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アタシ達とお化けキノコ

 パレと地方県の間には陸路ではバケツリレー的に行われる物流はあるが、人の行き来は基本的に無い。スライムハンターもしくはガーゴイルハンター適性のある地方在住の者がサンセール士官学校で学び始める時、および卒業生が帰省する時や帰省から戻ってくる時のみ陸路の行き来が可能である。異形から人類を守るハンターはそれほどまでに特殊な身分なのだ。

 卒業生となったミレーヌとリューは中央都パレからトンネルを抜けてトープ県に入ってきた。二人はそこで結婚し、新生活を始めるのだ。この場合はトープ県皇太子のリューが卒業生枠で、ミレーヌは配偶者枠で、トープ県へ入る公的な手続きを終えた。二人は馬車に乗っている。馬車は人が歩くのより少し速いくらいの、ゆったりとしたスピードで道を進んでいく。リューが馬の手綱を握っている。ミレーヌはその隣でリューに寄り添っている。


「あら、地方県に入ったのでエーテルが無くなっているわね。なんかエーテルを使えるパレでの生活に慣れていると不思議な気分ね。エーテルを使って加速ができれば、あなたの故郷の街まですぐなのにね。」ミレーヌが言う。地方県ではガーゴイルハンター技、スライムハンター技はエーテルが無いので全て使用できない。


「旅は道連れ、世は情け。ゆっくりいきましょう、ミレーヌ。」


「あなたって皇太子なのだから、護衛の一人や二人は来るものなのかと思っていたわ。」


「母は優しいのですが甘やかさないタイプでもあって『士官学校を卒業したのだから、首都エスプワールまでは、護衛なしで二人で来ることは造作もないでしょう?』って手紙の中で言ってました。」


 馬車は緩やかに進み、森の中へと入っていった。深い緑の木々が茂り、木漏れ日が斑模様を作りながら地面を照らしている。風が枝葉を揺らし、耳に心地良い音が響く。


「トープって緑が豊かなのね。」


「北部は確かにそうですね。森とか、平原、渓谷が広がります。でも南に行くと鉱山とか、砂漠、火山帯なんかがあります。自然のバラエティに富んでいるのがトープの特徴かと思います。」


「砂漠!落ち着いたらラクダに乗って旅しましょうよ。エキゾチックー。」


 それから一時間ほど馬車を走らせるとミレーヌが言った。


「あの、、、、少しお花を摘みたいから馬車を止めてもらっても良いかしら?」ミレーヌがトイレ休憩を示唆した。


 リューは馬車でトイレに行っているミレーヌを待った。その数分後であった。


「リュー!ちょっとこれ、ペケペケ茸よ!あなたがこの前、きのこご飯作ってくれたでしょう?こっちにも生えてる!あなたの街に着くまで食事はずっとペケペケ茸尽くしよ!」


 ミレーヌのそんな声が聞こえてくる。どうやら、そう言いながらミレーヌは花ではなくペケペケ茸を摘んでいるようだ。


「ミレーヌ、天然のペケペケ茸をあんまり取りすぎないように気をつけましょう。その生態系に影響が出てしまいます。そうなると自然のしっぺ返しを食らいますよ!」


「平気よ、平気。あなたは、そこで待ってて。」


 ミレーヌはかなり遠くまで行ってしまったようだ。


「キャアアアアッ、何よ、これぇ!?」


 突然、ミレーヌの悲鳴が聞こえる。方向はわかるが木や茂みで姿は見えない。


「ミレーヌ!」リューは声の方向へと駆け出した。


 ミレーヌは全長が3メートルはある巨大なキノコの化け物に囚われていた。いくつかの触手があり、そのうち二つがミレーヌの両手をロープのように縛って、宙吊りにしている。


「この、キノコの化け物!放せ!」ミレーヌが叫ぶ。


「もしかするとペケペケビースト!安心してミレーヌ!命まで奪うような生物ではない!」リューは声のする方向に駆けながら言う。


 ペケペケビーストは、ビーストと名前は付いているが、ペケペケ茸から進化した植物であり、防衛本能があり、動物っぽい振る舞いもするのだった。恐らく、近縁種のペケペケ茸が次々に採取された事に怒ったのであろう。


「さっきから、エーテルを構成しているのに!こんなのぶった斬る!、、、、ってそうか、ここ、エーテルが無いんだった!」ミレーヌはいつもの癖でやってしまった。


 ミレーヌは触手から逃げようと、今度はエーテルに頼らずに腕の筋力を振り絞るが、硬くて、両手は外れない。

 二つの触手は宙吊りにしたミレーヌの手を硬く締め付ける。さらにもう一つの触手がミレーヌの相手をする。それはホースみたいになっていて、先端が膨らみ始めた!そしてついにその内部からおびただしい量の粘性液が勢いよく出てきて、それはミレーヌの上半身にかかった。


「ミレーヌ!」

 

 リューがミレーヌのすぐそばへ辿り着いた!


「何よ、このベトベトのネバネバは?キャアアアアッ!服が、溶けてる!」


「ミレーヌ、今行く!」


「気をつけて!こいつ、とても強いわ!」


 粘性液を吐いた触手がリューに立ち向かう。リューに向かって液を吐きかけたが、リューはヒョイとそれを避けた。


「ちょいとごめんよ!」


 リューはそう言うと触手をグイッと引っ張った。かなり痛かったのだろう、その触手は萎えてしまった。


(リュー、とても速い!)


 ミレーヌはエーテルのある中央都パレでは思ったことのない感想を抱いた。中央都では、彼女の方がいつも速かったからである。


 囚われのミレーヌに触れられる距離に、リューはたどり着いた。


「この触手、とても硬いわよ!」


「ウグ、、フンガー!」


 リューがいっぱいの力を込めると、触手が外れ、そのままリューは触手を引きちぎった!ミレーヌはその場に着地した。


(なんて怪力、、、)


「逃げよう!」


「うん!」


 二人は全力で駆け出した。後ろから生き残っている触手が二人を追いかける。ミレーヌがいくつかのの触手に追いつかれそうになる。リューは速度を落として、ミレーヌの後ろに回り、触手を踏みつけたり、手で追い払いながら、目の前のミレーヌと逃げた。二人はついに馬車のところまでやってきた。


「ふう、ここまでは追ってこれないようですね。」リューが言う。


 後にいるリューからは見えないが、ミレーヌの服は前の部分が溶けてしまっている。ミレーヌの豊かで美しい乳房が完全に露出し、へそに至るまで丸見えな大きな穴が服に空いてしまっている。


「これ、上着、、、」リューが後ろから上着をかける。


「ありがと、、、、あーあ、エーテルが無いとアタシやっぱりダメね。あなたに全然敵わなかった。」


 今まで二人でパレのサンセール士官学校で二人組(ビノーム)としてやってきた時は、強敵ガーゴイルを相手にするため、主にミレーヌがビノームのリーダーを務めたし、力関係でもガーゴイルハンターとしてはミレーヌの方が上だった。だが、エーテルの使えないここでは、リューの方が強い。

 これはミレーヌが常人に比べて、何段も生身の人間として強いのにそうなのである。リューの生身の強さには理由がある。士官学校時代、ミレーヌの足で纏いにならないようにリューはガーゴイルハンターとしても修行を積んだ。だがリューの才能は父エティエンヌから引き継いだスライムハンターの方に寄っていた。母レティシアは一流のガーゴイルハンターだったが、遺伝的には父の影響の方が強かった。才能が不足している分、リューは体術でそれを補ったのだ。

 だから、エーテルが無かったらこうなることはミレーヌもわかっていた。わかっていてもやはり、最愛の者を守る実力がないことは悔しいのであった。


「リュー、アタシ体術を鍛えたい。学校ではアタシがガーゴイルハンター技術を教えたんだから、今度はあなたが教えてね。」


「手取り足取り、教えますよ。」


 リューがミレーヌを振り向かせ、手を取る。ミレーヌはリューの上着を羽織ってはいるが、豊かな胸の内側のラインはリューの視界に露わになる。


「もう、エッチ!」


「さあ、ミレーヌ、まずは着替えましょう。」


 ミレーヌの着替えを取るために、リューが先に馬車に乗り込もうとする。ミレーヌはその後ろをついていく。


「!?ブハッ、ブヒャヒャヒャ。ヒー、ハハハハ。」


 いきなり、ミレーヌが笑い始めた。


「ミレーヌ?」


「イーッヒッヒッ、ヒャーハーッハッハ!」


「どうしたのですか?ミレーヌ?」


「あなた、その服、お尻の部分だけ丸見えよ!ヒャーハッハッハッ!」


「!?」


 なんとリューのズボンのお尻も溶解液で溶けて、丸見えになっていた!


「あなた、それで故郷の街に凱旋したら、お出迎えの市民の皆さんの笑顔も苦笑いになるでしょうね!想像すると可笑しい!ヒーハッハッ!」


「は、恥ずかしい。。僕も着替えます。」



 夕方になった。今日はここで野宿だ。結局4本だけ取れたペケペケ茸をご飯に混ぜてリューは炊いた。美味しいキノコご飯だ。食後、リューはミレーヌの膝枕で横になっている。


「ありがとうね、リュー。さっきは笑っちゃったけど、あなたのズボンのお尻が開いてたの、アタシを逃してくれた時にそうなったのよね。全く、あなたって、最高に格好悪くて、最高に格好いい王子様よね。アタシだけの王子様。」


「少し寒いね。」


リューがミレーヌを抱きしめる。二人は目を閉じキスをした。そして森の夜の中に一つになって溶け込んでいった。


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