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捨てられ猫姫の憂鬱  作者:
第四章 王配の座は誰に

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相談してみました

 部屋に戻るまでに、私達二人は、公演に興奮した人々に纏わり付かれた。興奮しすぎて、めまぐるしく人間と猫の姿が、入れ替わっている人もいた。


 先程の演目には、既に、海賊と王子という名が付けられているようだった。

 ようやく部屋に戻ると、すぐ後にソロモンがヨレヨレの姿で入って来た。


「ひどいよ。君たちを探そうと、一歩出た途端にもみくちゃにされて、さんざん引っ張り回された。まいった」


 私はヨレヨレになったソロモンの襟を、引っ張って直した。次の瞬間、ダンがバレエでしたように、私を引っ張って、ソロモンから引き離した。


「ねえ、ダン。あの舞台はもしかして、ああいう演出ではなく、素だった?」


 バーバラの言葉に、集まっていた者たちが笑い声を上げた。

 ダンがビクッとして、私を引き寄せた。


「あ、もしかして当たり?……呆れるわ」


 バーバラの言葉を、リンスが引き継いで、フォローしてくれた。


「あの演出、とても見応えあったわ。王子も海賊もとても素敵だった。最後には、海賊の熱い思いが叶うのが、ロマンティックだった」


 ありがとうと答えてから、私は室内を見回した。お父様とバーバラ、パーシーとビリー、女王とネイト、リンスとニコラ、つまり話をしたい全員がここに集まっていた。


 私は、ゴクッとツバを飲み込んだ。


「皆さんに相談したいことができたの。実は私、ダンと恋人同士になった、みたい」


 ダンが振り返り、そこは断言して欲しいと頼まれてしまった。


「ダンと恋人同士になったわ」


 もう一回言い直した。

 反応は見事にバラバラだった。


 バーバラは、早い、と叫んだ。

 リンスとニコラは、見つめ合って微笑んでいる。

 お父様は、その場に崩れ落ちた。

 パーシーとビリーは、歓声を上げた。やっぱりダンの味方になっている。

 ソロモンは、ひえ~と素っ頓狂な声を上げて驚いた。

 女王とネイトは、黙ったまま目で語り合っている。


 私は女王をじっと見つめて待った。


「ダンはミーアの事を、どこまで知っているの?」


 女王の質問には私が答えた。


「ブルーの毛を持っていることだけです」


 女王がダンを目で促した。


「誘拐事件の時に、一瞬、ブルーの猫になったのを見て、王女だと思いました。ミーアと結婚するには、大会を勝ち抜かないといけない。だから四年間、隣国で修業してきました。先程、王女ではないと聞き、プロポーズしました」


 え~と声が上がったので、私はすぐに否定した。


「恋人になるのはOKしたけど、それ以外はまだ無理よ。突然すぎるわ」


 ダンはむくれている。


「僕は二日目の試合を辞退します。勝ってしまったら困るから」


「そんなに強いのかしら」


「私と張り合えるくらい強いです」


 私の答えに、全員が驚いた。

 私の実力を知る者たちは、ダンの強さに驚いたし、知らないものは、私がダンと同レベルなことに驚いている。


 女王が尋ねた。


「踏み込んだ話をするために、場所を変えたほうがいいかしら」


 私にとって身内ともいえる人々と、王位の継承に絡む人々が集まっている。一番遠いのがソロモンだけど、彼だけのけ者にはしたくなかった。


「この場で相談させてほしいです。全員に信頼を置いています」


 では、と女王が皆を促した。大きなソファの一つに女王とネイト、その向いに私とダン、リンスとニコラが座った。他のものは、それぞれ好きな場所に座った。


「ミーアは捨てられ猫姫よ。偶然の重なりで、貴族猫になった。つまり王女のリンスの妹なの」


 あ、だからブルーなのか、とダンがつぶやいた。


「ダンが知らずに優勝していたら、リンスの婚約者になるところだったわね」


 ダンはその場合どうしたのだろう。そう思ったのは、私だけではなかったようだ。数人がチラッと、ダンを見ていた。


「その場合……多分、王女がミーアでないのにパニックを起こして、婚約を断って、慌ててミーアを探す、かな」


 バーバラが、なんて失礼な、と憤慨した。私も何だかムカッとした。

 ミーアの怒った顔に焦ったのか、ダンがリンスに向かって言い訳をした。


「もちろん王女様はとても美しくて魅力的です。でも四年前に一目見た時から、僕にはミーアしか考えられないのです」


 この言葉には私もグッときた。

 何となく不機嫌になっていた者達も、納得したようだ。既に大会優勝者を、振ることに決めている王族サイドは、苦笑いするだけに止めている。


「そうだわ。リンスは誰が勝っても振るつもりだったのだから、どうなったのかしらね。リンスが振るのが先か、ダンが断るのが先か」


 私が疑問に思ったことを口にしたら、女王が怖いことを言った。


「どちらでも、前代未聞の珍事になるわね。ちょっと見てみたいわ」


 ビリーが聞いてもいいでしょうか、と前置きしてから質問した。


「誰が勝っても振るというのは、どういうことでしょう」


「ミーア、説明してあげて」


 女王に任されてしまった。


「リンスはニコラに一目惚れしてしまったの。だからリンスは大会優勝者を選ばない。そしてニコラは人間だから、子供ができるかは分からない。でも、私がブルーの猫を産むことが出来る」


 私は一旦区切って、皆の顔を見回した。飲み込めているようなので、続きを話し始めた。


「一つ目の案は、リンスを次期女王としてお披露目して、子供が生れなかったら私が女王になる。二つ目は、今の段階から私を次期女王としてお披露目して、リンスはニコラの国に嫁ぐ」


 そうだな、とか、そうなるよなと言う言葉がバラバラと上がった。


「私は恋人もいないし、これからゆっくり考えようと思っていたの。それが突然恋人ができてしまった。どうしたらいいと思う?」


「ミーアは女王になるのは嫌かしら」


 リンスが心配そうに聞いてきた。


「嫌というか、考えた事がないの。ダンのいきなりのプロポーズより、更に現実味がないわ」


 ダンが必死で私の手を掴んできた。別に逃げたりしないわよ、と横目で見る。


「正式に大会で優勝して王配になる。俺は貴族猫だから、子供もできるよ。結婚してください」


 どさくさ紛れに、またダンがプロポーズを始めたのには驚いた。


「賛成です。四年前、ダンは誘拐事件のすぐ後に留学している。決断力と、実行力、ミーアへの愛は証明されているようなものです」


 賛成を表明したのはニコラだった。ソロモンもパーシー達も同意見らしい。


「たとえ婚約したとしても、結婚なんて何年もあとの事よ」


 私がそう言うと、ダンが驚いた。なんで、と聞くので、ネイトにそうでしょ、と振った。


「そうさ。三年から四年くらいの、長いお預け、つまり修行期間があるよ。もうさあ我慢大会だよ。頑張ってくれ」


「じゃあ、女王になるのは反対する。俺は我慢したくない」


「まあ、恋人になれたものだから、タガが外れてしまったのね。それって、ミーアにふさわしい男って言えるかしら」


 ガツンと言ったのはバーバラだった。本当に、この子は自分の妹なのだろうか。お母さん代わりじゃないかしら、と疑ってしまった

 パーシーが私が思ったのと同じことを、そのまま言った。


「バーバラ、ミーアの母親みたいな物言いだね。迫力がすごいよ」


「そう? ミーアには返しきれない程の恩があるの。だからミーアの幸せに関しては、一ミリも譲らないわ」


 ああ、そうか、とパーシーとビリーが言い、それにお父様が加わった。


「じゃあ、ミーアと付き合うには、バーバラに認められないと駄目だね」


 ソロモンが苦笑しながら言うと、それにリンスが付け加えた。


「私もよ。ミーアに幸せを教えてもらったの。だから、ミーアには絶対に幸せになってもらわなくてはね。ミーアが嫌なら、女王の座を担わなくていいのよ。それと、ミーアを不幸にするような奴は、全力でつぶしに行くわ」

 

 キッと睨むリンスの美しい顔が怖い。本気のリンスは実はかなり怖い。リンスとバーバラが組むと怖いのが二乗になるから困るのだ。こんなことで組むのはやめて欲しいな、と思う。 


「ありがとうね。でも、きっと大丈夫よ」


 穏やかな方向に持って行こうとする私を、二人の姉妹が睨んだ。



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