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捨てられ猫姫の憂鬱  作者:
第二章 ミーアの困った姉妹たち

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33/57

大人の貴族猫教育は大切らしい

第二章の最終話です。

 部屋の中がシンとした。

 パーシーとビルは引きつっているし、お父様はオロオロしている。


 そしてバーバラは膝に手を重ねて置き、背筋を伸ばした完璧な姿で座っている。

 私はお芝居を観ているような気分になり、椅子を少し後ろに移動させて座り直した。


「ミーア、何をしているんだね」


 お父様に聞かれて、ふ、ふんと胸を張ってごまかした。お父様はこれで誤魔化されてくれるが、茶黒コンビは面白がられているのに気付いたようだ。


「元はと言えば、ミーアのために調べたんだぞ。何で僕たちが責められる羽目になるのさ」


 パーシーの言葉にビリーも乗っかった。


「そうだ、話がズレている」


「別にズレていないわよ。そこが核心だと思うわ」


 バーバラがピシッと言うと、二人が言葉に詰まった。

 先程からバーバラの舌鋒が鋭い。どんどん鋭さを増していく。


 今度はビリーが先に降参した。


「貴族猫の女性は平民猫との付き合いを嫌がる。理由は……」


 バーバラが、それは? と促すと、なぜかパーシーがビリーの肩を叩き、代わって答えた。


「それは、貴族猫の大人教育で習ってくれ」


 私が調査を依頼した時に、大人教育を受け終わったか聞かれた事を思い出した。どうやら、とても大切な事を教わるようだ。

 パーシーは続けて言った。


「大雑把にまとめると、平民猫は強いオスを求めるので、貴族猫の男はすごくモテるんだ。普通の猫よりずっと強いからね。黙っていてもメスが寄ってくる」


「ただモテるだけなら問題はないと思うけど」


 バーバラが首を傾げたので、そうなんだけれど、と言い淀んでからパーシーは続けた。


「平民猫は子供を作りたくて寄ってくるんだ。だけど貴族猫が相手では子供が出来ない。だからあまり好ましくない」


 私は以前聞いた話を思い出し、口を挟んだ。


「平民猫と恋に落ちることもあるって聞いたけど?」


「そういうこともあるよ。でもさ平民猫は早く年を取ってしまうから、辛い思いをするよ。だから恋人でいる期間は短いのが普通だ」


 ミーアはダンがすごくもてている様子を想像してみた。すると、嫌な気分が湧き上がってきたので、それを振り払おうと頭を振ってみる。

 そこでバーバラがもっと具体的なことを質問した。


「ねえ、強いオス猫ってどう決まるの?」


「それはメスを争ってバトルするんだよ。最終勝者が強いオスだ」


「何匹もの雄が集まって戦うの? 何で集まってくるの」


 そこからはビリーが説明を買って出た。


「雌が匂いを出して誘うんだ。その匂いで雄達が集まり戦う。それに勝ち残った雄がやっと、雌に近付くことができる。その一匹だけに権利が与えられるのさ」


 ふ~ん、とバーバラと私が半分頷いた。


「それから少しずつ傍に近寄っていって、毛繕いをしてあげたり、何かプレゼントしたりしてご機嫌を取る」


 私は感心した。


「大変ね」


「そうなんだよ。そうして少しずつ仲良くなって、彼女に引っかかれたり、叩かれたりしないのを確認しつつ、やっとカップルになれるんだよ」


 やれやれという様子でビリーが締めくくったので、私は労っておいた。


「お疲れ様です」


 そこで、バーバラがまた質問した。


「叩かれたりしたらどうなるの?」


「あなたはタイプじゃ無いわ。あっち行って、ということだ。すごすごと去るしかない。戦って勝ち抜いて、がんばって尽くして、振られるってこと」


 私は猫の世界は大変だなあ、と雄たちをかわいそうに思った。

 それに、うまくできていると感心していたら、パーシーが、猫の世界だけじゃないぞと言う。


「それは人間の世界でも同じだ。一番はじめのバトルがないだけで、後は同じことだよ」


 お父様がハッとしたように言った。


「そうだね。全く一緒だよ。詩やプレゼントを贈ったり、必死でダンスに誘ったりしてご機嫌を取るのだ。人間の女性は叩いたりしないけどね。代わりに言葉と態度で打ちのめしに来る」


 ああ、そうそう、と茶黒コンビが相槌を打った。


「きついのは、ご機嫌取りのプレゼントはにこにこして受け取ってくれるので、これは脈ありと思って手を握ったら、途端に振り払われるパターンだよ」


 ああ、そうそう、猫の雌にもいるよな、と茶黒コンビがまた相槌をうった。


「始めのバトルに当たるのは婚約を取り付ける根回し合戦かな。これには地位とお金が物を言う。時に本人の意思を無視して進むことがあるので、そういった結婚は不幸せな家庭を作り出してしまう。猫の国のやり方の方が正しい気がするね」


 随分と大変そうで、私は不思議に思う。そんなに苦労してまでカップルになりたいのは何故だろう。それを聞いてみたら、パーシーがちょっと待ってねと言い、少し考え込んだ。


「妹に聞かれた時に、なんて答えたか思いだそうとしたけど、確か大人の貴族猫教育を受けろと言ったように思う」


「結局それなのね。わかったわ、早めに受けられるよう、宰相に頼んでおきます」


「ダンに会うのはその後のほうがいいよ。それからにしよう」


 三人揃って嬉しそうにそう言う。なんだか丸め込まれたような気がするけど、これでいいのかしらと首を傾げていたら、バーバラが助けてくれた。


「待って、今日何処に行って何をしたか、まだ聞いていないわよ」


 あ、そうだった。私はびっくりした。何の話をしていたのかすっかり忘れていたのだ。キッと三人を睨んで、答えを待った。引かない気構えの私とバーバラを見てから、パーシーが渋々答えた。


「ダンの家の前に行ってみた。ダンが二匹の雌猫に囲まれていた。ミーアに会わせるのを考えたほうがいいかもしれないと思った。それで1杯飲みながら相談して戻ってきた。以上だ」


 始めから、そう言えばいいのに、何をためらっていたのだろうか。パーシーの言葉を、バーバラがわかりやすく言い換えてくれた。


「ダンを偵察に行ったら、女を侍らせていて、ミーアを同じように扱わないか心配になった。そして酒場で散々こき下ろしてから帰ってきたってことね」


 バーバラが私の方に向き直った。


「ミーア、質問はない?」


「雌猫って、横縞の長毛種?」


「白い猫と黄色っぽい茶色の猫だったよ」

 パーシーの言葉を聞いたら、急にカッと腹が立ってきた。


「一体何人ガールフレンドがいるのよ」


「そうだろう。私もそう思って、言い出せなかったんだ」


 お父様が嬉しそうだ。


「僕たちもミーアのことは妹のように思っているんだ。だから変な奴を近付けたくない」


「そうだ。あんな女癖の悪いやつは論外だ」


 三人ともすごく嬉しそうにダンの悪口を言っている。

 バーバラが、私のドレスの袖をちょっと引っ張った。


「まずは、その大人の貴族猫教育とかいうの、受けてから考えなよ」


 今日のバーバラは、すごく頼りになる。



次回から、『第三章 隣国から来た男達』にはいります。

ミーアが十五歳になってからの話です。


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