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捨てられ猫姫の憂鬱  作者:
第四章 王配の座は誰に

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初めてのキス


 大喝采と拍手が、鳴り止まない舞台に、私達三人は再度上がり、礼をした。

 頭上に魔法で出した花や、大きな虹や、ハートマーク等が飛んでいる。


 私は大きく手を振って、舞台を後にした。


「ダンのせいで、バトルものみたいになったけど、受けてよかったね、ミーア」


 ソロモンが、少しズレた感想を口にした。

 その途端に、私はさっきのダンの言葉を思い出し、真っ赤になってしまった。今、横にはダンが立っている。


「舞台をかき回してしまって御免。ソロモンが、ミーアの体に触るのが許せなくて、カッとしてしまった」


 ダンがしょげている。でも私を見つめるまなざしは、熱いままだ。

 目が合うと、ドクンと心臓が跳ねた。そのまま、鼓動は速くなっていく。それなのに、もう目をそらせなかった。


「少しだけ時間をくれないか。今の内に君に話したいことがある」


 ダンと一緒に、会場から離れ、静かな森の中に移動した。足元がふらつく私の手を、ダンが引いてくれている。夢の中を進んでいるようなおかしな気分だった。


 立ち止まった場所で、ダンは私に向き合った。


「ミーア、君は王女なんだろ。だから俺は王配になるために、隣国で修行してきた。俺では嫌か?」


 私はぽかんと口を開けてしまった。何で? と疑問で一杯だ。


「待って。私は王女ではないわよ。どうしてそう思ったの?」


「だって、青い毛の猫は、女王と王女しかいないよ」


 私は誘拐された時、一瞬だけ青い毛の猫に変身してしまった事を思い出した。


「でも、王女ではないわ」


 ダンが戸惑っている。疑うような目で、じっと見つめられたので、本当よ、という意味で大きく頷くと、ようやく信じてくれたらしい。


「それじゃあ、大会で優勝してしまったら、とんでもないことになったな」


 ダンが、4年間修行してまで欲しかったのは、権力ではなく、私だったのか。そう気付いた途端に、更にボッと血が昇った。そしてなぜか、ダンが今までとは違って、特別な人に見える。


 これは、もしかしたら恋?

 ダンがおずおずと手を伸ばし、ミーアの手を取った。


「王女でないなら、自由に相手を選べる。それなら今、申し込むよ。俺と結婚してくれ」


「え、いきなり結婚!」


 ふざけているのかと、ダンを見上げたが、至極真面目な顔をしている。


「四年前、君を一目見た時、恋に落ちた。だからすぐに、君の後を追ったんだ。それからずっと、気持ちは変わらない。きっと、これからも変わらない」


 私は頭が爆発しそうだった。まともに考えられないけど、頭に詰まって、膨れ上がっている思いは、なぜか、嬉しいだった。


 どうしよう、しか浮かんでこない。

 心臓の音が、どうしよう、どうしようと刻んでいる。目はダンを見つめるばかりで、唇は、何と答えようか、考えつかないまま震えている。


 ダンがすっと腰を折り、唇に優しいキスをした。

 もうだめだった。私は意識が遠のくのを感じた。



 ミーア、ミーアと呼ばれて、フッと気がつくと、目の前にアップでダンの顔が迫っている。相当焦っている様子だ。


「あら、私どうしたの?」


「急に気を失ったんだ。大丈夫?」


 ダンの体を押しやって、頭を振った。


「どのくらい?」


「一瞬だよ。急にキスして御免。自分でもよく分からないけど、体が自然に動いてしまったんだ」


 なぜだか目を覚ましてから、すごく落ち着いていた。

 今現在ダンに抱きかかえられているけど、嫌ではないし、困ってもいない。なんだか、ダンに寄り掛かっているのが、当たり前のような気分になっている。


「キスが嫌だったわけじゃないわ。ただ頭がいっぱいいっぱいで、パンクしそうだったの」


「本当に?」


「うん」


「じゃあ、もう一回キスしていい?」


 調子に乗ってるわね、とムッとしたのもつかの間、おねだりするような目に、負けてしまった。ありったけの勇気を振り絞って、ミーアは答えた。


「いいわ」


 ダンは嬉しそうに私を抱きしめた。

 頬ずりするように顔を近づけ、匂いを吸い込んでいる。時々触れる頬の感触に、産毛がゾワッとなり、体がムズムズする。


 あれ? キスじゃないの? という疑問がわいてきたけれど、経験のない私にはよくわからない。

 思わず手で少しダンの体を押したら、手が裸の胸に触れた。バレエの練習で、男性に触ることはあるが、それとは全然違う感情が沸いて来た。ダンの胸はびっくりするほど固くて暖かい。

 慌てて手を引いたら、その分ぴったりと抱き寄せられた。


 ダンの唇が眉の上に落ちる。するとまぶたの辺りがピリピリした。次に頬に唇が触れた。今度は頬から首筋に掛けて、しびれのようなものが走った。

 私はダンの胸を強く押して身を引いた。


「これ、さっきのキスと違うわ」


 ミーアの抗議に、ダンが慌てた。


「まだ唇にキスしていないよ」


 ダンが必死で取りすがったが、きっぱり拒否した。許したら図に乗りそうだと、勘がささやいている。


「今日はこれでおしまいよ。唇へのキスはもうしたじゃない」


「あんなのじゃなくて、ちゃんとしたキスがしたい」


 ちゃんとしたキスが、どういうものかわからなかったが、絶対に駄目な気がした。


「結婚するんだから、いいじゃないか」


「待って。まだ、それには答えていないわよ」


「駄目なの?」


 駄目とか何とか以前に、唐突すぎる。こんなに急いで、こんな大切な事を決めさせようとするなんて、と腹が立ってきた。

 私はジロッとダンを睨みつけた。さっきの恋は何処に逃げていったのだろう。不思議になって、自分の心の中を探してみた。


 自分の気持ちは分からないけど、ダンを見ると嬉しくてきゅんとする。だから、きっとダンに恋している。


「じゃあ婚約は?」


 婚約の言葉で、王女の婚約のことを思い出した。つい先日、まだ恋人はいないと、女王達に言ったばかりなのに、今は突然恋人が現れ、しかも結婚を迫られている。なんてことだろう。


「ややこしいの」


「ミーアと結婚するためなら、何でもするよ」


 どうしたらいいのか、周囲に相談するべきなのだろう。またバーバラに叱られるのは、ごめん被りたい。


「皆と話しましょう」


 戸惑いながら、ぽつりとそう言った私を、ダンが不安げに覗き込んだ。


「ミーア、もう君と俺は恋人同士だよね。そう思っていいよね」


「そう......なのかしら」


 ダンが急に私を抱き寄せた。


「ねえ、これは嫌だと感じる?」


「いいえ」


 今度は私の唇に軽くついばむキスをした。


「これは?」


「いいえ」


 軽くついばむキスは、長く温め合うキスに変わり、その内にダンの舌がミーアの唇をかすめた。

 反射的にミーアの唇は、ダンの舌先を追い掛け、ついばんでいた。

 ダンが慌てて、体を離した。


「ほらね。ミーアは俺の事が好きなんだよ。お願いだから、早くもっと俺を好きになってくれ」

 

 少し息を整えながらの感じで、ダンが言った。


 そうなのだろうか。確かにキスは素敵だった。それにしても、キスは駄目と言ったはずなのに、いつの間にか、ちゃんとしたキス? というのを許してしまったのかもしれない。 

 あまりに自然で、いつの間にかそうなっていた。やっぱりダンは女たらしなのだ。

 

 そのダンは、なぜか辛そうに見えた。近くの木の幹に手を突き、俺は大丈夫だ。ミーアが世界一大切なんだから、我慢できる。忍耐だ、とぶつぶつ言っている。


 ちゃんとしたキスってこういうものなの? リンスも、もう経験したかしら。後で聞いてみることにした。

 

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