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捨てられ猫姫の憂鬱  作者:
第四章 王配の座は誰に

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許されない恋


「ダンが訓練に行く場所って、陸軍大臣の所かしら」


 そう問いかけると、ダンが驚いた。やっぱりそうなのだ。


「他にも何人か訓練に来ているの?」


「何で知っているの? そうだよ、陸軍の軍事訓練施設だ。結構な人数が特別枠で、訓練に参加している」


 大会のためか、侵入防止戦のためか、どちらがメインだろう。バーナード学院側は、とにかく鍛えているようだ。


 ミーアの闘志に火がついた。

 私も訓練だわ。魔法の龍で屋敷を取り囲んでやろうかしら。そんなことを考えていたら、鼻息が荒くなったようで、ソロモンに心配されてしまった。


「私、一日目のパーティーでバレエを踊るの。是非見にきてね。その時勝ち残っているよう、祈っておくわ」


 アハハ、と気楽に笑っているソロモンは、完全にやる気が失せている。分かり易すぎて、可愛い。

 ダンは、当たり前だと偉そうに言い、全くかわいくない。


「ソロモンは、本気で頑張ってね。いくら他に策があるからって、手抜きは駄目よ。ダンは、まあ、頑張って」


「なんだよ。そのついでみたいな言い方。少しは応援しろよ」


 それには何も答えないでおいた。なぜか、応援するのが嫌だったから。





 大会の前日、レジーナ侯爵邸から迎えの馬車がやって来た。観客は明日の当日にやってくるが、王宮の者達と、選手たちは前日に会場入りするのだ。


 初日の試合は午後の一時から始まる。そこから五回戦を経て、3000人が100人程度まで絞られる。

観客は午前中の内に会場に到着し、自分の居場所を決める。三日間、宿泊する場所と、観戦する場所を決めるので、早く来た方が有利なのだ。そのため朝早い時間からごった返すらしい。

 

 郊外まで四時間ほど馬車に揺られ、着いたところは森に囲まれた大きな屋敷だった。屋敷というには大きすぎて、もはや宮殿だ。


 そこにはたくさんの使用人が立ち働いていて、大会の最終準備でバタバタしている。私達が馬車を降りると、侍従が待っていて、部屋に案内してくれた。

 

 部屋は、続き部屋が3部屋ある豪華なもので、先に送ってあったドレスは、既にドレスルームにかけられていて、アイロンも当ててあるようだ。

 バスルームがすごく豪華で、バラの花びらと、香りの良いオイルが置いてある。

 早速入りましょうと、バーバラと二人言い合っていると、ドアがノックされ、リンスからの招待状を持った侍女がやって来た。


 リンスの部屋は奥まった場所にあり、メゾネットになっていた。夕暮れの素晴らしい庭園が、ベランダに向かって開いた、ドアの向こうに広がっている。

 季節に関係なく、各種の花が咲き乱れているのは、魔法の力だろう。幻想的な風景だ。

 それを背にして立つリンスは、いつも以上に美しく、王女様然としていた。


「リンスがお姫様になっている」


 そう叫んで飛びついたバーバラを、リンスが抱き止めて、くるくる回す。これはバーバラのお気に入りの遊びなのだ。一番上の姉として、バーバラを可愛がっているリンスは、こうして甘えられるのが嬉しいらしい。


「この半年ほど全く会えなかったわね。どうしていたの」


「ずっとお勉強よ。貴族猫界、人間界の教養と常識、それに候爵令嬢の礼儀作法、それらの総ざらいをしていたの」


 それは、さぞ大変だっただろう。おっとりしているリンスは、お勉強を少しサボリ気味だったので、一気に詰め込み直したのだ。


「大会が終わったら、どちらの世界にもお披露目なのよね。気分はどう?」


「かなりドキドキしているわ。後三日で十六歳になって、婚約者が決まるのよ。落ち着かないわ」


 バーバラがニッコリとした。


「出場者は皆いい男よ。どの人に決まっても大当たりだわ。私も1人もらいたいくらい」


 リンスが吹き出した。バーバラと話していると、気分がものすごく軽くなると、いつも言っていた。


 今になって気が付いたが、リンスは緊張していたようだ。バーバラのおかげで、いい具合に緊張が解けたように見える。


「出場者たちは今日のうちに来ているのでしょ。偵察に行かない?」


 バーバラが突然、危険な事を言い出した。


「だって、どんな男たちが何をしているか、興味津々だわ。舞台裏って言うのかしら。見てみたくない?」


 見たい。なんて悪魔の囁きだろう。

 バーバラと二人だけで偵察に行こうか、と思っていたら、リンスが私の腕をガシッと掴んだ。


「私だけ置いて行くつもりでしょ。私も行くわよ。だって当事者だもの」


「駄目だと思うのだけど‥…」


 リンスがお姫様モードになっている。こうなった時は、絶対に引かないのを知っている。流石、お姫様だ。だけど今回は、見つかったらまずい、というかそれで済むだろうか?


「変装すればわからないわ。侍女の衣装に着替えましょう」


 リンスはさっさと続き部屋に入り込み、侍女二人の制服を拝借してきた。

 それに着替えて、二人を促す。

 あっさりした部屋着姿なので、脱ぎ着は簡単だ。給仕の時に使うボンネットで顔を隠すと、誰なのか全く分からない。


「じゃあ、ほんの少しだけね。いいわね」


 ベランダから庭に降り、三人はコソコソと出場者の宿舎へと向かった。


 三千人が今ここにいるのか、と疑うほど、宿舎は静かだった。外から部屋の中を覗くと、すでに寝ている者や、トレーニングする者が見える。それ以上に、無人の部屋が多かった。


「思っていたより、皆真面目に取り組んでいるようね」


 バーバラが、つまらなそうに言うと、それが合図かのように、男たちがドッと宿舎に入ってきた。

 会場のことを話している。どうも会場の下見に繰り出していたようだ。


「見て、皆かっこいいわ。これ絶対に容姿もチェックしているわよ」


 ビリーやダン達は、もう来ているのかしらと、ぞろぞろと入ってくる男たちの顔を確かめた。すると、ソロモンの姿が目に飛び込んできた。


「ソロモンがいるわ」


「ソロモンって誰?」


 リンスに聞かれて、私は、ダン達に会ったことを話してあげた。ふうん、と半分上の空で聞いていたリンスが、急に私の腕をぎゅっと強く握った。


「ソロモンって人と一緒にいる、あの男性は誰なの」


 ダンでしょ、と思いながらもう一度見ると、なぜかニコラが居る。


「あら? 何でニコラがいるの?」


 バーバラと二人でおかしいわね、と言いあっていたら、ダンが宿舎の入り口に現れた。ところがすぐに宿舎から出て行ってしまった。


「ソロモンかダンを捕まえて、ニコラのことを聞かなくちゃ。潜り込んだのなら危険すぎるもの」


 ミーア達が宿舎の入り口に向かうと、走ってきたダンと出くわした。


「やっぱりミーアだった。こんなところに何しに来た。ここは男ばかりだから、来ては駄目だよ」


 バーバラが、ずいっと前に出て胸を張った。


「男の品定めよ。悪い?」


 バーバラ、恐ろしい事を平然と言わないで。私は心の中で悲鳴を上げた。


「全く。人間なのに、ミーアより、よっぽど貴族猫風だな」


 そこにソロモンとニコラがやって来た。


「ニコラったら、どうしてここにいるの? 危険よ」


 ニコラがやあ、ミーア、と言いながら前に出てきた。

 そして立ち止まった。


 私が話しかけようとしたら、バーバラが腕を取って、後ろに引っ張った。


「なあに? 引っ張らないでよ」


「邪魔よ」


 何の? とキョロキョロしたら、ソロモンがもう一方の腕を取った。


「典型的な、出会いだね」


 一人だけ状況が飲み込めていない私は、辺りを見回した。

 リンスとニコラが黙って見つめ合っている。二人の目は熱を帯びている。そのまま少しずつ距離が縮まっていき、リンスが手を差し伸べた。

 ニコラは恭しくその手を取り、二人の距離はもっと縮まった。

 二人の世界に割って入るのが、無粋なのはよく分かった。お互いに一目惚れのようだ。


 でも、この恋は許されない。どうしよう。




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