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捨てられ猫姫の憂鬱  作者:
第二章 ミーアの困った姉妹たち

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誘拐

 今日もリンスがやってくる日だ。

 このところ、2週間に一度は必ず遊びに来る。そして、人形やゲームで遊ぶけど、バーバラとのケンカごっこも定番になった。

 この二人は気が合うようなのだ。


 昨夜バーバラにも、実はリンスは双子の姉だと伝えた。お父様と三人だけの秘密で、絶対に内緒だと約束させた。


「ねえ、リンスがミーアの姉なら、私もリンスの妹なの?」


「そういえば、そうよね。三人姉妹だわ」


 父がこれ以上無いほど、表情を緩めた。デレデレだ。


「私が三姉妹の、しかもこんなに可愛い娘達の父親!」


 バーバラがお姉様って呼んでみようかな、と言うので、それは止めた。

 何故かと聞かれて、口ごもってしまった。


「私もそう呼んだことが無いもの。リンスはリンスよ。それでいいの」


 それに、最近リンスは周囲の者たちからもリンスと呼ばれるようになっている。

 使用人たちはもちろん、宰相までも、リンスと呼んでいる。だって、プリンセス・ブルーより呼びやすい。


「絶対にお姉様って呼んでやる」


 ちょっと意地の悪い表情でバーバラが言って、ニコッと笑った。


 だから私は、少し緊張している。突然、お姉様とか、照れてしまって無理。


「リンスの馬車がこないか外で見ているわね」


 そう断って、屋敷の前の道を歩き始めた。リンスが屋敷に来る前に捕まえて、バーバラにリンスと姉妹だと伝えたことと、お姉様と呼んで照れさせる気でいることを伝えようとしたのだ。


 家の前から少し歩くと、小さい公園があって、木が生い茂っている。その道端に茶色の縞模様の猫がいた。私の水着、あの悪夢の代物によく似ていたので、目が釘付けになった。


 長毛種であの縞模様って、実際にあるのだと納得しながらも、やっぱり好きじゃないと思った。

 その猫はまばたきの挨拶をしたので、私もまばたきの挨拶を返した。


 その後ろの茂みから、今度は、グレイの猫が出て来た。少し大柄な若い猫で、目は青と黄色のオッドアイ。そして、こちらは貴族猫だ。


 じっとこちらを観察している。私も静かに目を見つめた。相手はかなり強い。


 そうしている内に、後ろにいたルルのウッと言うくぐもった声が聞こえた。

 慌てて後ろを見ると、ルルが口を塞がれて後ろから羽交い締めにされている。


「ルル!」


 二人の男のうち、もう一人が私に手を伸ばしてきた。


「騒ぐな。こっちに来い」


 腕を引っ張られたので、叩きのめしてやろうかと思ったが、貴族猫教育で教わった事を思い出した。


『即、命に関わる場合でなければ、人間を超える力を見せないこと』


 迷った隙に、私は縄で縛られてしまった。口にも布を突っ込まれたので助けを呼ぶこともできない。


「よし、行くぞ」


 男はそう言ってから、私を肩に担ぐと走り始めた。ルルを捕まえていた男は、その場にルルを放り出して走り始めた。


 ルルが解放されたので、私はホッとした。これなら後は、隙を見て猫に変身して逃げたらいいだけだ。


 男たちは公園の木が生い茂っている中を走っていく。あらかじめ決めていたか、いつも使っているかだが、どうも常習犯のような気がする。あまりにも手際が良い。


 目の横にリンスのいつもの馬車がチラッと見えた。窓越しのリンスの驚いた顔も一緒に見えた。私はウインクして大丈夫と知らせておいたけど、見えなかったかもしれない。


 男たちは迷いもせずに一目散に走っている。公園と森の間の小径を走るので、木の枝や葉っぱがドレスや顔を引っかいていく。ふと足元を見ると、さっきのグレイの猫が後ろから付いて来ていた。しなやかで、軽い走り方だった。私はさっきと同じように、じっとオッドアイを見つめた。


 私は黄色い方の目が好きだわ、そんな事を考えて、ちょっとだけドキッとした。


 男たちは公園から続く森を走り抜け、そこから下町の曲がりくねった道に入って行った。狭い道路の両横には建物がぎっしりと建っている。時々ドアが開いて、人が出てくるけれど、誰も担がれている私を気にもしないようだ。


 体がこわばって、痛くなってきた頃、男たちは一つのドアを開けて、中に入り込んだ。

 付いて来ていた猫も、足元をするりと抜けて部屋に入り、隅の方に隠れた。


「上手くいきましたね。今回のは特に上物だ。いい金になりますね」


「そうだな。貴族の娘だ。捜索が始まる前に、なるべく早く売っぱらおう」


 そう話しながら、床に私を転がした。転がって行った先には、あの猫がいた。猫はもう少し下がり、家具の下に隠れた。


 男たちは私の口に突っ込んだ布を取り、騒いでも誰も来ないからと言い置いて、部屋から出て行った。

 ドアに錠前を閉めるガチャンという音が2回して、足音が遠ざかって行った。

 それを見計らって、猫が家具の下から出てきた。


「おい、あんたなぜ逃げない?」


「貴族猫教育で、人間の前で猫になったり、人間にできないような事をしたりしてはいけないって教わったからよ」

 

 そう言ってから私は猫になり、縄から抜け出した。

 猫の姿になり、自分の脚の色がブルーなのに気付いた。この状況に興奮していたせいか、毛色を変えるのを忘れてしまったのだ。慌ててグレイの毛色に変えて、チラッとグレイ猫を見ると、彼は人間に変身していて、こちらを見ていないようだ。


「ここから出ることが出来るかしら」


 私が窓を開けて見ると、外側に鉄の面格子がはまっていた。これでは格子を壊さないと出られない。壊せるけど、人間離れしたことは極力避けたいのだ。


 室内を見回したら、天窓があった。高い場所なので、人間がここから逃げるのは難しいと思う。だけど、猫なら十分に出ることが出来るだろう。窓を開けられたら、の話だが。

 幸い貴族猫は、そのどちらもできる。私は人間の姿に戻り、ジャンプした。そのまま、窓枠に捕まり、窓ガラスを外側に倒してから、窓から屋根に出た。


 窓から下を覗くと、グレイ猫の少年がドレスを丸めて縛り、放り投げてよこした。

 私はドレスを受け取って横に置いた。すぐにグレイ猫の少年が飛び上がって来たが、窓から出るのがきついようで、一旦猫になってから窓を抜けた。それからすぐに人間になって、天窓を閉めた。

 そして、にやっと笑って、手を打ち付けてきた。パチンと手を打ち合わせると気分が高揚して笑い出してしまった。なんだかすごくおもしろかった。人間に出来ない事をしてはいけないので、外でこんなことをするのは初めてなのだ。すごくわくわくする。




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