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捨てられ猫姫の憂鬱  作者:
第三章 隣国から来た男達

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お茶会の準備

 ダンと突然再会した件に付き、お父様が頼った先は、もちろん茶黒コンビだった。その夜の内に即刻手紙を送り、助けを求めた。

 あれから四年経った今、お父様と茶黒コンビは親友と呼べる仲になっている。お父様の方が年は十三歳上で、現在三十六歳だが、妻がいないこともあり、独身の茶黒コンビとよく一緒に遊びに出かけている。

 そしてミーアとバーバラにとって、彼らは殆ど兄だ。


 その兄たちは、すっ飛んでやってきた。


「ダンに会ったって。どんな様子だった。なんて言って声を掛けて来た」


 パーシーが挨拶もすっ飛ばして問い詰めた。

 他の男性に対しては特に何とも言わないのに、何故ダンに関してだけ、こんなに過敏なのだろう。不思議に思う。勢いに押されている私に代わり、バーバラが答えた。


「オペラの幕間に廊下で待ち構えていたの。その時は挨拶だけして、すぐに座席に戻ったのだけど、終演後にまた廊下で待ち伏せされたのよ」


「なんて奴だ。嫌がられているのにしつこいな。女たらしなのは変わっていなそうだね」


「でもね、私は初めて会ったけれど、格好良かったわよ。モテるのも分かるわ」


 バーバラがそう言うと、男達三人の目がとんがった。バーバラが、客観的な感想よと言うと、茶黒コンビがお父様の方を向いた。


「そうだね。やはりだいぶ背が高くなり、身体付きもしっかりした感じになって、見た目は悪くないかな。だが、問題は中身だ。男は見掛けじゃない」


 私とバーバラはちらっと視線を交わし、見た目の良い男は好きよね、と目で話し合った。

 私は思い切って言ってみた。


「ダンは中身も良いと思うわ。私を助けて家まで送り届けた後、黙って一人で横丁に戻り、見張り役をしてくれたのよ。そのことに対してはちゃんとお礼をするべきだと思うの。彼は、ただ女癖が悪いだけよ」


 私以外の四人がウ~ンと唸った。

 その、ただ、が四人には引っかかるらしい。


「ミーアが男だったなら、ダンのこともいい奴だと言って、肩を叩いて一緒に飲める。多分好きにすらなるだろう。だが女癖の悪いやつが、大事な娘のミーアに近付くのは......駄目だ。許せん」


 お父様が代表して言った言葉に、茶黒コンビも同意した。

 男三人は同じように力んでいるが、バーバラは雰囲気が違う。


「ミーアの言う事のほうが正論よ。あの時、ミーアを守る騎士のように、適切かつ控え目に行動していたダンのことを考えると、到底悪い人物とは思えないわ。むしろ極上の男かもしれない」


 その言葉に、男三人が不服そうにしているのをちらっと見てから、バーバラは更に追加した。


「後は、ミーアがどう判断するかに任せるべきじゃないの?」


 私は考えてみた。

 やはりお礼はちゃんとするべきだろう。

 私は思い切って、ダンを家に招待することに決めた。我が家の群れ(茶黒コンビ兄達や使用人含め)のリーダーは、いつの頃からか、多分私なのだ。


「留学先の友人二人と一緒だったわ。彼らも一緒にお呼びして、お茶会をしましょう。一人だけお呼びするより良いと思うの」


 パーシーが友人達はどんな雰囲気の人物だったかと聞いた。


「類は友を呼ぶってね。遊び人風だったりする?」


 これには、バーバラが浮き浮きしながらすぐに答えた。


「三人揃って、それぞれに格好よかったわ。私は背の高いライラック色の髪の人が一番好み」


「いいや。あの男も駄目だ。絶対にモテる。モテすぎる男は碌な奴じゃない」


 どうやらお父様は、バーバラが気に入ったせいで、ソロモンのことも嫌いになったようだ。もう一人の二コラもかなり素敵だけど、話題に挙げないほうが良さそうだ。


「お礼にお呼びするのだから、態度を改めてね。私の自慢のお父様と、お兄様たちなのだから、素敵に振る舞って欲しいの」


 三人の顔がグニャッと緩んだ。それを見たバーバラが、私に向けて親指を立てた。


「淑女は何処に?」


 口元を隠してホホホと笑って、バーバラが横を向いた。最近は、ふ、ふんという口癖が出なくなっている。


 私は選びに選んだ封筒と便箋を使い、四年前のお礼と、お茶会の招待について書き、ダンの家宛に届けた。そこに居るかは分からないけど、その内には伝わると思ったのだ。

 返事は思いがけなく早く返ってきた。

 返信には、喜んで招待を受けるとあり、日程もこちら側に任せると言う。


 それで、お父様とパーシーとビリーの仕事の都合が合う六日後を指定した。

 それにも丁寧な返事が届き、その途端にノーザン伯爵家は慌ただしくなった。


 お茶会は時々開いているので、特に準備に気構えるようなことでもないが、今回は気合の入り方が違う。


 更には、お父様と茶黒コンビも、違う方向に気合が入りまくっている。

 お茶会の日程を連絡をしてすぐに、ビリーの母親のレティ夫人から手紙が届き、何があるのかと聞かれた。いつもは無頓着なビリーが、このお茶会に向けてスーツの直しや、シャツの新調、タイやポケットチーフ、指輪に至るまで、厳選しているそうだ。

 平民のパーシーの分も含め、二人のおめかしについて兄二人がアドバイスを与え、時にそれがケンカに発展するので大層うるさいと、こぼしている。


 申し訳なく思い、ミーアは事の次第を書いて、お詫びと共に送っておいた。その結果、レティ夫人までその集団に参戦し、オーソン伯爵家は更に大騒ぎ状態に陥ったらしい。


 お父様はお父様で、毎日髪形を変えてきては、これはどうだと聞きにやって来る。威厳があり、かつおしゃれでハンサムに見え、彼ら三人に負けない髪形を苦心して研究しているそうだ。


「私が最年長者だからな。威厳こそ必要不可欠」


 そう言うお父様の髪形は、変えるごとに面白い方向に向かうようなので、私は何とか元に戻させようと頑張っている。


 私とバーバラは、しごく真っ当に、お茶会の準備に取り組んだ。ただいつもより、少し高品質で見栄えのするものを選んでいるだけなのだが、それが結構大変だった。


 今の流行りのお菓子や最新流行のお茶を手に入れるのは、思いのほか大変だし、家で一番良いティーセットや、一番良い銀器を使おうと思ったら、出して磨いて準備させないといけない。


 伯爵家には家政を仕切る奥方がいないのと、今までは子供だけで気楽なお客様しか来なかったため、そういう部分が少しおざなりになっていたのだ。リンスは侯爵令嬢だけど、ミーアの姉なので、かしこまったおもてなしを考えたことは無かった。


 これを機に、家政の見直しをしなければと私は決めた。私達が大人になれば、こういう機会はもっと頻繁になるし、もっと気の張るお客様を迎えることもあるはずなのだ。


「ミーア、リンスは呼ばなくてもいいの。彼女もあの時一緒にいたでしょ」


 バーバラに言われて、私はお茶会のお菓子のリストから顔を上げた。


「リンスは、婚約するまでは、年齢の近い男性と知り合いになってはいけないの。だから、男性が来る集まりには参加できないって、前に言ったでしょ」


「変なの。あんなにかわいいのだもの。きっとものすごくもてるだろうに、残念ね」


 たぶん、リンスが誰かを好きになってしまったら困るからだろうと、想像していた。リンスはトーナメントで優勝した貴族猫と、結婚することが決まっているのだ。


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