アタシはアイツの評判を少し調べた: 情報屋のマリア
(戦略を変える必要があるわね。トープ県出身のスライムハンター候補生、秒で私に屈服隷属するようなヤツなのかと会う前は思っていたけど、アイツはそんなタマでは無いわ。いや、奴隷だけどアタシがどうにもできない時、助けてくれるのは、奴隷以上になってしまっているのよ。もっとアイツの情報を集めないと。)
(いや、単にアタシと会っていない時のアイツの個人情報を知りたいだけか。アイツ、女関係はどうもお堅くはなさそうなのよね。)
そんなことを考えながら、大学校の昼休み、ミレーヌがカンティーンで友人とランチをしていた。ガーゴイルとの二戦目から三日経った。リューはまだ自宅療養の身だ。ミレーヌは毎日放課後にお見舞いをしている。元気がだいぶ戻って来たようで何よりだ。
ミレーヌは食事を終えると友達に「また明日ね。」と言い、購買部でパンオーショコラを買い、サークル棟へと歩いて行った。サークル棟とは大学校の各サークルが部室を持っている建物だ。薄暗い廊下を進み、情報部と書かれた部屋にミレーヌは入る。やや、ジメジメとした匂いがしている。
「スライムハンター科2年、リュー ベルモントの大学校での様子について知りたいのだけど。」
「お嬢さん、パンオーショコラ二つになります。」
カウンターに座っているマリア ルフェブルが言った。ミレーヌはマリアに二つパンオーショコラを渡した。マリアもミレーヌもガーゴイルハンター科の2年生だ。
「ミレーヌ、あなたはリュー ベルモントのビノームでしたよね?良いでしょう。ビノームについて良く知ることは良いことです。まず、リューはスライムハンター科ではトップの成績を収めています。」マリアが話す。
(アイツがスラ科のトップ!やっぱり!アタシ達がスライムハントの任務にあたる時って、よく正規軍と一緒に任務をしたりして、高難度の仕事をやっている感があったのよね。普通じゃないと思ってたわ。アイツの事前情報とも整合性があるわ。)
そういうミレーヌもスライムハンター科の10倍の規模を誇るガーゴイルハンター科第二位、つまり次席の成績を誇る。ガーゴイルハンター科はエリート学科なので、100人に聞けば100人がミレーヌ方がより、軍での出世のポテンシャルがあると思うだろうが、それはミレーヌとっては重要ではなかった。
「それに加えて、ミレーヌ、あなたと組んでいる事から、何かデカいことをするんじゃないかとスライムハンター科の学生からは思われています。人望もあり、スライムハンター科の女子達からは異性としても絶大な人気を誇ります。彼はとても優しいと人は言います。」
(やっぱり。私が一目置くのだから他の人に人気があるのは不思議じゃないわ。)
「特に誰と仲がいいのよ、アイツは?」
ミレーヌは核心に迫る。
「私の知るところによると、ミレーヌ、あなたとスライムハンター科のヴェロニカ、そして軍医科のアリスの三人でしょうかね。ちなみに、ここからは速報ですが、ガーゴイルハンター科からの評価も急変中な模様です。最初はあなたのビノームが務まるのかという印象からスタートしたものの、あなたのピンチを何回か退けたという事から、案外すごい人なのかもしれないと思う人が出ているようです。ガーゴイルハンター科にもファンが出てきつつあるそうです。」
「まあそのくらいで良いわ。ありがとう。パン、二つで足りるのよね?」
「毎度あり。ミレーヌ、私がパンオーショコラを受け取るということは、あなたがここに来たことを誰にも話さないということです。安心してください。」手を振るマリアに手を振り返し、ミレーヌはサークル棟を後にした。
冬になり、葉が落ちた並木道を歩きながらミレーヌは考える。彼女は午後のリューとのトレーニングを一緒にするために、待ち合わせ場所へと歩いているのだ。
(かかったわね、マリア。彼女がパンオーショコラを二つ受け取るということは、例えば、パンオーショコラを三つくれるような客をマリアが探せば、アタシがリューについて嗅ぎ回っていたという情報は売られるということ。でもね、それはアタシにとっては好都合。噂の上で、アタシがリューに熱をあげていると思われれば、男はアタシを諦め、女はリューを諦める効果がある。それでも、諦めないのは、やっぱり、軍医科のアリスくらいかしらね。)
並木道は栗の木、マロニエの並木道だ。サークル棟から見てミレーヌたちの更衣室は大学校の反対側にあり、結構歩かなくてはならない。第一番講堂のそばの一際大きな栗の木の下で、リューと待ち合わせてある。ここで待ち合わせると、リューと更衣室まで行くのに少し話せるし、サークル棟に行っていた事が即バレすることも無いのだ。ちなみに更衣室は男女別だ。
「ミレーヌ様、元気?」
「もちろんよ。あなたは?」
「元気だよ。カバン持つ?」
「別に良いわよ。さあ、今日のトレーニングでもガッツリシゴくわよ。」
「ありがとう、ミレーヌ。」
(な、何がありがとうよ、ア、アタシが専属のご主人様なんだから、当然じゃない。)
ミレーヌはなんだか感傷的な気分になりつつ、リューと歩いて行った。




