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捨てられ猫姫の憂鬱  作者:
第四章 王配の座は誰に

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二回戦終了


 最後の選手が控室に戻り、しばらくすると、全員が再びフィールドに戻って来た。

 そして、アナウンスが響き渡った。


「第一試合。形態、猫。魔法禁止」


 その声と共に、全員が猫の姿に変わった。

 3000人が一斉に戦うと、ぶつからないかと心配になったが、猫の姿なら十分すぎるスペースがある。


「審判、位置に付け」


 その声で、審判らしき人達がばらばらと出て来て、フィールドの各所に散らばった。

 

「各自、一人を倒したら、負けた相手を審判に渡し、フィールドから出ること。合図で、対戦を開始する。用意」


 会場は、緊張に包まれ、シンとした。

 その30秒後、パーンと派手な音が鳴った。

 会場は一気に声援と、雄たけびに包まれた。私達も、ひたすら声を上げていた。皆頑張れ、と叫んでいたような気がする。


 体当たりで相手をふっとばし、倒れた所を、審判のところまで引きずっていく者がいる。

 また、引っかいたり、噛みついたり、取っ組み合ったりの戦いが、あちらこちらで繰り広げられている。

 叫び合って、背中の毛を逆立て、飛びついていく。動きが速いので、何匹もが混ざり合い、誰と誰が戦っているのかわからなくなる。

 そんな混戦の場から目を移すと、悠々と相手を威嚇して、審判の手の中に追いやっている者もいる。

そうして、どんどんフィールド内の猫が減って行った。


 負けた人数が半数になったところで、終了の合図が鳴った。


 みんな結構、毛並みがボロボロになって砂まみれだ。混戦だったので、個別の戦いをじっくり見ることは出来なかったが、全体での熱量はすごかった。


 初めは、ビール片手に、がんばれ~と言っていた、お父様とニコラは、興奮しすぎて、ビールを蒔き散らしていた。

 そのため、ミーアとバーバラはずっと離れて観戦していたのだ。


「ねえ、ミーア、ビリーとパーシーとダンとソロモンが、どうなったかわかる?」


「全くわからないわ。どこに居たかさえ、わからない」




 あまり間を置かず、残った者達がフィールドに戻った。

 そして、またアナウンスが響き渡った。


「第二試合。形態、自由。素手。魔法禁止」


 今度は殆どの者が。人間の姿でフィールドに立った。

 服は、変身できるように、自分の毛を魔法で変化させた物だ。全員シンプルなシャツ姿に揃えている。

 こうなると、ソロモンはすぐに見つけられた。淡いライラック色はとても目立つ。


「バーバラ。ソロモンがいるわ。一回戦を勝ち残ったのよ」


 ふたりで、ソロモンに声援を送った。それに気が付き、ソロモンが大きく手を振った。

 その横で、こちらを睨んだのが、たぶんダンだろう。

 まだ1500人もいるので、判別が難しい。戦い始めたら、目で追うのも大変になるのだ。



 出場者は、猫と人間の切り替えが出来るように、毛皮の服を着ているようだ。

 服を着ていたら、フィールドが、脱ぎ散らされた、服だらけになってしまう。


 ソロモンは、サラサラのライラック色の髪をなびかせ、気負った様子もなく、自然体で立っている。

 その周辺だけ、ロマンチックな雰囲気に包まれていて、見守る私達は、感嘆のため息を漏らした。


「やっぱり、ソロモンって綺麗だわ」


 バーバラがうっとりと言う。


「人数が多いうちは、魔法禁止なのですね。やはり周囲を巻き込むからですか」


 ニコラが誰かに尋ねている。振り向くと、ネイトが来ていた。ニコラとお父様は、上着を脱いでいる。

 先ほどの試合観戦で、ビールまみれになったせいだろう。


「1日目は禁止だよ。余波が他の対戦者を巻き込むと、わけが分からなくなる。君は昨夜、実力者の力を見てないか?」


「ああ、はい。あれでは巻き込まれた者が、かわいそうですね」


 何を思い出したのか、ニコラは手で口を押さえ、下を向いてプルプルしている。

 

「貴族猫が頑丈なのに驚きました。あれだけふっとばされて、無傷なのだから」


「出場者は特別に強いからね。普通の者なら、ケガをする。実力者も、それが分かっていて、やったと思うのだがね。そう思わないか?」


 ネイトが視線を私に移した。

 やっぱり、バレてますね。

 私は、こっくりと頷いた。


 ダンは強いから、手加減無しで力を当てたけど、ソロモンまで巻き込むとは思わなかった。

 今まで、誰かに向けて、力を使う機会が無かったので、加減や、範囲の絞り方が下手なのだ。

 今後は力の使い方を、学ぼうと決めた。


「対戦相手を選んで、握手」


 そのアナウンスで、出場者が二人一組になっていく。

 審判達が登場し、適当に散らばって、周囲の出場者を確認していく。審判は出場者と違って、青いジャケットを着ているので、間違えられる事はない。


「審判はどんな人がやっているのですか? 皆かっこいいわ」


 バーバラが、目をキラキラさせながら聞いた。


「前回の二日目に残った者達に依頼している。審判も強くないと、危険だからね」


 どうりで、イケてるおじ様ばかりのはずね、とバーバラは嬉しそうだ。

 お父様が、なんとなくシュンとしている。


「私達の圧をものともしないのは、君たち親子くらいだ。伯爵、誇って良いことですよ」


 お父様の機嫌が、一気に良くなった。

 バーバラも口元がムニュムニュしている。これも久しぶりに出た、バーバラの癖だ。自慢と嬉しさが抑えられないようだ。


 合図の音が鳴ると、一斉に取っ組みいやら、殴り合いが始まった。


「ミーア、見て。あそこボクシングよ」


 バーバラに引っ張られて、会場を見ると、ボクシングの構えで、パンチを繰り出している男が見えた。


「かっこいいわあ。私、応援する」


 バーバラは夢中になっている。

 相手はキックで応戦しているようだ。足が、ビシッと上がる。


「相手もかっこいい。どうしよう」


 私もしばらく見入っていたが、ふとソロモンが気になって、姿を探した。

 彼は、黒いシャツの男と対戦している。相手はすごくすばしこい。


「ソロモン、頑張って」


 私が応援すると、ソロモンは相手の腕を引っ張り、巻き込むように地面に引き倒した。そのまま腕を後ろに引っ張ると、相手が降参した。


 審判がすぐに二人を引き離し、ソロモンに勝者のカードを渡した。


「ソロモン、頑張ったわね。すごいわ」


 歓声を上げると、バーバラが帽子を引っ張った。


「ミーア、やっぱりお母さんくさいわ。ダンの応援も、しなさいよ」



 一応バーバラと二人で、ダンを探したが、見当たらなかった。


「おかしいわね。一回戦で負けたのかしら。そんなに弱いのなら、ミーアを任せられないわ」


  バーバラの言葉に、後ろから返事が来た。


「秒で勝ったんだけどね。何か言ったか?」


  後ろには、ニコラと一緒にダンが立っていた。


「何で、ここにいるの?」


「ニコラが呼んでくれた。この後、小休憩を挟むから、こっちに来ないかって。ソロモンも、後から来るよ」


 バーバラは、ええ〜、と言ってニコラとダンを横目で睨んでいる。その流れで、お父様に目がいく。


「1回戦の戦いが、大迫力だったので、ぜひ招きたくてね だからニコラに誘うよう言ったよ」


 私とバーバラは、全く見ていなかったので、へえ〜と低めの声で応対した。


「君たち、ダンの飛び蹴りと、ソロモンの体当たりを、見てなかったの? すぐ前で戦っていたのに」


 ニコラが驚いているが、あんなにたくさんいたら、わからないと思う。

 でもそれで二人は大興奮していたのかと納得した。


「お父様とニコラが、ビールを振り回すから、離れていたのよ」


 ニコラがダンの肩に手を置いた。ポンポンと叩いて、これからさと慰めている。

 そのうちに、ソロモンもやってきた。レモン味のソーダを手に持っている。


「ミーア、バーバラ、僕の格好いいところ、見てくれたでしょ。応援ありがとう」


「見たわよ。すごく素敵だった。強いのね」


 私達が褒めちぎると、ソロモンは髪をサラッと揺らして、うれしさ全開の笑みを浮かべ、もっと褒めてと言った。

 面食らったような表情で、バーバラが私にこっそり耳打ちする。


「何なのかしらね。この麗しさと、三歳児のような可愛らしさのギャップ。ミーアがハマるのも分かるわ」


 そうなのだ。かわいくて仕方ない。

 ついつい、手を引いて椅子に座らせ、世話を焼いてしまう。それにも、すごく素直に従うのが、また可愛い。


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