リューとシャモの女王、カミーユ 後編
リューとカミーユの最初の会談から1ヶ月が経った。今日、彼らは不可侵条約の締結に向けた2回目の会談に臨む。
ここはトープ側の県境の街、ル・ヴェール。カミーユはここに招待されたのだが、会議の場として指定されたのは迎賓館ではなく、ミスリルオイルの蒸留所だった。
「ようこそお越しくださいました、カミーユ。ありがとうございます。また会えて嬉しいです。」
「私もまた会えて嬉しいです、リュー。あら、そちらにいらっしゃるのは。。。」
「リューの妻のミレーヌ カルノです。はじめまして、セドゥー15世。」
(綺麗な方。。。)カミーユはそう思いつつ
「はじめまして、ミレーヌ。カミーユで結構ですよ。」とミレーヌに言った。
「今日の議題は不可侵条約についてのはずでしたが、なぜここで話すのでしょうか?」カミーユが議題に入る。
「カミーユに直々に見ていただきたいものがあるのです。トープで蒸留に使われる塔です。」
「シャモにあるものによく似ていますね。これがどうかしたのですか?」
「実は少し違いがあります。蒸留塔に付いている、蒸留もとい分留で分離したミスリルジュースを回収するバルブのついている部分の高さが違います。」
「その高さの違いがなんだと言うのですか?」
「私の今のところの結論から言うと、トープ県でもシャモ県でもミスリルオイルからミスリルジュースを精製して使っていたと言うのが今までの認識だったわけですが、そのミスリルジュースと呼ばれるものは、実際にはトープ県とシャモ県で全く別の物質だったのです。」
「同じ名前だけど違う物質!」
「蒸留塔の中でシャモ県ではミスリルオイルのうち沸点が200度から230度の成分をとってそれをミスリルジュースと呼んでいたのです。」
「どうして、蒸留塔の内部の温度がそんなに簡単にわかるのですか?」カミーユが尋ねる。
「リュー、もしかしてあなた、熱の魔石をつかったのね。」ミレーヌが推理して言う。
「そうです、ミレーヌ。カミーユ、私たちは私たちの守護獣、トウテツから得た熱の魔石を使うと、オイルを含めた鉱物の状態を詳しく知ることができるのです。私は熱の魔石を持って、運転中のシャモの蒸留塔を見学したのです。熱の魔石が温度を教えてくれました。」とリュー。
「なるほど、私たちは、言い伝えによって塔をどう操作すればいいか知っていたわけですが、塔の内部の状態には未知な部分も多かった。一方で、あなた方は、その熱の魔石を使うと、具体的に内部の様子を調べられるのですね。」カミーユが納得した。
「そうです。一方でトープ県ではミスリルオイルのうち、沸点が140度から170度のものをミスリルジュースと呼んでいた。シャモの蒸留塔と同じで、トープの蒸留塔にも、下から順に高温、中程度の温度、低温の3つの出口があります。そして、これまたシャモの蒸留塔と同じで、下から二つ目の出口から出てくるものをミスリルジュースと呼んでいたのです。」
「似たようなプロセスから得られるものの、二つの県で得られるミスリルジュースは同一の物質ではなかった。そして、両県とも、それぞれの県におけるミスリルジュース以外の成分の使用法がわからずに、それらを廃棄していたと言うのが、実態だったのです。」
「それでは、トープで廃棄していた成分を廃棄せずにシャモに持ってくれば、軍の防具力を上げるミスリルスプレーを作ることができる。逆にシャモで廃棄していた成分を今度はトープに持ってくれば、トープのノウハウを使えば医薬品ができるわけですね!」
「お察しの通りです、カミーユ。それができるか検証するためにこの1ヶ月をかけて、蒸留塔を改造してみました。」
「出口が5つありますね。」
「そうです。まず塔の横についた釜で熱せられたミスリルオイルは、この塔に導かれ、一番下層で最も沸点が高い成分が液化します。二番目の層においては、シャモにとって必要な成分、沸点が200度から230度の成分が液化します。次に、三番目の層では沸点が170度から200度の成分が液化します。そして、その上の四番目の層では、トープで使われる成分、沸点が140度から170度の成分が液化され、そのほかの成分は蒸留塔のてっぺんの出口から外へと出ていきます。
私達の方ではこのようにして分留した成分から、トープでいつも作っている医薬品が確かに作れる事を確かめました。カミーユ、この塔で分離した成分をシャモに持ち帰り、ミスリルスプレーの原料として使用できるか試していただけないでしょうか?」
「もちろんです。もしそれがうまく行けば、この新しい蒸留塔、いえ、もう有用な成分が2つある事がわかっているのですから、我々は分留塔と呼びましょうか。それをトープ側シャモ側の両方に建てていきましょう。そして我々の県の間では、お互いにとって有用な成分をお互いに届ける。それでどうでしょう?もちろん使われた原料のミスリルオイルの量が違えば、その分差額の授受をします。そして、異なる成分の単位量あたりの価値の違いに基づく差額の支払い、どちらがどちらに支払うのかわかりませんが、それはいずれ是正しなくてはいけないですね。」
「ミレーヌどう思いますか?」リューが、トープの財務を担当しているミレーヌに聞いた。
「今のところはそれでいいと思うわ。まず、量的には、二つの県でのミスリルオイルの使用料は大体同じ。だから量に基づく差額の支払いはあまり大きくならないと思う。次にこちらは見積もりが難しいけど、2つの異なる成分は大体同程度の単位量あたりの価値があると思うわ。大幅な貿易赤字や黒字には、どちらの県にとってもならないでしょう。そこらへんの財務に関してはアタシとシャモ県の財務大臣に任せてちょうだい。必ずや貿易上の合意に至ってみせるわ。あなた達、県のトップは、セルポン県に共同で立ち向かうのが優先なのだから、不可侵条約を締結に全力を注ぐのがいいと思うわ。
あと、今回、二つの異なる成分を同じ名前で呼んでいるのが分かったんだから、別の名前をつけないといけないわね。」ミレーヌは言う。
「ではトープ側でミスリルジュースと呼んでいたものをミスリルポーションと今後は呼ぶのはどうでしょう?シャモ側の有用成分は今まで通りミスリルジュースで。」リューが提案した。
「賛成!」
「賛成!」
ミレーヌとカミーユは二人とも賛成した。
カミーユはシャモにトープで分離されたミスリルジュースを持ち帰り、本当にミスリルスプレーがそれから作れるのか試した。そして思惑通り、そうして作ったミスリルスプレーが防具の防御力を、今までシャモで作られていたミスリルスプレー同様に、向上させることを確認した。
こうして、二つの県にある蒸留塔は、今回リューが造った新たな分留塔へと改造されていき、シャモで分離したトープでの有用成分はトープへと運ばれて、トープで分離したシャモでの有用成分はシャモに運ばれるようになった。
トープの医薬品製造は約2倍のキャパシティを持ち、需要に応えられるようになったし、シャモではセルポン県の攻撃に耐えられるほどのミスリルスプレーの製造ができるようになった。
こうして、この第二回目の会談後の5ヶ月後に、トープ県とシャモ県の間で不可侵条約が結ばれたのであった。




