アタシ達の特命任務 トウテツ編 その2
リューが殴られる音が、このゴメットの街の族長の家に響く。かれこれ10分は、族長のコレールがリューを殴り続けている。
「これでどうだ!」
「グアッ!」リューが悲鳴を上げる。
「こりゃあああ、やめんかコレール!」コレールの祖父のガトーが言いかけた時に、ガトーを制したのはミレーヌだった。
「うちの皇太子はこんなくらいで根を上げるほど、やわじゃないわ。アイツの鍛え方は並じゃない。アイツはどうしてもこの街の皆さんと一緒にこの街を建て直したいのよ。そう言う人なの!だから、ああしてやられ続けている。アタシは、アイツを、アタシの夫の考える事とする事を信じるだけ。アイツは大丈夫よ。」
そう言うミレーヌだったが、見るに耐えないのだろう。右手をギュッと固く握っていて、自分の爪が手のひらに刺さり血が出そうになるくらいだった。
「上等だ!化けの皮剥がしてやらあ!」コレールのラッシュは勢いを増した。
リューを身体、顔問わず、さらに数分めった殴りにした。
最初はニヤニヤしていた街の人間達も、その酷さに顔が青ざめ始めていた。だが彼らにとって族長は絶対的な存在で意見ができない。その時だった。
「もう、やめなさい、コレール。皇太子様達は私達とこの街を再開発するチャンスを得ようと思って殴られているのよ!今後、私達と一緒にこの街の未来を切り開くために!あなたのやってる事は恥だわ。」1人の少女が言った。
「てめえ、アニータ!俺に逆らおうってのか!」
「私も殴るの?もう、勝手にすれば。」アニータと呼ばれた少女は泣いていた。
それを見たコレールは、掴んでいたリューの胸ぐらから手を離し、地面へと投げた。
「チッ、クソが。興が冷めたぜ。」
「リュー!!」ミレーヌはリューに駆け寄る。
「コレール、お前自身のした約束じゃ。皇太子夫妻をトウテツの元へと導いてもらうぞ。オルドルの洞窟内には、先に進むのに現族長のお主と一緒でしか進めない場所もあったはずじゃ。」
「チッ、わかった、わかった。やりゃあいいんだろ。」
先ほどリューが殴られていた部屋の隣の部屋にはソファーがあり、オルドルの洞窟に行く前に、リューはそこで手当てを受けることになった。
ミレーヌと先ほどの少女アニータが手当の準備をした。
突如、アニータはリューに向かって土下座を始めた。
「申し訳ありませんでした。皇太子様!コレールを許してください。」彼女は泣いている。
「頭を上げて。」リューはそう言うと優しく彼女の体勢を起こした。
「大丈夫ですよ、アニータ。許すも何も、コレールは僕と約束してそうしたのですから、彼には僕に許される必要はありません。」リューは言う。
「一方でコレールは落とし前をきっちりつけるべきよ。約束通り、トウテツの元には一緒に来て案内してもらうし、それが終わったらこの街の復興策についてアタシ達と話し合いを始める。その二つの約束のうち、一つでも破れば私が直々に彼に天誅を下すわ。」ミレーヌは冷徹な声でアニータに言った。
「それについては、私は大丈夫だと思っています。あの人、純粋で本当は義理堅い人なんです。ただ、まず、彼の父母が鉱山での落石で亡くなってしまった。更に彼の親友で共に街を支えて来た若手のノエルと、ノエルを慕う者達が、ごっそり技術革新に成功したシゾーの街に移動してしまった。それでコレールは本当に参ってしまったのです。」アニータは言った。
「辛い日が生きているとありますね。だからこそ僕は彼の力になりたい。」リューはコレールに、さっきまで自分を殴っていた男の力になる気が満々だ。
手当てが終わり、リューは隣の部屋で待つコレールの元へ行くためにドアに手をかけた。
「皇太子様!
、、、、
あの、本当にありがとうございます。どうかご無事で。」アニータが言った。
「大丈夫。無事に戻って来ます。コレールは僕たちが危険から守ります。」
リューとミレーヌは隣の部屋のコレールに合流した。三人は、オルドルの洞窟へと向かった。
オルドルの洞窟の入り口は水面のような膜に覆われていた。普段は中に入ろうとすると、強烈な圧力に押し返され入れない。リューが水面に手を触れる。すると水面が波紋を立てて徐々に厚みを無くしていき、最後にそれは消え去った。
「さあ、入ろう。」リューが言った。
(こ、こいつ、マジもんの王家の人間かよ。伝承にある通りだぜ。)コレールが思った。
洞窟は天然洞窟にしては珍しく、幾つにも枝分かれしていた。ところどころ、外部からの侵入者を避けるための更なる仕掛けがあった。その仕掛けの突破の仕方は、コレールが伝承として覚えている。実物を見ないとよくわからないような仕掛けが多く、とてもコレール無しで突破できるような場所ではなかった。
いくつもの仕掛けを掻い潜り、またある仕掛けのある場所に来た。ここでは、向こう側に渡るには、地面上にいくつかある、目印のついた場所のみを踏んでいかねばいけない。壁には蛍光で光っているコケでも生えているのか、今来た道より少し明るめの場所だった。
まず、リューが、ホップステップジャンプといった要領で全ての目印の上を踏んで渡っていき、向こうに着いた。ミレーヌも難なくそれを突破した。
次にジャンプするのはコレールの番だが、彼は少し眩暈がする。ここのように、明るさが変わる場所は、夜に起きる生活に慣れてしまったラニュイ族の目にはあまり好ましくなかったのだ。
(この場所は明るさが今までと違って、少し気分が悪いぜ。でもあのクソ皇太子でも渡れたんだ。俺もやってやるさ。)そう思いながら、コレールもジャンプしていったが、やはりフラフラする。そして一つの目印を踏み外した。
「しまった!」コレールがそう言った時にはもう遅かった。
ゴゴゴゴゴと音がする。コレールの少し後方の左右から出て来たのは無数のコブラだった。
(ど、毒蛇!)コレールは逃れようとするが、コブラ達は急速に接近してくる。
(ダメだ、間に合わねえ!)そうコレールが思った時、笛の音が聴こえてきた。
ピーピーヒャララ、ピーヒャララ、、、、
それはミレーヌの笛の音だった。それを聴いたコブラ達はピタリとコレールへの接近をやめ、その場で頭だけ少し振りながらも完全停止の状態になった。
「あなた達、天才ヘビ使いのミレーヌ様が一緒でラッキーだったわね。」ミレーヌがリューとコレールに言う。
士官学校時代、プライベートビーチにて笛で蛇を操るミレーヌに蛇をけしかけられてヒイヒイ言わされたリューだったが、今回は、そのミレーヌの笛が彼らの命を助けたのである。
「ミレーヌ、ありがとう!」とリュー。
「ふぅー、助かったぜ。ありがとよ、皇太子妃。」
(なんだこの姉ちゃん!?只者じゃねー。)とコレールはお礼を言ったり、思ったりした。
ずっと歩き続け、三時間ほどして、三人はトウテツのいる洞窟の最深部へとたどり着いた。
トウテツのいる場所は少し今までよりも一層暗く、鍾乳洞になっている不気味な場所だった。
【我の眠りを妨げる者は誰か?】
リュー、ミレーヌ、コレールの三人の頭に何者かが語りかけて来た。




