アタシ達と未知の遭遇 その3
ムチの音が唸る。
「あああああっ。」
「ミレーヌ!」
化け物は、ミレーヌとノエミーを捕らえたのち、ミレーヌにまず興味を持ったのか、ミレーヌのみにゆっくりと攻撃を始めた。無数のムチのうち一本のみを残し、それでミレーヌを痛ぶり始めた。ミレーヌの美しい肌に赤い跡が残る。この人型のスライムの最大限の攻撃力を持ってすれば、防御の術のない二人は一瞬でやられていたであろう。が、この残酷なモンスターは、致命傷にならないような手加減で、それでいて人間の痛覚が強く働く、そんな力加減でミレーヌを打ち続ける。
「アアーッ!」
また一つ鞭の音が森に響いた。
「ミレーヌ!」
「ハァハァ。。。大丈夫よ、これくらい。。。あの動物達の無数の小さな傷はこれだったのね。なんて悪趣味なやつ。でも、もうじき、アレックスが呼ぶ増援が来、、アアーッ!」
「もう見ていられない!この化け物、痛ぶるなら私を打ちなさい!」ノエミーが叫ぶが化け物は聞く様子はない。
薄れゆく意識の中、ミレーヌはリューの事を考えていた。
(あなた、ガーゴイルと2回目に戦った時だったかしら。私の身代わりにガーゴイルの攻撃を受けたわよね。どんなバカなのよ、あなた。あなたの場合、モロにあたれば即死だったのよ。。)
ミレーヌの口元が笑う。
「ハハハ アハハハハ。この化け物!お前の攻撃なんて、ガーゴイルの一撃に比べれば、ゴミみたいなものよ!」
化け物は聞く耳もなく次の一撃を振り下ろす。
「アアアアアアーッ!!」ミレーヌが絶叫する。
数分後、ミレーヌは着ていた服の原型はなくボロボロで、はだけている肌は赤い跡だらけとなっていた。もう叫ぶ気力もほとんどない。
(見た目は酷いけど、致命傷にはなっていないわ。アレックス早く来て!)ノエミーが考えた。
もう反応を見せないミレーヌに退屈したのか、ついに人型スライムはそのメドゥーサの髪みたいなムチを今は一本だけではなく10本動かし始めた。その10本は一つの極太な束となり加速する。
(!?まずい。動物達には二種類の傷があったわ。一つは無数の小さい傷。もう一つは致命傷となったと思われる大きな傷。。それはあの極太のムチでやったのね。)
「ミレーヌ!目を覚まして!逃げ‥」
その瞬間、轟音がし、水しぶきが一帯に飛び散った。
「グオオオオオオオオオ!」断末魔が上がる。
それはミレーヌのものではなく、化け物のものだった。ノエミーの四肢を掴むムチが緩み、ノエミーはその場にストンと落ちた。人型スライムが作った極太のムチの全ての部分が幾多のエーテルの弾で撃ち抜かれ、弾け飛んでいた。
「ミレーヌ!」
ノエミーがミレーヌの方を向くと、そこにはリューの腕の中にいるミレーヌがいた。
「ノエミー、一旦、敵の射程外まで下がりましょう。」リューが言う。
ノエミーと共に引き下がるとリューは自分の上着をボロボロの服を着たミレーヌにかけた。
「ミレーヌの応急処置、お願いします。アレックスと援軍はもう直ぐ来ます。頑張りましょう。」とリューはミレーヌを託す。
応急処置を始めて、少ししてミレーヌの意識が戻る。
「リューの声が、、、微かに聞こえる。。。」
ミレーヌが声の方を向くとリューが人型スライムと交戦している。ガーゴイルハンター技術で加速し、ガーゴイルハンターのように剣にエーテルを纏わせるがそれは対スライム用にアレンジされてる。その剣でムチを何本も切り落とす。かと思えば近距離で対スライム用のエーテル弾をぶっ放す。
「、、、綺麗。。。」華麗に舞う蝶のようなその動きをミレーヌは見て、言った。
スライムの頭から無数に生えていたムチが半分は切り落とされたかのように、遠くからは見える。リューは圧倒的に押している。しかし、、、
「!?いけないわ。リュー!あなたエーテルを使いすぎよ。このままでは昏睡してしまうわ!」
ミレーヌがリューに向かって叫ぶが遠くのリューに声は届かない。
「チッ!」
ミレーヌは舌打ちするとエーテルで加速する。
「ちょ、ちょっとミレーヌ!危険よ!」
そう言うノエミーの元をミレーヌは離れる。
「リュー!このバカー!」
リューと化け物のすぐそばで叫ぶ。
「エーテルを抑えなさい!あなた、死ぬわよ!」
即座、数本のムチがミレーヌを狙う。それをリューは瞬時に切り裂き、言った。
「つかまって、ミレーヌ。」
ミレーヌはリューにお姫様抱っこされてしまった。リューがミレーヌをノエミーのところまで加速して連れて来た。ミレーヌを地面に下ろす。リューは動かない。
「リュー?」
「リュー?あなた泣いてるの?」ミレーヌが気づいた。
リューは言った。
「ミレーヌは、いつもこうやって弱い部分のある僕を助けてくれるじゃないですか。そうやって助け合っていけるパートナーは僕にとっては一人しかいない。今目の前にいるそのままのあなただけです。今でもうまく言えないけど、そういう、あなたのままが良いと言いたかった。昨日は寂しい思いをさせてしまって、ごめんなさい。」
「リュー。。。あたしも、意地になってごめんなさい。あなたが、ただ好きなだけなのに。」
ミレーヌはなぜだか涙が出て来た。もらい泣きのような涙だった。恐らく、リューの言いたかったことは伝わったのだ。そんな二人を複数のムチが襲ってくる。リューは振り向きざまにそれらを斬る。エーテルの消費を抑えるためには、弾はこれ以上撃てない。攻撃も一撃に抑えるしかない。リューは最後の加速をし、残りの全てのムチを斬り払った。化け物の無力化には成功した。だがこれ以上戦闘を続けるとミレーヌとの約束が守れない。
「いたぞ!」
その時、アレックスと援軍が到着した。味方のスライムハンターが化け物に波状攻撃を浴びせ、ついに化け物は絶命した。
「や、やった。。」
化け物の最期を見届けたリューは、気が抜けて立っていられなくなる。ミレーヌ、ノエミーとリューはすぐに病院に搬送された。
病院でのミレーヌ達の治療が数時間に渡り行われた。中央都パレの最高の軍医達が治療を施す。
数時間後、、もうこの日の深夜になっていた。治療後の面談で軍医ソフィーが言う。
「ミレーヌ君、幸い君は軽傷といえる。君のツヤツヤの肌、私たちが腕によりをかけて治療した。明後日くらいには完治しているだろうね。」
「リューは?リューは大丈夫なんですか?」
リューは今、別室の病室にいる。
「リュー君は、、、」
「風邪と肉体的疲労だ。ノエミー君に聞いたが、君がリュー君のエーテル消費量をコントロールする様に言ったようだね。君はビノームの鏡だ。もう少しで危険ゾーンに入るところだった。。。」軍医ソフィーが太鼓判を押す。
リューが起きてくるのをミレーヌが待つ。一時間ほどしてリューが起きた。
「ミレーヌ!」
「リュー!」
二人が抱き合う。
「もう大丈夫なの?」二人が同時にお互いに言ってしまい、二人で笑った。
二人ともすぐ退院可能と言うことになったが、風邪でリューは相変わらずフラフラしている。
「しょうがないわね、あなたは。」ミレーヌがリューをおんぶする。
「!?」
「じっとしてなさい、アタシのアパートまで行くわよ。」
「3キロはあるよ。」
「大丈夫よ。あなたは目をつぶってゆっくりしていればいいわ。」
道中、、
「あっ。」とリューが声を上げる。ハァハァと息をする。何やら、それは風邪のせいではないらしい。
「何よ可愛い声あげて。」
「あのミレーヌ、このおんぶ、その、、ミレーヌの身体と僕の体がその、、擦れてて、ハァハァ。」
「!?」ミレーヌが意地悪い笑みを浮かべる。
「どこまで変態なのかしら、あなたは。罰としておんぶを続けます。絶対に変な声を出しちゃダメよ。そしたらお仕置き追加。」
「あっ、やっ、、、」
「何?やめて欲しいの?」
「。。。。。。。や、やめないで。。。」
「このド変態。」
結局ミレーヌのアパートまでおんぶされたリューは息も絶え絶えだった。ミレーヌは玄関にリューを下ろした。そして後ろの手で鍵をかける。外ではハアハア言っていたリューは、真面目な顔に戻っている。起き上がりミレーヌの手を取る。そして二人は再度深いキスをした後、そのまま泥が混じり合うかのように、深く愛し合った。もう二人に言葉は必要なかった。この金曜日の夜から月曜日の朝まで、二人はずっと一緒にいて、何度も愛し合った。




