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捨てられ猫姫の憂鬱  作者:
第二章 ミーアの困った姉妹たち

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バーバラとリンス

 お人形を買いに行った1週間後、リンスが伯爵邸に遊びにやってきた。


 さすが王女様。綺麗な立居振る舞いで、屋敷の使用人たちを驚かせ、お父様に至ってはファンになってしまった。


 以前、バレエ鑑賞で会った時は、あまり印象に残らなかったそうだ。侯爵夫妻の迫力で霞んでしまっていたのだろう。

 リンスは目立つ。こんなに可憐で綺麗な子が目立たない訳がないのだ。


 今回はバーバラにもリンスを紹介した。


 マナーの面で失礼がないか教師に相談したら、挨拶は完璧と太鼓判を押された。食事マナーや会話での言葉遣いは、まだちょっと不自由だそうなので、挨拶のみとなった。

 バーバラは貴族令嬢として恥ずかしくないご挨拶を披露し、屋敷の皆を感激させた。特にお父様は、目をウルウルさせて喜んだ。


 その様子に、リンスは驚いたようだ。たかが挨拶一つで何を騒ぐのだろうと、きょとんとしていた。お茶を飲みながら、バーバラのこれまでのことを話すと、ぜひ話をしてみたいと言い出した。下町の生活についても聞いてみたいと言うのだ。


 それでバーバラを呼んでもらった。


「バーバラは、時々下町言葉が混ざって、乱暴な言葉遣いをするけど、怒らないでね。もう少しで淑女になるから」


 リンスは頷いた。

「乱暴な言葉遣いが楽しみよ。聞いたことが無いもの」


 そうね。淑女になってしまったら、乱暴な言葉も無くなってしまうから、今のうちね。


 バーバラが侍女に伴われてやって来た。

 そして三人でお茶を飲みながら、仲良く話をした。

 始めはそうだったのだ。


 雰囲気がおかしくなったのは、バーバラが、パーラーでミーアのプリンパフェを分けてもらった、と話したところからだった。

「ミーアったらクレープを全部譲ってくれたのに、大好きなプリンも半分私に分けてくれたの」


 バーバラが目をキラキラさせながら喋っている。

 それを見るリンスの目が何故かとんがって来た。


「私だって、一緒にパーラーでイチゴのパフェを食べたわ。プリンは苦手だし、私はおねだりなんかしないもの」


 バーバラの目は細くなっていった。これは猫のケンカ開始の睨み合いに、よく似ている。でも、どこにケンカの要素があるのかしら。


「ミーアは毎日私にマナーについて教えてくれるの。すごく良いお姉様なのよ」


「ミーアはいつも私のために、新しい事を用意してくれるの。とっても色々考えてくれるのよ」


 ここで私は、ボクシングの試合のカーンという音が聞こえたような気がした。開戦の合図だ。


 リンスが王女のパワーと威厳で、高圧的な上から目線なのに対して、バーバラは下町スタイルなのか、下から睨め上げるような感じだ。どちらも怖い目つきをしたまま睨み合っている。


 猫だと次は戦いの短い低音ボイスで威嚇、次に濁音の叫び合いと体当たりに進むが、そんな事をここでされたら嫌だ。

 それにバーバラは人間なので、リンスよりずっと弱い、はずだ。


 リンスの侍女たちの目も、困ったことに臨戦態勢。バーバラは脅威ではないわよね。

 私は思いっきり、侍女二人を睨みつけた。それで、二人は平静を取り戻したようだ。子供のケンカに本気出さないでください。


 困ったなあ。どうしようかなと思ったが、急に面倒になってしまった。

 だって、ケンカの理由がよくわからない。


 それで、わざとガタッと音を立てて椅子を立った。

「スイーツの追加を頼んでくるから、仲良く待っていてね。リンスには、イチゴ、バーバラにはチョコレートのアイスクリームね。私はリンゴソースにするわ」


 そう言って、素早く部屋から出た。引き留められたら面倒だ。侍女たちに、お願いねの目配せをしておいた。

 ベルにアイスクリームを運んでもらい、一緒に戻ってくると、二人はむくれた顔で黙って横を向いていた。

 どうやら仲直りはしていない。でも戦ったりもしていないよう。とりあえず、よかった。


「はい、イチゴ、チョコレート、リンゴよ。さあ、どうぞ」


 どれもすごく美味しそうだ。薄く焼いたラングドシャが添えられている。我が家のコックは腕が良いもの。

 バーバラが、なんだか甘えてきた。


「ミーア、私リンゴも食べたいな。少し分けて」


「良いわよ。リンスも食べてみる?」


「あの、私は分けて食べるなんてしたことは無いわ。そんなの、駄目なのではないの?」


「そうかしらね。今度マナーの先生に聞いておくわね。じゃあいらない?」


 バーバラが妙に甘えた声で、催促した後、淑女会話だけど、微妙に嫌な言い方をした。


「駄目だと思っている人に勧めたらいけないわ。さすがに侯爵令嬢はお品がよろしいこと」


 これは淑女教育の次の段階、きれいな言葉で相手を巧妙に攻撃する技ではないだろうか。もうそんなところまで進んでいるの? 才能があるのかしら。


 バニラアイスクリームとリンゴのジュレを、サーブ用スプーン二匙分くらい、チョコレートアイスの横に盛って渡した。バーバラは凄く大げさな仕草でリンゴのアイスクリームを口に運んだ。


「おいしい。ミーア、ありがとう」


 リンスが悔しそうな、泣きそうな顔をして見ている。なあんだ、やっぱり食べたいのね。リンスのイチゴアイスの横にもリンゴのアイスを載せてあげた。


「食べてみて。ここにはマナーの先生も、お小言を言う大人もいないわよ」


 リンスは、チラッと侍女たちの方を見た。侍女たちはスーッと目をそらし、知らん顔をした。

 私がもう一度、どうぞと言うと、パクッと口に運んで、美味しいし、なんだか楽しい、と言って口をムニョムニョさせた。そしてパアッと笑顔になった。


 可愛い。

 バーバラも驚いたようだ。

 二人とも、さっきの睨み合いが嘘のように笑顔になっていた。


 バーバラがチョコレートのアイスをミーアの皿に盛って、チラッとリンスを見た。目が合ったリンスがなあに、という表情をすると、リンスの皿にもチョコレートアイスを盛ってあげた。


「こっちも食べたら。おいしいんだから」


 リンスがもじもじしながらいちごも美味しいのよと言って、自分も同じようにアイスクリームを分けてあげた。

 そして頬を赤くして言い訳をした。


「淑女は頂いたものにはお礼をしなくちゃね」


 バーバラは、横を向いて口を尖らせたけど、やっぱり顔は笑っていた。


 リンスが帰るときに、バーバラがさようならの次に横を向いて言った。


「また来てもいいよ」


 リンスも横を向いて言った。


「来てあげてもいいわよ」


 私は悩んだ。これは仲が良くなったというのだろうか。



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