バレエの舞台
夜のイベントは、8時過ぎから始まる。
演目の一番初めは、パーシーのバイオリン、次がオペラの歌姫で、人気曲をメドレーで聞かせてくれることになっている。
最後が私のバレエだった。
出演者が集まった時、ダンの様子が変で心配したが、現在は普通に戻っていた。
ソロモンがダンを気遣って、なにやかやと、気を遣っていたおかげだろうか。
私がダンに、体調が悪ければ休んでね、と言ったら、絶対に出演して手伝うと言い張った。無理したら明日に差し支えると諭したら、勝って欲しいと思ってくれるか? と聞かれた。
思うわよ、と答えたら急に機嫌がなおったのだ。よくわからない男だ。
パーシーの演奏が始まり、私達も拡大映像で、その姿を見ていた。
バイオリンを弾くパーシーは、いつもよりストイックに見える。それなのに、音の中に浸るような姿に気持ちがかき乱され、背筋がゾクっとした。
「何だか、色っぽいわね」
私が小声で言うと、横に居たソロモンが慌てた。
「ミーア、ちょっとそれは、淑女にあるまじきセリフだよ」
ソロモンが珍しく、堅苦しい事を言うのに驚いていたら、ダンが二人に近寄って来た。
「パーシーは芸術家だね。すごく魅力的だ」
ダンなんかに教えられてしまった。淑女なら、こういう風に言うのよねと反省し、少々へこんだ。
次の歌姫に、パーシーはバイオリンで付き合った。歌姫の音量は凄く、会場中に響き渡っている。それを邪魔せず、バイオリンの音色は、控えめに音楽を紡いでいる。
いつも見ているパーシーとは違う。これが芸術家としてのパーシーの姿なのだ。とても素敵で、改めて見直してしまった。
「パーシー、素敵ね」
またもや、ソロモンがぎょっとしたような顔をし、ダンが詰め寄って来た。
何だろう。この二人は。
「どうしたのよ」
「パーシーはお兄様なんだろ?」
「そうよ。今日は、いつもと違う魅力を発見したわ。大会での戦いもそうだし、この演奏もそうよ。私の自慢の兄だわ」
そろそろ、オペラのメドレーが終わる。次が出番。
ミーアは、気持ちを切り替えた。
今回のバレエのベースはラ・シルフィードだ。前半を一人でアレンジして踊り、途中からアクロバットバレエに切り替える。
観客には、あらかじめ、オリジナルの『貴族猫しか踊れないバレエ』と紹介してある。
音楽が流れ始め、私は一人で踊り始めた。照明は私の周辺だけを照らしている。魔法で白い靄をあたりに漂よわせ、幻想的な雰囲気を醸しだしている。その中で、私の薄青色のチュールがふわふわと揺れる。大きく動いた時に見栄えがするよう、衣装は裾を長くして、ボリュームを出してある。
区切りまで踊ると、一旦照明を落とし、会場を暗くした。
その間に二人が舞台に立ち、再び照明がともされた。
わっと歓声が上がった。先程までよりずっと広い範囲が明るくなっていて、舞台には王子様と海賊が現われている。
私がソロモンに近付くと、ソロモンが私を掴んで思い切り高く上に投げ上げた。長いスカートがふわっと広がり、それを摘まんで、私は空中でお辞儀をした。
キャーッと声が上がる。そのまま片足で降りて来ると、ソロモンの肩を蹴って、ダンの所までロングジャンプを繰り出した。
長い滞空時間に、また声が上がる。
ダンが私の腰を捕まえ、地面に下ろすと、回転しながら舞台中央に移動し、そこで50回、回転した。その後ゆっくりと、ソロモンの方に手を伸ばした。
ところがなぜかダンが、ソロモンから引き離すように、私の腰を掴んで自分の方に引き寄せた。
驚いて逃れようとすると、ダンが私の目を見つめて、ささやいた。
「ミーア、好きだ」
驚きすぎて、ダンの手を逃れて、高くジャンプして逃げてしまった。
ソロモンが、私を受け止めようと、両腕を広げて待っている。そこに逃げ込もうとすると、ダンが捕まえにやってくる。
「ダン、何しているんだ。僕の邪魔ばっかりして、どうしたのさ」
「うるさい、ミーアに気やすく触れるな」
観客の目には、この演目は、王子様とヒロインと海賊の、三角関係の物語に見えているだろう。王子とヒロインの仲を海賊が引き裂き、連れ去ろうとするのだ。
「何て情熱的でロマンティックなの! 素敵」
「王子も素敵だけど、海賊の彼、すごく男っぽくてセクシーね。ヒロインを見つめる目が熱い感じ」
興奮した声が、あちらこちらで上がっている。先のオペラのメドレーで、だいぶロマンティックな雰囲気が、作りあげられていたところに、この演出は、はまった。
本当の所、ダンが暴走しているだけなのだが、かえってバラエティに富んだアクロバットがてんこ盛りになり、非常に見ごたえのある舞台になっている。
「ダン、ちょっと落ち着いて。私の腰を掴んで、高く掲げて頂戴。それでフィニッシュにするから」
私はダンのサポートで、手を上に上げ、ポーズを決めた。
舞台は、海賊がヒロインを王子から奪い取り、大歓声の内に終わりを迎えた。




