アタシ達の特命任務 トウテツ編 その3
【我の眠りを妨げる者は誰か?】
リュー、ミレーヌ、コレールの三人の頭に何者かが語りかけて来た。
トウテツは暗がりの中で、更に黒っぽく見える四足歩行の獣のような姿をしていた。鍾乳石に囲まれたその場所が彼の棲家のようだった。
「私は、リュー ベルモント。我が家の守護獣であるあなたの加護を受けたい。」
【我の加護。。。何かベルモント家の危機であるのか?】
「隣国のシャモとセルポンの軍事活動が活発化している。我が国は、あなたの加護を得て陸軍力を強化したい。この強化は実際に戦争を起こすためではなく、隣国への抑止力として使いたい。特にシャモは、あなたの加護が我々にあると分かれば、我々と不可侵条約の締結に向けて交渉を始める可能性が高い。」
【そうか、、、我の加護の力を得ると、全ての軍人の攻撃力が2倍か3倍くらいにはなるだろう。だが、タダでと言う訳にはいかんな。何者かを我に捧げよ。しばらく眠っていたので、我自身の力を目覚めさせるには我には生贄が必要だ。そうだな、この洞窟の近くに街があったはずだな。ゴメットの街と言ったか。。そこの街の者を全員石化させる。その代償あれば、軍人の強化を約束しよう。】
「そんな、犠牲を無くする事はできないのですか?」リューが尋ねる。
【我は交渉はせぬ。】トウテツは断言した。
(し、しまったああああ。俺はこの皇太子をボコボコにしちまった。こいつは、トープを救うために俺たちの街ゴメットを切るぞ。)
【さあどうする?ゴメットの街を滅ぼし、トープ県全体を生きながらえさせるのか、それともトープ県を危機に晒し続けるのか?】
「それなら、答えは一つだ。トウテツよ、今回は私はあなたの加護を得る事は諦める。軍の強化は、もう一匹の守護獣、銀竜のアルジョンティヌスにお願いしてみようと思う。」
「、、、アタシもそれがいいと思うわ。。」ミレーヌも同意する。
(こ、こいつら正気か?オレたちを切りさえすりゃ、トープは助かるんだろ?)
【トープの危機なのだろう?なぜその選択をする?ベルモントの後継者よ。】
「国民を守るのが王の務め。そして僕らにはまだ他に手段が無いわけじゃない。なら、そちらの手段を試す。」
【ダメだったらどうするのだ?】
「その時はその時で考える。だが民の命を奪う方法は我々は選ばない!それが僕らのやり方だ。」
【そうか、、、お前はやはりベルモント家の人間だな。お前の祖先も何度か我と話したことがあるが、お前に性格が似ていた。
今回はすまぬな。我の力がちょうど眠りからの目覚めの時期で今弱まっていると言うのは本当だ。あと五十年もすれば生贄も必要なくなるだろうが、それでは、今回は間に合わぬな。】
「トウテツよ、我々は絶対生き延びます。だから我々の子孫がまたあなたに力を借りる必要があれば、力を貸してほしい。」
【もちろんだ。
せっかくデルモント家の者が来たのにタダで帰すわけにもいかんな。この魔石を持っていくといい。】
トウテツがそう言うと、手のひらより少し大きいくらいの魔石が、リューの目の前に浮かび上がった。リューはそれを受け取った。
「この魔石は?」
【それは、熱の魔石だ。トープ県南部は火山が多いだろう?この魔石は、それを持つ者に語りかけ、その者の近辺の火山の活動や鉱物、地下資源の状態を理解させる事ができる。また、少しなら火山活動自体をコントロールすることもできる。】
「ありがとう、トウテツ。いい使い道を考えてみます。それではさようなら。」
【うむ。】
三人はトウテツに別れを告げ、元来た道を戻り始めた。戻る道すがら、コレールは自分たちの街を守る選択をした皇太子になんと声をかければいいのか、わからなかった。ゴメットの街が守られる事で、トープが安泰になる方法の一つが泡のように消えてしまったのだから。三人は黙って進んで行った。
あと出口まで30分ほどかと思われた時に異変が起きた。枝分かれになっていた別の奥の道から、三体の猛獣が現れた。獰猛な肉食獣のようでこちらを食べようと威嚇してくる。
「コレール、入り口の方へ走って!ここは僕とミレーヌが食い止める。」リューが叫ぶ。
コレールは本当に走って行ってしまって良いのかためらってしまった。自分の勝手な機嫌の悪さのために自分に殴られ、そんな自分が族長であるゴメットの街を滅ぼさせなかった男に背を向けていくのが、憚られたのだ。
リューとミレーヌは獣に向かって行った。二体の獣が加速して襲いかかって来たが、そのそれぞれが戦闘慣れしている2人に切り捨てられた。
「しまった!」ミレーヌが叫ぶ。
残りの一匹がコレールに向かって一直線に進んでいくのを許してしまった。
「コレール!何やってるの!逃げなさい!」ミレーヌが続けて叫ぶ。
「ジャベリン!」リューが母レティシアから貰ったマジックアイテムの腕輪で空飛ぶ槍を召喚した。槍は獣を一気に貫いた。
「大丈夫か!コレール!」リューは近づいていき、尻餅をついているコレールに手を差し出す。
「何でだよ、、、」
「えっ?」
「なんでオレなんかを、俺たちの街を助けてくれんだよ!アンタにとんでもない非礼を働いたオレが族長なんだぜ!それに、ここから外に出るだけなら自分たちでできただろ!オレなんて用済みだ!それにトープを救える千載一遇のチャンスだったんだぜ!
今のはジャベリンだろ?高速で飛ぶ槍を召喚する。伝承にもあるんだ。高々3回しか使えない道具なのにその貴重な一回をオレなんかのために使っちまった。」
コレールは泣いていた。
「そんなふうに思わないで。トープを救えるチャンスだったって、それは間違っている。あなたたちの街を含めてトープだからだ。次の王として当たり前のことをしただけだ。非礼とあなたが呼ぶことについては、もう僕がいいと言ってるんだからいいじゃないか。最後に、用なら大アリのアリだ。これから一緒にゴメットの街を復興していく計画を立てるのが約束です。忘れてもらっちゃ困る。」リューは言った。
「それにアタシ達はアニータにはあなたをこの洞窟内で守るって約束したのよ。好きなんでしょ、彼女の事?胸を張って帰って、もう一回街の復興を頑張って、惚れさせてみなさいよ。」ミレーヌが言った。
「悪かったよぉぉ。ありがとう。これからは心を入れ替えてあなたたちと街を盛り立ていくよぅ。ウゥゥ。」コレールは涙が止まらなかった。まるで亡くなった父と母の前にいるように感じられた。
「ホラ、やる事は山積みなんだから、サッサと帰るわよ!」ミレーヌが言った。
三人は洞窟の入り口まで辿り着き、リューは入り口の結界を張り直した。
三人はゴメットの街で、まずは睡眠をとった。そして皇太子夫妻は街を見学し、街の状況の把握に努めた。次の夜には住民全員に向かって、コレールはこれからはトープの王室と協力して街を再興していく方針を演説し、宣言した。街の皆がそれを拍手喝采で受け入れた。
リューとミレーヌはコレール達と街の再興計画を立て始めた。基本的にはシゾーの街で商業化しつつある鉄の精錬のための新技術をゴメットの街も取り入れる事となった。これで技術革新の遅れからは立ち直れるだろう。また、ゴメットの街の少し離れたところには火山活動をしている火山がある。おそらくこの近くには温泉も出る場所もあるだろう。トープ軍とコレール達は協力して、先ほどトウテツから受け取った熱の魔石の力を用いて温泉を探し当てられないか、試してみることになった。これが当たれば観光客の誘致もできるだろうと言う考えだ。
リューとミレーヌは、更に次の日には帰って行った。彼らは、次は銀竜、アルジョンティヌスの協力を得るために新たな旅をせねばならない。長居はしていられないのだった。2人にコレールは深くお礼を言って、2人と別れた。
「風のような人達だったな。。。ありがとう皇太子夫妻!絶対いい街にしてみせるさ!」コレールは彼らの姿が見えなくなった後でも、更にもう一度礼を言った。
場所は変わって、オルドルの洞窟の中、トウテツはリューとミレーヌの事を思い出していた。
【直接は力を貸せなかった事、やはり残念だ。だが、フフフ、我らが次の王、リューは賢王になるに違いない。我の力を借りられぬ選択ではあるが、王としての選択としては、リューのした選択は正しかったのだろう。。我はリューを主として認める。銀竜の奴には、我のこの見解、伝えておいてやろう。フフフ。我にできるのはここまでだ。】




