アタシ達はアイツの命を助ける! その3
ミレーヌ達はついにガエリア山地の山頂部付近にやって来た。登り道が一旦平坦になる。ここからはたった一つの吊り橋を渡れば、リューを救うのに必要な月の花の咲く山頂にすぐ着く予定だった。しかし、その吊り橋は破壊されていた。
「うわ、うわわわっ。」
強風が常に吹き荒れ、生徒達は飛ばされそうになる。向こう岸に着くのは人間業では、到底無理である。
「アタシが巨人に乗るわ!」ミレーヌはそう言うと、彼女の巨人を召喚した。
彼女のペンダントが光り、ドラゴンルージュが現れた。急ぐようにミレーヌは操縦席に乗り込む。
「ドラゴンルージュの加速でジャンプすれば、向こう岸に降り立てるかもしれない!」ミレーヌが短く説明する。
「かもしれないって。。。そんな!生きるか死ぬかの二択になるわよ!」ミレーヌと一緒に来たスライムハンター科のヴェロニカが叫ぶ。
「、、、他に今すぐ思いつく他の方法、あるかしら?」ミレーヌがドラゴンルージュの操縦室から聞く。一同は答えられず、黙ってしまった。
「時間が無いのよ。アタシは絶対にリューを助ける!そしてアイツを蘇生させたら、リューを心配してくれたみんなの人数だけ、リューの大好きなお仕置きしてやるの。アイツってば、この先一年ずっとヒイヒイ言うことになるわ。」リューとの日常を想いながらミレーヌは言った。
だが、彼への気持ちが溢れて来て、言葉を続けた!
「アイツ、きっと死に至る可能性があるなんて、十分承知で魔人と最後まで戦ったのよ!なんてお人好しのバカなの?自分しかいないって、分かってたから、人々を守る事ができるのが。そして、アタシを守ることができるのが自分しかいないって。そんなアイツがいない生活なんてイヤ。。。だから、アタシは行くの!アイツと一緒に進むために!」
ミレーヌはもう心を決めていた。だがリューが自分も救ってくれたが為に生命の危険にあるという事実が重すぎて悲しみに押しつぶされそうになる。そんなミレーヌを見てヴェロニカは言った。
「ミレーヌ、気持ちを一回切り替えなさい。まずは私のリュー君のモノマネを見なさい!ちょうど、ここにキノコが生えてるわ!
『いやー、ちょうど九月かー、舞茸の美味しい季節だなー。』」
「な、何よ、アンタ?」突然のヴェロニカの行動にミレーヌがキョトンとした顔をする。
「に、似てた。。」
「いや、そこじゃ無いでしょ。」思わずモノマネに感心してしまったルイーズにルイが突っ込みを入れる。
「これが、いつものリュー君でしょ!切羽詰まって思い詰めて、そんなんじゃアナタ、実力を出しきれないわ!アナタもいつも通り、余裕をぶちかましてれば良いのよ!」ヴェロニカが檄を飛ばす。
「アタシの気持ちを紛らわせようと、、、ヴェロニカ、あなた実はいい人?」ミレーヌが聞く。
「ヴェロニカです!」ヴェロニカが自分の名前を正す。
「私、時々思うことがあるのよね。リュー君って風みたいな人だなって。アナタも風になったつもりで飛んで行って、そして必ず戻って来て。」ヴェロニカがそう言いつつ、ドラゴンルージュの機体を撫でた。
心の準備ができ、いよいよミレーヌが向こう岸へと飛ぶ時が来た。ミレーヌが思念を送ると、ドラゴンルージュが起動態勢に入る。機械の回転数が上がっていく!ドラゴンルージュが一歩踏み出すたびに強い地鳴りが起き、その巨体が疾風を切って加速していく。巨人は、飛ぶ前の最後の一歩を踏み切った。それによって一層大きな衝撃が地面に走った。
空中、、、、ミレーヌは飛んだ次の瞬間に一瞬だけ、谷の下の方が見えた気がした。200メートルは下まであっただろうが、怖くは無かった。時が止まったような一瞬の静寂の中、ジャンプした巨人に向こう岸の風景が近づいて来るのを操縦室にいるミレーヌは見た。
刹那、谷と谷の間を抜け、まるで荒波のように流れる山頂の強風が巨人の巨体に直撃する。完全な向い風にドラゴンルージュは押され、着地のポイントがどんどん手前になってくる。
(リューは風、、か。。。ヴェロニカ、面白いことを言ったわね。それなら、アタシは風に乗る!)
ミレーヌがそう念じた時、巨人の形が変わっていった。ミレーヌも予想しなかったことが起きたのだ。巨人に翼が生えたのだ。翼は羽ばたくことはないが、フワリと風に乗る。ミレーヌは向こう岸につけるように、翼と機体の角度を制御する。
「ドラゴンと言うよりは、ムササビみたいだな、ドラゴンルージュ。」ルイが今は遠くなった向こう岸で言う。
大いなる風を乗りこなし、ドラゴンルージュはかろうじて向こう岸の端に降り立った。だが、岸の端は橋を渡すために人工的に作られたものでドラゴンルージュの重さを支えきれない。足元が崩れた。
「しまった!?」ミレーヌが言う。
ミレーヌは必死で、人工物が崩れ落ちる中、近くの自然の岩場をドラゴンルージュの両手で掴ませる。だがその両手はずり落ちていく。
「クッ!どうすれば。」
ミレーヌは考えるが、そうする間にも機体ははずり落ち、重力に屈しそうになる。
「まだだ!みんな、諦めるな!」ルイが叫んだ。
「オレ達は、リューを救うんだろ!」そう言うとルイは、リュー直伝のトリモチのような粘着エーテル弾をドラゴンルージュに向かって放った。
これはリューとルイだけが使える、スライムハンター技とガーゴイルハンター技の合成技だ。
粘着弾は崖を掴むミレーヌのドラゴンルージュの両手に見事命中した。しかし、重い機体はそれでもずり落ちる。
「まだよ!」次に叫んだのはルイのビノームのルイーズだ。彼女はルイに捕まり、ルイにエーテルを送り、粘着弾を強化する。それでも、まだ足りない!
「ミレーヌ、頑張れ!リュー君を助けて!」ヴェロニカがルイーズに続き、ルイにしがみつきエーテルを送る。
「ミレーヌ、頑張れー!」
「頑張れ!」
「頑張れ!」
「行けええ。」
一緒にやってきた他のガーゴイルハンター科そしてスライムハンター科の生徒全員も一つとなりルイにエーテルを送った。粘着弾が皆のエーテルで強化され、ドラゴンルージュはやっと下降を止めた!
「やった!」ミレーヌは一気にドラゴンルージュを這い上がらせた。
「ブラボー、ミレーヌ!」
「やったぜ!」
向こう岸の皆も歓声をあげる。
ミレーヌは一旦、ドラゴンルージュから降りて、山頂への小道を駆け上がる。
「頑張れー!」
「行けー!」
「リューを救え!」
皆は後ろで声援を続けた。それはやまびことなって、山の下の方で交戦中の部隊にも届いた。今度はその部隊が励まし合う。
「頑張れ!」
「頑張れ!」
「頑張れ!」
「頑張れ!」
こうして声が山の下の方まで伝達されて行き、山全体で学生達はヘトヘトになって戦いながらお互いをが励まし合った!細くなった登山路を登り、ミレーヌは山頂に着いた。空には夕方の三日月が見える。山頂では、その一面に数千本の月の花が咲いていた。白くて、そしてほのかに黄色い花だ。
「山の恵みよ、ありがとう。勝手だけどあなたを少し分けてください。」
そう言うとミレーヌは採取が軍に認められた20本を、花の状態を見てよく選び、採取した。山頂から見える絶景を見る間もなく、ミレーヌは道を下っていく。ミレーヌはドラゴンルージュに再度乗り込み、無事に谷を超え、皆の元へ戻って来た。ミレーヌは巨人をペンダントにしまう。
「月の花は?」ヴェロニカが聞く。
ミレーヌが月の花が詰まった採取箱を見せる。
「やったーーーーーーーーー!」山頂の部隊全員が叫ぶ。
「さあ、ここからは撤退戦よ!全員無事で帰るわよ!」
ミレーヌが言うと、学生の1人が手際よく、のろしをあげた。月の花の採取成功を知らせる合図だ。
山で異形と交戦中の学生達はこの合図を見て、その歓喜で一瞬、山が揺れる。だがすぐに皆、次に備える。
「撤退戦のフォーメーションに切り替えるぞ!」
ミレーヌ達はエレオノーラ達がガーゴイルと戦っている七号目まで戻って来た。
「良くやった。登頂部隊、全員いるか?」エレオノーラが尋ねる。
「はい!」ミレーヌが答える。
「ノエミー、アレックスの部隊も全員無事だ。ミレーヌ、ノエミー、アレックス、部隊を率いて撤退せよ!しんがりは私が務める!」エレオノーラは学生達を先に行かせた。
やがてエレオノーラ達は途中の洞窟にいるクリストフ達と合流した。
「ここの学生達も全員無事です。下山しましょう。」クリストフが落ち着いた声で言う。
やがて、全部隊は登山口まで戻って来た!
「最終確認だ!全員いるか確認せよ!」エレオノーラが吠える。
続々と部隊のリーダー達がエレオノーラに報告する。
「よしっ!全員帰還!直ちにガエリア山地を再封印する!」エレオノーラが宣言した。
学生達は、作戦の成功に一斉に歓喜の雄叫びを上げた!




