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捨てられ猫姫の憂鬱  作者:
第二章 ミーアの困った姉妹たち

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ダンのガールフレンド

 数日後、パーシーとビリーが、ダンの情報を持って伯爵家にやって来た。


 お父様はエントランスで二人を引き止め、ミーアに伝える前に、まずは私に見せてくれと頼み込んだそうだ。


 三人はお父様の部屋に入り、一時間近く出てこなかったという。

 それから三人で、何処かへ出かけて行ったそうだ。


 私がバレエの練習から戻ると、すぐにバーバラとベルがやってきて、それらの事を、教えてくれた。


「お父様の嫉妬と焦り様が滑稽ね」


 辛辣な物言いが妙に大人っぽく、普段のバーバラとは全く様子が違う。


「ねえ、バーバラ。そういう話し方は誰に教わったの? とても大人っぽいのね」


 ふ、ふんと胸を張ってから、


「これはね、商団のオーナーの奥様の喋り方よ。時々近くで見ることがあって、面白いから覚えたんだ」


 ああ、だから大人っぽくて切れ味が鋭いのね、と私は納得した。


「それはそうと、三人でどこに行ったのかしら」


「きっと、ダンの家を見に行ったのよ。男のやることなんて、底が知れているわ」


 多分、商団オーナーの奥方を真似たと思われる、バーバラの言葉使いに感心しつつ、私はどうしようかと悩んだ。お父様の様子から、失礼な態度を取りそうで不安だった。

 でも、パーシーとビリーが一緒だからと不安を宥め、着替えを済ませて三人が戻るのをジリジリしながら待った。



 お父様達が帰ってきたのは食事の時間少し前だった。どこかで一杯飲んできたようで、少し顔が赤くなっている。私はお帰りなさいの挨拶をしてから、3人の顔を伺った。

 お父様は、目が少し据わっている。

 パーシーとビリーに状況を聞こうと目を移すと、2人も不機嫌な顔付きだ。


「何かあったの?」


「いや、別に」


 いつも冷静なパーシーが、不機嫌そうに短く答えた。


「酒を飲んで少し酔っただけだよ。心配しなくても大丈夫」


 ビリーが、愛想の良い貴族モードでにこやかに話した。これは絶対に何かあった。私も人間の貴族たちとの接触で学んできているのだ。

 いつもラフな感じのビリーが、貴族モードになるのは、隠したいことがある時なのだ。


 私はビリーに向かって聞いた。


「ダンの事を調べて、結果を伝えに来てくれたのでしょ。それで?」


 ビリーがニッコリと笑って、後でねと言い、お父様の腕を押して行ってしまった。

 さすが貴族。ポーカーフェースが身に染み付いている。私はあきらめて、向こうから話してくれるのを待つことにした。


 夕食は二人を加えて五人でとることになった。

 三人共いつもと違い、不機嫌だし会話もギクシャクしていた。

 バーバラが私にこっそり、早く食べ終わって、二人で問い詰めようと提案したので、二人は急いで食事を進め、いつもの半分の時間で食事を終了させた。


「デザートはお父様の部屋で頂きますから、そちらに運んでもらいます」


 私が宣言すると、男三人がオタオタし始めた。それには取り合わずに、お茶とデザートをお父様の私室に運ぶよう使用人に言いつけ、さっさと食堂を出ていった。


 バーバラが三人のお尻を叩いて追い立て、お父様の部屋で三人を長いソファに並んで座らせた。

 その向かい側の真ん中に、おもむろに座り込んだバーバラには、何故か貫禄が感じられた。

 私は四人の様子を見ながら、一人掛けのソファに収まった。ここはバーバラに任せるのが正解のような気がしたからだ。


「それで、何処に行って何をしてきたのか、話してもらいましょうか」

 

 三人はお互いを見やりながら、まごまごしている。

 バーバラはパーシーを選んだ。


「パーシーが代表して話してちょうだい。他の二人より冷静に話をしてくれそうだわ」


 パーシーが弾かれたように顔を上げた。

 二人に、どうしよう。何処まで話そうと小声で聞いている。

 私はパーシーがこんなに困っているのを見たのは初めてだった。よほど言いにくい事情がありそうだ。


「三人だけで、少し相談させてもらえないか」


 ビリーがバーバラと私を交互に見ながら言った。結構必死な顔付きだったので、私は頷いた。ところがバーバラがダメ出しをしたのだった。


「都合の悪いところを隠す気ね。駄目です」


「ああ、妻のマリーそっくりだ。懐かしいよ。でも、ああ」


 パーシーとビリーがお父様の方を振り向いている。変な顔をしているけど、お父様は顔を覆っていたので気付いていない。


 バーバラのお母様か。

 私も女王と何処か似ているのだろうか、今度宰相に聞いてみようと思った。


 パーシーが覚悟を決めたように話し始めた。


「じゃあ、話すね。まずは、君から依頼のあった貴族猫の身元を、条件を絞って探したんだ。十三から十八歳の男で、グレイの毛で青と黄色のオッドアイ。それは三人いた」


 私は身を乗り出していた。その様子をお父様が嫌そうに見たが、ツンとして無視した。


「それで」


 促すとパーシーが続けた。

「一人ずつ確かめようとしたけど、ダンという名をミーアが連絡してくれたから、すぐに絞り込めた。ダン・パークス、十五歳。パークス伯爵家の末っ子で二男。上に姉が二人と、兄が一人いる。放浪するのが好きで、アチラコチラをうろついていたが、最近ここに戻ったところだ」


 そう言ってから、どう? というように私を見た。


「ありがとう。それで、何を隠しているの。隠さなくてはいけないことは、全然無いと思うのだけど」


 ビリーが少し体を前に乗り出してきた。


「ミーアから相談された時に、縞模様の長毛種の猫といたって言ってただろ。だから、彼のガールフレンドとの付き合いも調べようと思ったんだ」


「ガールフレンド」


 私は思いがけない言葉を聞いて、ちょっとポカンとしてしまった。


「あれは平民猫だったわよ」


「平民猫とも付き合うことはできるよ。人間ともね。子供ができないだけで、後は一緒だって教えられたでしょ」


 そういえば、そうだけど、私は平民猫をボーイフレンドにしようとは思えない。私自身、人間としての意識の方が強いせいだろう。


「それで?」


「うん。平民猫のガールフレンドは、何人かいるようだよ」


 ふうん、と言ってお父様を見たら、目を逸らされた。バーバラを見たら難しい顔をしている。それでバーバラに尋ねた。


「その難しい顔は何? ガールフレンドがいては駄目なの?」


 バーバラはが私を見てからお父様達に目をやり口を開いた。


「パーシーとビルには、平民猫のガールフレンドはいないの?」


 二人は飛び上がった。実際にジャンプしていたので、よほど驚いたのだろう。

 お父様がバーバラをたしなめたが、バーバラは答えを待って、黙って二人を見つめていた。二人が観念した。


 まずパーシーが白状した。

「いた事はあるよ。今はいない」


「僕も同じだ」


 ビリーもそう言うのを聞いて、バーバラが畳み掛けた。


「それで、貴族猫のガールフレンドと人間のガールフレンドはいるの?」


 ビリーは貴族猫のガールフレンンドがいて、パーシーは人間のガールフレンドがいるそうだ。

 バーバラがまた質問した。


「貴族猫は平民猫のガールフレンドをどう思うものなの?」


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