、きっとまた出会える。
そんな奇跡を信じて書いた物語です。
読んでくださって、本当にありがとうございました。