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捨てられ猫姫の憂鬱  作者:
第四章 王配の座は誰に

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ニコラの不安


 大会当日、朝食が済んだ頃に、ニコラが私達の部屋を訪ねてきた。

 王子らしい綺麗な所作で、お父様に挨拶し、次に私とバーバラにも挨拶をした。


「本日は皆様の席にお招きいただき、誠にありがとうございます」


 バーバラが、ニコラにソファを勧め、自分もその前に座り込んだ。


「ニコラ様、女王はなんて言って、あなたを招待したのですか」


「昨夜、お手紙をいただきました。伯爵様の知人として、彼らの席に招待するので、朝食後に伯爵の部屋を訪ねるように、と書かれていました」


 唐突な誘いで、驚いているはずなのに、そんな様子は全く伺えない。抑制の効いた態度は、王族として身に付けたものだろう。

 確かに、彼にはそういう教育の必要はない。それでも一応、私は忠告しておくことにした。


「ニコラ、今日話す内容は、ダン達にも、他の誰にも内緒だと思っておいてね」


「わかったよ」


 何かあるのだと感じていたようで、ニコラは静かに頷いた。


「ところで、昨夜ソロモンの言ったこと、どう思う?」


 バーバラが遠慮なく聞いた。


「ミーアが僕を好きだって、あれかな。ソロモンは鈍いし、ダンは目が曇っている。普通は、そうじゃないって気が付くよね」


 ニコラが苦笑混じりに言うと、バーバラは満足そうに頷いた。


「リンスの相手が、おバカさんでなくてよかったわ。おバカな二人は、昨日お仕置きされたし、これでよし」


「彼女はリンスっていうの?綺麗な名前だね。彼女にピッタリだ」


 ニコラは嬉しそうに、リンスと呟いている。名前を口にする度に、すごく幸せそうな表情をする。こんなに好きなら、それを引き離したくなんかない。

 私は気が重くなってしまった。自分が女王になれば、二人の障害はなくなる。でも、まだ現実味が感じられない。

 いつの間にかお父様が、ぼんやりと考え込んでいる私の横に立っていた。


「ミーア、無理しなくていいのだよ。お前のせいではないし、一人で背負う必要もない。一緒に考えよう」


 私はお父様に抱きついた。


「世界で一番お父様が好き」


 そう言った途端に、おじいさんも同じくらい好きだし、バーバラも……それで言い直した。


「世界で一番、みんなが好き」


 お父様が感激して、抱きしめ直してくれた。


「ミーアはまだ恋をしたことがないのね。恋人は、みんな好きの、その上に来るのよ」


 バーバラが胸を張った。

 はっとしたお父様が、まさか、バーバラと言いながら、バーバラの方を向きかけた。私はその態勢のまま、もう一度お父様をぎゅっと、抱いた。


「商団時代の知恵ですよ、きっと。バーバラにも私にも、恋人はいません」


「ミーア、ありがとう。大好きだよ」


 私はバーバラを睨んでおいた。お父様をいじめるのは良くないわ、という意味を込めて。バーバラは変な顔をして笑わせようとする。怒りたかったのに笑ってしまった。


「ミーアの家族は仲がいいね。ところでリンスはお友達なの?」


「まだ内緒よ」


 バーバラが思わせぶりに言う。私は、そのほっぺを両手で挟んだ。


「バーバラ、意地悪は駄目よ。リンスのことは、後でね。会場に行けば会えるわ。ところで、出場するダン達はもう出かけたの?」


「ウォーミングアップしているよ。ソロモンは浮かれているけど、ダンはものすごく集中している」


「ダンって、ミーアを好きなのに、何でそんなに王配になりたいのかしら。最終戦に残って、アピールするつもりなのかしらね」


 バーバラが決めつけるような言い方をするが、ニコラも不思議だねと、相槌を打っている。


「権力志向のいばりたがりなのよ」


 ふ〜んだ。頑張って勝って、リンスに振られたらいいのだわ。そう考えると、かなり気分が晴れた。

 楽しく話していると、侍女が早めの昼食の誘いを告げにやって来た。


 昨日の部屋に行くと、女王とネイト、リンスが揃って待っている。

 ネイトが立ち上がり、迎え入れた。


「おはよう。試合前に、少し話をしたいと思ってね。会場は盛り上がってうるさいし、試合も観たい」


 気軽にそう言ってから、ピシッとしてニコラに対した。


 二人は対等に、王族同士の挨拶を行った。

 レジーナ侯爵家は、王族より地位が低いが、ニコラは貴族猫の事を知っている。だから対等にしたのだろう。ネイトはニコラを、女王とリンスの前に案内し、二人を紹介した。


「レジーナ侯爵であり、貴族猫の女王と、王女だ」


 流石にニコラは驚いたようだ。顔が引きつっている。

 それでも、培ったものが助けになったようで、少し掠れた声で、しっかりと挨拶をした。女王の手を取り、口付けるふりの挨拶をした後、リンスの前に進んだ。


 リンスの手を取ると、二人は見つめ合った。目線が絡み合って、離れない。お互いの体の中まで見通そうとするように、互いをじっと見ている。


 これは、恋の経験がない私にだって分かる。二人は強く恋し合っている。

『貴族猫の一目惚れは運命』 という言葉が、頭の中で点滅した。

 私が女王とネイトの方に目を向けると、女王が頷いた。

 やっぱり、そういうことなのだ。ニコラは、リンスの運命の相手。女王とネイトも、同じ事を考えているのだろう。今からは、それを踏まえた話し合いになる。


 私はお父様とバーバラの手を握った。その手を、二人も強く握り返してくれた。


 食事の席は端に女王。片側に、ニコラ、リンス、ネイト。反対側にお父様、私、バーバラとなっている。食事は和やかに進み、食後の紅茶が出る頃に、女王が口火を切った。


「ニコラ王子は、リンスとの将来を、考えるつもりがあるかしら」


 全員が動きを止めて、女王の方に向き直った。問い掛けられたニコラは、紅茶のカップを降ろし、姿勢を正した。


「考えています。私にもチャンスがあるのでしょうか」


「急な事であなたもでしょうけれど、私達も戸惑っているのよ。なにせ、明後日にはリンスの婚約者が決まるはずだったのですから。それはご存じでしょう」


「はい。私の友人二人が、王配の座を目指していて、それを応援しに来たのです。まさか彼女が王女だとは思ってもいませんでした」



 その後は、淡々と王女の結婚について、ニコラに説明がなされた。

 人間のニコラと結婚するなら、ニコラがレジーナ侯爵家に婿入りするか、リンスが次期女王の座を降りて、嫁入りすることになる。

 ニコラがレジーナに婿入したとして、子供が出来なかった場合、リンスは女王にならない。子供が選別式を迎える時、同時に女王になるため、子が出来なければ、女王にはなれない。


「これは初めての試みなの。一日考えてちょうだい。猫の国の王女との結婚について。あなた自身がどうしたいか、どう出来るか。明日、結論を聞かせてもらうわ」


 女王はそう言って、この話を終わりにした。


 私は様子を見ていて、女王の重みをひしひしと感じていた。ネイトや宰相達に相談は出来るけど、決定するのは女王だ。そして女王の決定は絶対なのだ。

 これを自分が継ぐのは、無理だと思った。




 その後そのメンバーのまま、揃って会場入りし、王家の席と伯爵家の席に分かれた。

 とは言え、私達の席は王家の横で、室内側は、王家のテラス席ともつながっている。一緒に食事ができるようになっていて、護衛や侍女が、そこに数人控えている。


 彼らは大会を観られないのだろうか。

 気になってこっそり聞いたら、交代制ですから大丈夫、と答えが返ってきた。


 テラスには、十人分の椅子やソファが置かれている。ゆったりと、お茶を飲みながら観戦出来そうだ。


 早い時間なのに、会場内は、もう人々で賑わっていて、席を取る人、知人を探す人、迷子もいるようだ。案内係が手を引いて親を探している。


 このテラス席からは、会場の様子がとても良く見える。オペラグラスも幾つも置かれているし、観戦には最高の席のようだ。


 ふと見ると、ニコラが難しい顔つきで考え込んでいた。


「ニコラ、気持ちの整理を手伝うわ。話してみてちょうだいよ」


 私が声をかけると、ニコラがゆっくり顔を上げた。辛そうな目をしている。

 バーバラもやってきて横に立った。そして、偉そうにふんぞり返って言った。


「何か重たいこと考えている? そういう時の結論って、大抵、碌でもないのよ。さあ、聞いてあげるから、吐き出しなさい」



 

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― 新着の感想 ―
バーバラがどんどんカッコよく頼もしくなってきて、気づけば私にとっての一推しキャラになっていました(笑)
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