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捨てられ猫姫の憂鬱  作者:
第三章 隣国から来た男達

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お茶会1

「えーとね、レジーナ侯爵様が国に働きかけたそうなの。危険な地域だから取り潰そうって。それで一気にきれいさっぱり無くなってしまったのよ」


 私が説明すると、バーバラも話し始めた。


「私も誘拐されたことがあったから、あの地区がなくなるのは大賛成だったわ。それにしても早かったわよね。あの誘拐事件から1週間くらいで、なんにも無くなったもの」


 ライラックヘアーのソロモンが綺麗な声で言った。


「レジーナ侯爵様の力は大きいね。僕は外国で育ったから、噂でしか知らないけど、王家より権力が上だって聞いているよ」


 ダンは、へえーと驚いている。どうもあまり貴族猫の世界に詳しくはなさそうだ。

 私がどういう訳か聞いてみると、あまり貴族猫の世界に関わらずに生活してきたから、貴族猫界の事には疎いそうだ。

 そこは私も同様で、興味がないので知らないことが多かった。王家より権力があって問題は無いのだろうか。大丈夫なのかとリンスのために心配になってしまった。

 もう少し詳しく色々聞きたいが、人間のニコラを前に、どこまで話していいのか心配になった。


「ニコラ様は、知っているのかしら」


「ああ、大丈夫。彼は知っているよ。僕たちが貴族猫なのをね」


 ニコラが私の方を向いてニコリとした。それでほっとして、もう少し詳しく話すことにした。


「では、先ほどの泥棒横丁の話に戻るわね。あの時、レジーナ侯爵がすごく怒ったらしくて、すぐ次の日に、その地域を潰すから、絶対に近付くなと手紙が届いたの」


「怖いね」


 そうニコラが言うのを、私はその通りと思った。


「そう、権力者の怒りって怖いのよ。あの時思い知ったわ。住人たちは一人残らず捕えられて、取り調べを受けたの。結局全員、何らかの犯罪を犯していたようよ」


 バーバラが目をキラキラさせて話し始めた。


「私を攫った人達も、その中にいたのよ。そいつらは今も炭鉱で働いているはず。少しだけどすっきりしたわ」


 三人に、バーバラが六歳の時に攫われて、十一歳まで、旅の行商と一緒に国内を回っていた事を話すと、三人共、ものすごく憤慨した。

 口々に労りの言葉を掛けられ、バーバラは嬉しそうだ。 

 お父様は複雑そうな表情をしている。私は傍に行って、背中をトントンとしてあげた。

 トントンしながら言ってみた。


「今はバーバラも家に戻って幸せになっているわね。素敵な淑女になったわ。きっと男性にすごくもてるわね。お父様もそう思うでしょ」


「う、……もちろんその通りだよ」


 これで良しと思い、私は席に戻り、続きを話し始めた。


「元の住人がいなくなった後、レジーナ侯爵が泥棒横丁に入り込む人々を、追い払ったの。猫の国の者達を使って、幽霊騒動を起こして、あの一帯に人が近寄らないようにしたのよ。そして建物ごときれいさっぱり無くしてしまおうと国に提案し、レジーナ侯爵が私財で公園を作ったというわけ」


 またニコラが感心したように言う。


「そんな場所は、存在すら許さないということか。考え方と行動が王そのものだね」


 そう言われて、ふと考えた。私が漠然と思っているよりも、レジーナ侯爵の立場や権力は大きいのかもしれない。


 ソロモンが、お菓子を選ぶ手を留めた。


「そこらの王家より、レジーナ侯爵家の方が強いよね。レジーナ侯爵家があるから、この国は安泰だって言われるのもわかるよ。王家に取って代わる力がありながら、決して王権を脅かさない盤石の家門だもの」


「ソロモン様とニコラ様は、国家間の力関係に詳しいのね。他国でもレジーナ侯爵家は有名なのかしら」


 そう私が聞くと、ソロモンがとても真剣な顔つきになった。


「全世界の猫の王だよ。国なんて分割された一地域にすぎないだろ。国王達は地方領主で、レジーナ侯爵家の足元にも及ばないよ」


 ソロモンはそう言い、いかにレジーナ侯爵家の力が大きいかを力説し始めた。私はあっけにとられてしまった。ソロモンの力みようが不自然だ。


「大体、レジーナ侯爵家がこの国に居る必要だってないのさ。どこでも好きな場所に移動できる」


 次第に熱を帯びて、内容も過激になるソロモンの話に、パーシーが割って入った。


「レジーナ侯爵家と貴族猫たちは、今まで長くこの地で生活してきた。なんの支障もないのに、移動する必要もないだろ?」


「そうだよ。この国は温暖で、気持ちの良い場所がたくさんある。僕は海辺で寝て過ごそうと思ってるのでね。ここから動きたくはないよ」


 ビリーは、海辺でのバカンスを待ち望んでいる。

 お父様とバーバラも、絶対に反対だと意見を述べた。リンスやパーシーやビリーが隣国に行ってしまうと寂しいからだろう。


 私はソロモンがどこか移動したい国を想定しているように思えたので、聞いてみた。

「ソロモン様はどの国に越したらいいと思っているの?」


「隣国のマーシアだ。あちらの方がもっと気候が良くて住みやすい」


 隣国の事は詳しくないが、それは単に故郷びいきなだけなのでは、と思える。ダンとニコラは慣れているのか、聞き流しているようだ。私の視線を感じたのか、ニコラがニコッと微笑んだ。


「マーシアは僕にとって母国だし、もしレジーナ侯爵家が引っ越してきてくれたら万々歳だけど、そんな夢みたいなことありえないですよね」


 そう言って苦笑している。バーバラが不思議そうに聞いた。


「あの、どうしてレジーナ侯爵家が必要なのですか」


「それはですね、レジーナ侯爵家の軍事力があれば、他国からおびやかされることが無いからですよ。この国が本当に羨ましい」


 この話には驚いた。力があると聞いてはいたが、軍事力まで持っているとは思わなかった。どこに軍隊があるのだろう。王宮に出入りしていて、そんな様子を見たことも、聞いたこともないのだ。私はとまどいつつ、茶黒コンビに答えを求めた。


「ずっと平和だったから、レジーナ侯爵家が兵を集めることは、この二百年ほどなかったはずだよ。でも昔、戦いが始まった時、レジーナ侯爵の元に貴族猫たちが集結した。男も女も全員が、最低でも普通の人間の五割増しの力と魔力を持っている。それは敵にとって、脅威だっただろうね」


 パーシーがそう言うと、ビリーが後を引き継いだ。


「そのころの伝承が残っているのさ。おまけにレジーナ侯爵家は、相変わらず結束が固い。今では半信半疑とは言え、試してみたい国は少ないだろうね。だからこの国が、周辺国から羨ましがられているのは本当だ」


 初耳だった。それはいつどこで習うことなのだろう。大人の貴族猫教育でも教わってはいない。尋ねてみると、家庭で親が子供に聞かせる、昔話のようなものだと言い、それからパーシーとビリーがはっとした。


「ミーアは人間の家庭で育って来たから、教わっていないか。今度話してあげるよ。昔の戦いの様子や、100人の兵士に対して、何人の貴族猫と平民猫が必要かという、兵力の計算なんかもある」


「貴族猫対人間の兵士が10人で、女王対人間の兵士2000人だったかな」


 パーシーが言うと、ビリーが兵士3000人だと言い、ソロモンは2500人だと言った。

 この辺は、家々で違うようだ。

 現在の私は、王族以外の貴族猫の中でトップの力を持っていると、教師から太鼓判を押されている。私のブルーを通り越してラピスラズリ色になった毛を見れば、魔力量は一目瞭然なのだ。

 自分は人間の兵士何人分になるのだろうと考えた。戦うなど全く現実味がないけど、もしそうなったら、リンスの元で一緒に戦うのだろう。

 そして、常にリンスの傍にいてリンスを守る男は、なるべく強い男であって欲しい。


「それならば女王の伴侶は、最低でも人間の兵士1000人以上でないとね。ネイトもそれくらい強いと思うもの」


 何の気なしにポロリと言った言葉に貴族猫の男達が固まった。


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