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捨てられ猫姫の憂鬱  作者:
第一章 捨てられ猫姫の新生活
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貴族猫の登録


 浮かれているのが、様子に表れていたみたいで、ルルに今日はウキウキしていますねと言われた。


 そう、ものすごく楽しみ。歩いていても、すぐジャンプしてしまう。

 バレエの先生が、今日のミーア嬢は、羽が生えているようですわ、と感激していた。


 夜、ベッドに入るとお父様がやって来て、私の頭を撫でてお休みと言った。私もお休みと言って、寝るふりをしようと目を閉じた。

 気が付くと、また頬をぷにぷにされていて、私はまたその前足をガシッと掴んだ。


 茶色いスーツのお兄さんが、起きてねと言った。

 黒いスーツのお兄さんは、離してくれと言った。


「今日は掴まれる前に逃げようと思ったのに。君、寝ているのに手が早いね」


「さあ、行こうか。今日は王宮の特別な魔法陣を借りて来たんだ」


 そう言って丸いシートを床に広げた。

 これは王宮の秘密エリアに繋がるドアのようなものだそうだ。


「秘密エリアでないところはいつも行けるの?」


「それも手続きが済んでから、少しずつ教えますね。じゃあ、真ん中に立ってください。僕達が両横に立って手を握るから、声を出さず、目を瞑っていてくださいね」



 言う通りにしたら、すぐに体がヒュンッとなるような、変な感じがした。


「もう目を開けてもいいですよ」


 そう言われて目を開けると、どこかの建物の中にいた。匂いに覚えがあったので、私にはそこが王宮だとわかった。


 長い廊下を三人で歩き、大きな両開きの扉の前で立ち止まると、茶色いスーツのお兄さんがドアをノックした。


「どうぞ、入って」


 ガチャリ、と重い音がしてドアが開いた。広い部屋の中には、大人の人達がたくさんいる。

 真ん中に大きなテーブルがあり、その周りに十数人が座っている。壁際に置かれた椅子には人がぎっしりと座っていた。皆、同族だ。


 一番前に座っているひげの男の人が声をかけて来た。猫の姿で過ごすようにと教えた大人だった。今日の議長だと自己紹介した。


「元捨てられ猫姫で、今はミーア・ノーザン伯爵令嬢ですね。合っていますか?」


 皆が私を見ていた。選別式の時のようだった。


「そうです。元捨てられ猫姫で、今はミーアです。それで、ノーザン伯爵の養女になってミーア・ノーザンになりました」


「ミーアという名前はいつ付けてもらったのですか」


「捨てられた日に出会ったおじいさんが、その日に付けてくれました」


「その後、人間の姿で暮らしていたのですか? 猫の姿で暮らすよう言われていたのに?」


 ちょっと咎めるような物言いにムッと来たので、思ったままを言った。


「おじいさんが服を買ってくれたの。人間の子供は裸で人前に出ないから、猫で居ろと言ったでしょ。服を着たから人間でもいいの。それに猫になると、また服を着ないといけないので、面倒だから人間のままで居たのよ」


 ざわざわと貴族猫たちが話をし始めた。うちの子もそうよ。面倒なのよね。気まぐれに猫になると、そのたびに着替えさせないといけなくって、という話が耳に入った。


「静粛に」


 皆が静まると、議長が厳かに言った。


「ミーア嬢を、正式に貴族猫と認め、ここに登録する。特殊な例として、家門は無しで、人間界の名であるミーア・ノーザンとして登録する。では登録にかかろう。書記、今までの話と、現在の人間の姿を書き留めたか?」


「はい。確かに」


「では、猫の姿の登録に移る。ミーア嬢、猫の姿になってもらえるかな」


 猫になったら、人間に戻るときには裸だ。もうすぐ八歳の私には羞恥心が芽生えていた。

 茶色いスーツのお兄さんはすぐに気付いたようで、ドレスを別室に運びますから安心して、と言ってくれた。

 それで、安心して猫になった。


 またまた、部屋の中がざわついた。

 そして議長が叫んだ。


「ブルーじゃないか。王女より濃いぞ。そんな報告は上がってきていない。調査員」


 私に関しての報告を上げたらしき者が立ち上がり、弁明を始めた。


「あの時は窓の外の木の上から見ただけで、部屋の中は薄暗かったからグレーの猫にしか見えなかったのです。こんなに青いなんて気が付きませんよ」


 私にはその騒ぎの理由がわからなかった。

 ブルーの毛が濃いほど魔力が強い、と聞いたことを思い出したが、今のところ魔法を使ってもいない。


「ミーア嬢。選別式の日、あなたは淡いグレーの毛色だったはずだ。いつの間に、こんなに青くなったのですか」


「う~ん。体の成長と共に少し濃くなる感じかしら。毎日見ているから、あまり気にしたことは無かったけど、侍女のルルがそう言ってたわ」


 現在の私はグレイがかったブルーの毛色をしていた。この姿で家の外に出たら、きっと攫われるから、絶対に外で猫になっては駄目だと言われている。


 ブルーの猫は珍しいのだろうか。あまり見かけたことは無いが、数回見た母は真っ青だったし、王女猫も薄いブルーがかった毛をしていた。だから、私もやっぱりブルー系統だったのか、と思っただけだった。


「ブルーだと何か問題でもあるの?」


 私の問いかけに、議長はしばらく考え込んでいたが、ゆっくりと話し始めた。


「無い。いや、今までに無い、としか言いようが無い。とにかく、書記は書き留めて記録しろ。そして皆静粛に。今後の事は女王に相談をしてみる。それまで、誰も何もしないように」


 茶色いスーツのお兄さんが、私を別室に案内して、ドレスを自分で着ることが出来るか聞いてきた。


「出来るけど、服の魔法を教えて欲しいな」


「そうだね。もしかすると、君ならすぐに出来るのかもしれない。やってみようか」


 茶色いスーツのお兄さんは、茶色の猫になってから教えてくれた。


「頭の中に服のイメージを作って呪文を唱えるんだ。まずはイメージして」


 うん、した。


「次は呪文ね。それを唱えながら人間になるんだ」


 ウニャウニャと呪文を唱えると、ブルーのワンピースを着た、人間の姿になった。

 やった。これで服を着る必要がなくなる。


 バンザイ、と飛び上がって猫になり、またワンピース姿の人間になった。今日、来たかいがあった。


「ありがとう。最高の気分だわ。じゃあ、帰るね。さっきの魔法陣で送ってくれる?」


「ちょっと待ってね。宰相様にどうすればいいか聞くからね」


 もう帰りたいと思ったけど、帰り道がわからないので、黙って付いて行った。


 宰相は私を見ると、腕を組んであごひげを擦りながら、うろうろとし始めた。


「王女より濃いブルーの猫。そんなことが有っていいのだろうか。今の王女はブルーががったグレイで、歴代の王女の標準だ。それが、ミーア嬢はもうグレイがかったブルーになっている」


 一人で何やらぶつぶつ言っている。


「変化が早すぎる。それは力が大きいということだ。つまり、彼女の方が王女より強い? そして大人になったら、ブルーの猫が二匹になる。つまり女王が二人出現することになる。頭が痛くなってきた」


「宰相様、ミーア嬢を家まで送っていいでしょうか」


 茶色いスーツのお兄さんが問いかけると、宰相は立ち止まってこちらを向いた。


「ああ、ミーア嬢。今夜は帰ってゆっくり休んでください。また会いましょう。色々と今までの事をお伺いしたいのです」


 宰相の態度が丁寧になっている気がする。変なの、と思った。


「では、さようなら。おやすみなさい」


 私は礼儀正しく挨拶をしてから、魔法陣で帰宅した。


 服一式は茶色いスーツのお兄さんが運んでくれた。茶色いスーツのお兄さんはパーシー、黒いスーツのお兄さんはビリーだと名乗って、またねと言って帰って行った。


 その晩、私は興奮してなかなか眠れなかった。




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