アタシ達への神の審判 カミーユの独白
私は、シャモの女王カミーユ。私は今、神とその使いの銀竜と一緒に、神の居室にいます。
トープ=ルナール連合の双王、ミレーヌとリューが魔界に取り残されてしまった件について話し合うために一緒にいるのです。
彼らが魔界に閉じ込められてすぐに銀竜は神に直談判しに、神のもとへと飛んで行きました。
神は銀竜に、この部屋での話し合いを提案し、サンラザル大陸に住む人間の代表として、私を召集したのでした。アルジョンティヌスの背中に乗って、私はここまでやってきました。
【神よ、あなたの通行許可証には100分の魔界への滞在が許されると書いてありました。ですが、実際には90分で魔界への入り口が閉まってしまいました。神よ、10分の追加をいただけませんでしょうか?さすれば、この大陸の大部分を治める双王、アンジェルモアとリューは帰ってこれます。そして、民達は安心して生活ができるでしょう。】と銀竜が言いました。
今日は、神の前という事で、アルジョンティヌスは普段と口調が違っています。
《銀竜、アルジョンティヌスよ。そなた、神の行いが間違っていたと申すのか?》
【めっそうもありません。ただ新しい試みのご提案を申し上げている次第です。】
《ふむ、まあ良い。チャンスを与えてやろう。だが、そのアンジェルモアとリューが信用に足るような地方県の王である事、示されねばならぬ。》
【アンジェルモアとリューはトープ=ルナール連合を作り、その民は平和に暮らし、彼らを好いております。また、その連合の形成の過程で、セルポンという県の、民を抑圧してきた軍事政権を倒しました。】
「また私の治める県、シャモ県とは、不可侵条約や通商条約、人の行き来を認める条約を次々と定め、大陸全体の人の自由と安全を高めている立派な双王でもあります。」私は、そう付け加えました。
《そなたらはその二人と近しい者ではないか。故になんとでも彼らについて良いことを言える。もう少し客観的なデータが必要だ。》
【とおっしゃいますと?】アルジョンティヌスが訊く。
《そうだな、我は今から、つまり朝の11時から夜の11時までの半日間、この大陸の住民に投票権を与える。その二人が、魔界からこの大陸に戻ってくるか否かを決める投票だ。もし、75%以上の住人が彼らの帰還を支持すれば、10分間、魔界から帰還するためにその入り口を再度開いてやろう。》
こうして神の開催する投票が始まったのでした。神が人々の思念に働きかけ、その投票の存在を知らせ、投票者は思念を飛ばして、ミレーヌとリューの帰還の支持か不支持を答えます。
投票可能なのは15歳以上のサンラザル大陸上の地方県在住の全ての人です。
早速投票が始まりました。
《アルジョンティヌスよ、モニターを用意せよ。》
【はい。】
アルジョンティヌスがそう答えると、宙に四角形の、モニターと呼ばれたものが浮かび上がりました。どうやら、投票の現時点における結果が、可視化できる仕組みのようです。更に、投票が現在行われている全地方県の、つまりサンラザル大陸の中で中央都パレを除いた場所での、民の様子が映し出されます。
投票が始まり、一時間が経過しました。
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12:00
投票名:
魔界からのアンジェルモアとリューの帰還について
有権者数:75万人
投票者数:49万7500人
支持者数:47万5000人
支持(%) 63,3%
不支持者数:2万2500人
不支持(%) 3,0%
未投票者数:25万2500人
未投票(%) 33,7%
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さすがは、あの二人です。最初の一時間が終わるまでに、つまり正午までに、63,33パーセントの支持を得ました。ですが、それからは一旦スピードが落ちました。正午からは昼ごはんを食べていた人が多かったのでしょう。
この初動の投票の内訳を見ると旧トープ県と旧ルナール県は、それぞれリューとミレーヌの地元だけあって、その支持が85パーセントに登りました。
続いて私の治めるシャモでは50パーセントの支持が得られました。まずまずの出だしと言えるでしょう。リューとミレーヌのトープ=ルナール連合と商業的交流や人材の行き来が始まって、友好ムードが広がっています。
一方で、旧セルポン県の地域での現時点での支持率は他県に比べると、30パーセントと低いものとなっていました。この地域は軍事政権が解体され、トープ=ルナール連合の一部となり人々は抑圧から解放されたものの、今の双王はまだまだ民衆の心の中ではよそ者というところなのでしょう。
13時からは、人々が昼食から戻ってきて一度投票のペースが少し回復しました。ですが19:00までには緩やかに投票のペースが落ちていきました。おそらく、投票の意思のある人はもう既に投票してしまい、残っている人は投票の意思がないか、忙しくて投票のする暇のない人等だからなのでしょう。
19:00になりました。
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19:00
投票名:
魔界からのアンジェルモアとリューの帰還について
有権者数:75万人
投票者数:55万4250人
支持者数:52万8000人
支持(%) 70,4%
不支持者数:2万6250人
不支持(%) 3,5%
未投票者数:19万5750人
未投票(%) 26,1%
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この時点では、旧トープ県と旧ルナール県で支持の票の割合が、その全住民の90パーセントまで上がっています。シャモでは60パーセント、旧セルポン県では39パーセントとなっています。
意外にも旧セルポン県でパーセンテージが伸びました。神がモニターで現地の人の様子をモニタリングします。カフェでの人々の談話が聞こえてきます。「やはり、軍事政権から自分たちを解放した双王を支持すべきだ!俺たちも前を向いて歩いていかないと!」などという意見が聞こえてきました。
不支持率は19:00までに3,5パーセントまで上昇しました。地方県の政治において、名君として手腕を発揮した二人でも、帰還を望まない人は一定数いる事が印象的です。このことから、人生で他の誰かには嫌われる事は、当たり前なのではないかと私には思えたりしました。
さらに三時間半が経ち、22:30、つまり投票終了30分前となりました。
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22:30
投票名:
魔界からのアンジェルモアとリューの帰還について
有権者数:75万人
投票者数:58万5500人
支持者数:55万8500人
支持(%) 74,47%
不支持者数:2万7000人
不支持(%) 3,6%
未投票者数:16万4500人
未投票(%) 21,93%
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やっとここで支持の割合が75パーセントまで近づいてきたと喜びたいところですが、これは票の増加の内訳を見るとアンジェルモアとリューにとっては厳しい結果となってしまいました。
旧トープ県と旧ルナール県は票の伸びがもう頭打ちなのです。それらの県で19時に90パーセントだった支持の票が三時間半経って91,5パーセントまでにしかならなかったのです。これは票の増加としては6,000票の増加です。もう夜になり、投票する人は減るばかりで、これらの県で1000票も票がこれから動くことは無いでしょう。
旧セルポン県では19:00に比べて2000票の支持の増加となりました。こちらも、ほぼ完全な票の伸びの失速状態に入ったと言って良いでしょう。
意外な健闘を見せたのがシャモ県でした。この時点までにシャモ県のちょうど75パーセントが支持の投票をしました。
神がモニターでシャモの様子を見ます。モニターに映ったのは、自由貿易若者の会のリーダー、ジャンヌ ベルソンでした。自由貿易若者の会は商人ギルドの若手の集まりで、トープ=ルナールとの交易を発達させ、シャモをより豊かにする志を持った若者の会です。それはトープとのミスリルオイルの交易の再開の街ル・アーヴで結成された会ですが、今回は彼女らがシャモの首都のタクティシアンに出向き、多くの人に対して双王、リューとミレーヌの庇護にある自由貿易が、いかにシャモを豊かにしているかを啓蒙したために、票が増えたようです。
若者達が自ら率先しシャモを盛り立てていこうとする様子は見てて心強いし、感動します。
それでも地方県の皆は普段はもう寝る時間となります。シャモでの自由貿易若者の会の啓蒙活動も終わっています。投票結果を待つ人々は街に繰り出していますが、それは投票をもう済ませた人達です。票はピタリと動かなくなっています。時は残酷に過ぎていき、投票終了、10分前になりました。
その時でした。止まっていた時計の針がまた動き出したのです。
何人かいる神のアシスタントの一人が言いました。
「申し訳ありません、神よ。通信の不調でここ20分ほどの間のある街からの投票結果が入っていませんでした。今それを付け加えた結果を出します。」
《構わん。それがどこの街だろうと、人はもう寝る頃だ。結果は大して変わらんだろう。》神はいいました。
早速モニターがアップデートされました。
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22:50
投票名:
魔界からのアンジェルモアとリューの帰還について
有権者数:75万人
投票者数:58万9100人
支持者数:56万2100人
支持(%) 74,95%
不支持者数:2万7000人
不支持(%) 3,6%
未投票者数:16万900人
未投票(%) 21,45%
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《なんだ、この支持票の急上昇は?不正でも起きたのではあるまいな?銀竜よ。票を入れた者達のいる場所を映し出せ!》
神がそう言うと、モニターと呼ばれた四角形の上には、ある街の様子が映し出されました。
《これは一体どこであるか?》
【旧トープ県の街、ゴメットの街であります。】
モニターには、怒りながら、天に向かって叫んでいる一人の男性が映し出されました。
「コラーーーーー!神だかなんだか知らないが!オレ達の王を返しやがれ!オレ達の王リューはな、アイツをボコボコに殴っちまったオレなんかを許して、この街を見捨てずに、一緒に復興を進めてくれている、そんな変わった王なんだぜ!アンジェルモアだってずっと一緒に頑張ってくれている!この街の鉄鋼だって温泉だってまだこれからなんだ!俺たちにはあの二人が必要だ!頼む、頼むよおおおおおお!
ゴメットの街のみんな!投票を急いでくれー!」
かつて、その怒りからリューをめった殴りにしたと言うその人は、夜に起きて活動するラニュイ族の族長コレールだったのでした。その怒りというのは筋金入りで、神にまで罵声を浴びせるのを厭わないのでした。
票が一気に伸びたのは、ラニュイ族の皆さんが起床してきて思念を持ち、神の開催している投票の事を知り、次々と投票をしたという事なのでした。
【3525人のラニュイ族の有権者数のうち今までに3000人が支持に投票したようです。】銀竜が説明しました。
「有効な票のようですね。」私は微笑みながら神に申し上げました。
さて、あと10分しか時間はありません。あと400人の支持が必要です。ゴメットの街を中心に得票が増えていきます。わずかではありますが、旧トープ県の他の街、シャモ県、旧セルポン県、旧ルナール県からの支持も増えました。
各県の街の様子がモニターに映し出されます。もうすでに投票した多くの人が集い、二人の帰還に祈りを捧げています。
ついに投票終了の23:00となりました。
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23:00(投票終了)
投票名:
魔界からのアンジェルモアとリューの帰還について
最終投票結果:可決
有権者数:75万人
投票者数:58万9600人
支持者数:56万2600人
支持(%) 75,01%
不支持者数:2万7000人
不支持(%) 3,6%
未投票者数:16万400人
未投票(%) 21,39%
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【や、やったわ!】銀竜がいつもの素の口調で言いました。
《ふむ、二人とも信用のできそうな王のようであるな。良かろう。魔界はの入り口を10分間開いてやろう。》神が言いました。
神がそういうと、中央都パレにあった魔界のゲートが開きます。間もなくして、アンジェルモアとリューが中から出てきました。
双王の帰還を、神は今起きている有権者に伝えました。地方県の各街では大歓声が上がります。普段は夜が早い地方県ですが、今日は街が再び目覚め、民は歌を歌い、酒を酌み交わしています。
「お帰りなさい。二人とも。」愛する友人の帰還に私の頬を涙が伝いました。
それから6ヶ月が過ぎました。
ここはシャモ県の首都タクティシアンの王城です。私は首脳会談のためにここにやってくるミレーヌとリューを待っています。
二人が魔界に行って帰ってきて、サンラザル大陸の平和はより確固たるものになったのでした。二人が変異源を討伐したので、それによって凶暴化したスライムやガーゴイルが中央都パレを襲う事がなくなったのです。
最近のミレーヌは、以前より明るくなった気がします。魔界からのご両親の帰還が嬉しいのでしょう。ご両親は、ルナール前王と前王妃ですが、政治には復帰しないそうです。その二人の情熱のある事は発明とガーゴイルハントで、中央都パレの軍に籍を置き、ガーゴイルから人々を守ることに尽力する道を選んだとの事です。
シャモとトープ=ルナール連合の貿易も好調です。今だと、シャモと接する旧セルポン県のいくつかの街での産業育成が軌道に乗り、それらの街とシャモの街の通商が伸びてきているのでした。
ミレーヌとリューの関係からは私は学ぶ事がたくさんあります。士官学校でビノームとしてスタートした二人の関係は、トープ県の皇太子と皇太子妃、トープ県の王と王妃、そして現在はトープ=ルナール連合の双王と、いつでも二人組の関係なのでした。でも私が彼らを見て、接して、考えたのは、二人でいることの大切さ、みたいな事ではありません。彼らは常に成り行きに身を任せつつ、その上で自分で考えて自分らのする事や行き先を決めてきたのです。料理が好きで、自ら料理をし、大陸随一の料理の腕を持つ王リューや、好きな男が見つかったら、ルナールの大王の地位をとりあえず脇に置いて、その男の王妃として一時期を生きたミレーヌ。その二人は、自分なりの価値観や直感を自分で受け入れているように思えます。そんな二人を参考にして、私も生きていこうと思っています。
私は私で、面白いと思っている事があります。それは海運、特に海を跨いだ貿易です。サンラザル大陸の大海賊、アリア フーシェによると、この大陸の向こうには島や別の大陸が存在するというのです。そんな大陸と貿易ができたら、人々はより豊かになれる可能性があると思っています。
それができるかを見極めるには、まず海の事をよく知らねばなりません。丁度、トープ=シャモ連合の海軍士官学校が今年オープンするので、私はそこで2年間学んでみようと思います。
ミレーヌに相談してみたところ、彼女は、
「良いんじゃ無いかしら?あなたの家臣団は優秀だし、アタシとリューも外様ながら、あなたが学んでいる間、シャモと一緒に発展していけるよう頑張るからさ。ゆっくり学ぶと良いわ。」
と言ってました。どうやらミレーヌへのネマワシは十分なようです。
窓の外を見ると、二人を乗せた銀竜がやってきました。
私は二人を迎えにいきます。天国にいます父と母よ、私は、こんな感じで元気にやっています。
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アタシは、アタシの専属奴隷相棒が大好き!一緒に生きていくことに決めました、実は王様だけどっ(爆)!
終わり
ご一読、ありがとうございました。
良い一日をお迎えください。
ポーツー




