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捨てられ猫姫の憂鬱  作者:
第三章 隣国から来た男達

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リンスの婚約者選びについて考える

 謎だらけの王女の結婚制度には、私も考え込む事がある。

 この慣習は、そのままでいいのだろうか。色々な慣習に反対意見を言い、そのいくつかを変えてきた私でも、それに関しては迷ってしまう。


 もし王女が恋に落ちて、弱い雄と結婚したらどうなるのか。王配は女王の騎士であり、国政を補助する者でもあるので、強さも賢さも必須なのに、それが不足だったら?


 また、王女が子供を産まなかったらどうなるのか。例えば人間と結婚してしまったら、そうなる可能性が高い。


 リンスが好きな男性をあきらめて、トーナメント優勝者と結婚する姿も見たくない。それなら、いっそ好きな相手など、いないままの方がいいのだろう。


 色々と考えると、私には何もできなかった。


 以前、リンスに聞いてみたら、若い男性とはほとんど会ったことが無いから、わからないと言っていた。ただ、女王夫妻の様子を見ていると、二人が強く愛し合っているのが分かるので、自分もそうなるのかと思い、少し憧れていると言う。


 それに王配のネイトは強くて美しい男だ。誰もが、彼を素敵な男性だと認めるだろう。リンスの伴侶になる男性も、多分同じように強く美しい男のはずだ。

 リンス本人が肯定的に考えているなら、いらぬ手出しは辞めたほうがいいのだろう。


「王女の十六歳の誕生日から、三日かけて婚約者選びの大会が開かれるの。その日の準備のために、リンスは今すごく忙しいのよ。だから、最近は家にも遊びに来られないでしょう。あと数か月だもの」


「リンスは見物するだけでしょ。何がそんなに忙しいのよ」


「大会の最後で、初めて貴族猫達の前に姿を現すのよ。その後は人間界にも出て行くことになるわ。だから、入念に支度をしているの。それから婚約パーティーの準備もね」


 バーバラは首を傾げた。


「今までも、家に遊びに来たり、一緒に遊びに出掛けたりしているじゃない。別に顔を隠しているわけじゃないわよ」


「そうだけど、誰もリンスをプリンセス・ブルーだって知らないし、レジーナ侯爵令嬢だとも知らないはずよ。めったにないけど、公の場に出るときは顔をベールで覆っているし、16歳になるまで、世間に姿を現さない幻の美少女って言われているそうよ」


 レジーナ侯爵家の伝統で、後継ぎの女性は16歳まで世間にお披露目されないそうだ。それまでに婚約の申し込みがたくさん来るらしいけれど、その全てを断っている。 

 

 そして16歳で世間に公表された時には、既に婚約者が決まっている。どうやって婚約者が決められるかは全くの謎で、しかも現れた令嬢は、予想通りにとんでもなく美しい。


貴族たちは悔しがるが、王家からの婚約の申し出さえ、けんもほろろに断っているのだから、他の貴族が何を言えるはずもない。

 王家と縁を結びたい貴族がほとんどなのに、それを拒否する珍しい貴族といえる。


 本当のところ、十分な富を持ち、全ての貴族猫、平民猫を支配下に置くレジーナ侯爵家は、国も王家も実際には不要なのだ。

 貴族社界の中だけで見ても、レジーナ侯爵家の地位は、堅固で安定している。貴族猫の忠誠は、人間の貴族家門の様に揺らぐことが無く、それらの家門に強く支持され守られているのだ。


 バーバラが、ふと漏らした。


「普段はあまり意識していないけど、リンスって王女様なのね」


「そうね。私もいつもは忘れているわ」


 そんなにすごい地位を引き継ぐのだ。伴侶は顔だけとか、地位だけとか、力だけでは務まらない。伴侶の力が不足したら、リンスがそれを引き受ける事になるだろう。

 やはり、王女の結婚は好き嫌いで片付けられるものではないようだ。


 私は、改めて、王女に選ばれなくて良かったと思った。


「その10日後には、16歳の社交界デビューも続くじゃない。私達だって、マナーのおさらいや、ダンスの練習、ドレスの準備で結構手をとられているでしょ。リンスは侯爵令嬢で謎の美少女として注目の的だからね。周囲の者達が張り切っているのよ」


「そりゃあ、お気の毒な事ね。落ち着いたら三人でのんびり、お茶しましょ」


「そうね。まずは大会が無事に終わったら、私達だけで婚約祝いのパーティーをしましょう」


 そうね、と頷いた後に、バーバラが羨ましそうに言う。


「私も見に行きたいな。長女のリンスお姉さまの婚約者を決める大会なのだもの。あたしには見に行く権利があると思わない?」


 気持ちはわかるけど、それは貴族猫の数十年に一度のお祭りなのだ。いくらお父様とバーバラでも、参加は……どうだろう。


「その日は貴族猫だけで集まって、貴族猫の力を全開にして暴れられるのよ。普段は力を隠して、殆ど使わないで居るからね。もう、大騒ぎのお祭りになるのですって。人間が混じっていたら危険だと思うわ」


 バーバラは、絶対大丈夫、行きたい、見たいとごねたので、私は仕方なしに、宰相に聞いてみると約束をした。


 

 

 お茶会の朝、張り切りきった男三人が、早々と伯爵邸に集まった。

 朝食をものすごい勢いで平らげ、興奮して喋りまくっている。数年前の淑女教育中のバーバラを思い出し、私は朝から疲れていた。もちろん使用人たちもだ。


 バーバラは彼らを冷ややかに眺め、いつもよりずっと、お高くとまっている。とても高貴な淑女に見えるのも不思議だが、こういうときバーバラはすごく綺麗に見える。

 かなり、生き生きしているからかもしれない。


 この面子でダン一行を迎えて、和やかなお茶会になる気がしなかった。

 ダンの事はあまり知らないが、大人しい人物には思えない。お父様や茶黒コンビは穏やかで楽しい人達だけど、今日の気の入れようは異常だ。


 パーシーはピシッとした貴族スーツに身を固め、茶色のサラサラ髪をアップにしている。いつもと違う。


 ビリーも華やかなスーツを着て、くせっ毛の黒い髪を伸ばしてバチッとくしけずっている。いつもと全然違う。


 これがオーソン伯爵家総動員で、めかしこんだ結果なのだろう。

 見栄えは良いけれど、日常とは違いすぎて、私が落ち着かない。


 お父様は結局いつもの髪型に戻してもらった。バーバラと二人で褒めちぎって、とっても面白い髪形を回避した。頑張ったのだ。


「別に結婚の申し込みに来るわけでもないのに、気合いの入れすぎよ。お茶会でこれでは、プロポーズに来たらどうなるの?」


「許さん。......許さないこともないが、今はそんな事を言わないでおくれ。2人ともまだ嫁には出さないよ」


 お父様が必死だ。


「バーバラ、意地悪を言わないの。お父様達も落ち着いて。今日はお礼のお茶会よ。ケンカしないでね」


 そういうやり取りを三回繰り返した頃に、ダン一行が屋敷にやって来た。


「本日はお招きいただき、ありがとうございます」


 そう言って、ダンがピンクのバラの花束を私に手渡した。こういったプレゼントがこんなにうれしいとは思わなかった。ピンクの花束に顔を埋めて、バラの香りを吸い込むと、自然と頬が緩む。


 お茶会は気持ち良く始まった。

 お父様とパーシーとビリーは、愛想よくホスト側としての応対をしてくれている。ダンたちも、にこやかで穏やかに話をしていて、いかにも好青年といった風だ。


 私は思ったより良い雰囲気にほっとし、まずは四年前のお礼を言った。

 するとダンが泥棒横丁のその後のことを尋ねてきた。


「帰国してから、あの地域に行ってみたら、綺麗な公園になっていて驚いたよ。何があったのか知っている?」



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